第3話
さて、視線での追及を無理やりに振り切った私は、そそくさと部屋に戻って籠城したのは言うまでもない。部屋の中までは拓翔も入ってくるけど、私の許可がなければさすがに入らないので、それを使った。
「どうしよ……」
お外で頭を冷やそう作戦は失敗に終わり、むしろさらに家族仲を悪化させてしまった。私のちょっとした勇気を返してほしい。
「とりあえず、書くか」
前世を思い出す前の私が書いていた、ちょっとした日記帳。他人の日記帳を見るようで、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。しかし、それくらいしか秘密を守れそうなものがないので、その日記帳に今後起こり得ることを書くことにした。
『どうして? 私は悪くない!』
『パパもママも弟に構ってばかり……‵アタシが馬鹿だから‵愛してもらえないのかな』
『いまさら、今更……いい子になっても遅いし……急に勉強ができるようになってもおかしいし』
『わたしは、どこでまちがえたんだろう』
『わたしの味方は、拓翔だけ』
『でも、拓翔は……違うんだろうなぁ』
めくりすぎて現れたページに、私は衝撃を受けた。この三藤雪、ただの馬鹿で超絶わがままなお嬢様ではなかったらしい。
「悲しい、子……」
親の気を引きたくて、わがままを演じ、でも勉強は手を抜かずにやり続け。だけど、どれだけ頑張っても弟には勝てない。自分がやっと理解したものを弟は一瞬で理解して終わらせてしまう。
そのスピードを比べられて、使用人にさえも陰口を叩かれる始末。
正真正銘、この子の味方は、篠崎拓翔ただ一人だったんだ。
「そして……わがままの演技をやめるタイミングを……逃したってわけか」
でもそれでも、自分の味方である篠崎拓翔に自分が家族にさえも疎まれている姿を見せたくなかった。見せたら、今度は篠崎拓翔も失望して離れていくと思ったから。
『弟は……好きじゃない』
『だって、あれは……わたしを』
不自然に途切れた、私が記憶を思い出す直前の日付の内容。最後の最後に爆弾持ってくるのやめよう、怖い。弟に何があるって言うんだ。
「雪お嬢様」
「なに、拓翔」
「お茶をお持ちいたしました、入室の許可を」
外へ放り出した拓翔は、まだ部屋の外に待機していたらしい。お茶を持ってきたという拓翔に、本当に持ってきたのか不安になるが、持ってきていた場合に待たせるわけにはいかない。
「入って」
「失礼いたします、雪お嬢様」
慌てて机に広げていた日記帳を鍵付きの引き出しに片付け、勉強していた痕跡なども全て消す。そして机の上を物だらけにして、ベッドの上で漫画を読んでいた風を装う。
「雪お嬢様、こちらミルクティーです。俺が淹れてきました」
「ありがとう、あなたの淹れるミルクティーは美味しいから好きよ」
彼はどうやら本当に飲み物を持ってきたらしい。湯気を立てるマグカップが、お盆の上に載せられていた。
嫌われ者の雪は、使用人さんたちからも相手にされていない。だからお世話をしてくれるのは護衛である拓翔だけ。そのことも、きっと雪を孤独に追いやったのだろう。
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