第298話会話 トマトの話

「そのままのトマトはだめだけど、ケチャップや料理されたものなら好きという人がいますよね。トマトはトマトじゃないですか。何が違うんですか」

「食感や味が違うんですよ。あと、そのままトマトはトマト力が強いので」

「トマト力ってなに……。おいしいですよ?」

「勇者さんは好き嫌いがないですねぇ。たんとお食べ」

「魔王さんもこんにゃく以外はなんでも食べますね」

「あれは論外です。もはや食べ物の域を超えた何かが潜んでいます」

「すてきな笑顔で意味わからないことを言っている。姿を変えたトマトが許されるなら、こんにゃくも別形態にすればいいのでは?」

「別形態こんにゃく……?」

「そんなに震えなくても」

「トマトの別形態はおいしいからこそ許されているのです。こんにゃくも同様か? 否、こんにゃくはこんにゃく。トマトにはなりえないのです」

「跡形もなく切り刻むのはどうでしょうか。木っ端微塵に」

「それが元はこんにゃくだったという事実がある時点でアウトです」

「気持ちの問題じゃないですか。黙って出せば食べられますよ」

「おつていてくだだださい勇者さん」

「落ち着くのは魔王さんの方です。なんですか?」

「それがこんにゃくだったとわかった瞬間、世界の存続が危ぶまれることになります」

「気を強く持っていただきたいですね」

「とりあえず吐きます」

「消化後にわかったら?」

「胃を取り出します」

「取り出すならお手伝いしますよ」

「い、今はだいじょうぶです。食べているのはトマトですから」

「胃を取り出したら中が真っ赤なのでしょうか」

「そもそも出血するので赤い……って、食事中にする話ではありませんよう」

「言い出したのは魔王さんじゃないですか」

「トマトを見つめて疑問を抱いたのは勇者さんですよ」

「胃を取り出す話の方」

「それはホントにすみません」

「トマトに限らず野菜は嫌われがちだそうですね」

「特にこどもは野菜嫌いですねぇ。食べてもらうために形態変化するのでしょう」

「このトマトソースおいしいです。こんにゃくもソースにしてみましょうか?」

「こ、こんにゃくソース……?」

「また震えてる」

「そんなおそろしいことやめてください。ぼぼぼぼぼくの命があばばばばば」

「たしかに、こんにゃくソースは想像しても食欲はそそられませんね」

「はあ……。考えたら悪寒が止まりません」

「こんにゃくの話をするとトマトの潜在能力がより際立ちますね」

「トマトはデザートにもなるのです。食べてみてください」

「あ、すごい。甘いですね。おいしいです」

「これがこんにゃくにできますか⁉」

「やかましいですね。トマトにはトマトの良さ、こんにゃくにはこんにゃくの良さです」

「ミニトマトを口に放り込む勇者さんがかわいいので落ち着いてきましためちゃくちゃ写真撮りたいです心が落ち着かないそわそわそわそわカメラどこカメラどこ」

「全然落ち着いていない」

「赤いトマトが心臓に見えてきました……。落ち着け、ぼくの心臓……」

「それ、茹でトマトなのでふにゃふにゃですよ」

「すでに破裂している……。ああ、なんてことでしょうむしゃむしゃ……」

「自分の心臓を食べていますけど」

「ただのおいしいトマトです」

「よかったですね」

「こんにゃくもこうなればいいのに……。どうしてなのでしょう」

「トマトが苦手な人がいるように、こんにゃくが苦手な人がいるのも当然でしょう」

「そうですけどぉ……」

「あ、いいこと思いつきました。トマトとこんにゃくのコラボレーションです」

「不穏な気配」

「潜在能力高めのトマトとトラブルメーカーこんにゃく。勝つのはどっちだ」

「ぼくがこんにゃくを食べられないので、ついつい食卓に出る頻度が低くなってしまうこんにゃくがいつも冷蔵庫にある理由がわかりました。勇者さんが買っているんですね」

「やっと気づきましたか。この日のために買ったかいがありました」

「この日のためって、トマトとの勝負ですか?」

「形態変化ですよ」

「……ん? どういうことです?」

「あらゆる料理に変身できるトマトの力を見て、私もやってみました。木っ端微塵に」

「もしかして、トマト料理に混ざって……?」

「くすくす」

「いつもの冗談ですよね? ……ね?」

「トマトの勝利です」

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