第297話会話 魔法の杖の話
「私も魔法の杖がほしいです」
「おや、珍しいですね。勇者さんが食べ物以外のものをほしがるなんて」
「ペンにもなって剣にもなって魔法も使えて目潰しもできて指示棒にもなって自由に形を変形できて伸びたり縮んだりして折りたためるような杖がほしいです」
「それはたしかに魔法の杖ですね。異常に使い勝手のいい魔法の杖です」
「どこかに売ってないかなぁ」
「ぼくもそこまでの魔法の杖は聞いたことがありませんね」
「そもそもあの杖、どこで売っているんでしょうか。前に言っていた魔法使いしか入れないお店とやらですか?」
「それもそうですが、杖の素材自体はなんでもいいはずですよ」
「伝説の枝でも?」
「その辺に転がっている枝でも構いません」
「伝説の」
「その辺に転がっている伝説の枝でも構いません」
「拾ってきます。じゃーん」
「足元に落ちていた枝……。以前も言いましたが、魔法を使う人間は物体を通して魔力を安定させています。杖なのはイメージの問題や形が適しているからだと思いますよ」
「形?」
「握ったところから魔力を通し、先端に集中させる。この直線の流れが魔力を一点に集め、貯めることに適していると思われます」
「ふうん。では、たとえばの話、魔力の扱いがめちゃくちゃ上手なら真っ直ぐな杖じゃなくてもいいんですか。先端がくるくるしている杖とかありますよね」
「人によると思いますが、めちゃくちゃ上手な人はもはや杖なしで魔法を使いますね」
「なんで嫌そうな顔をしているんですか」
「ちょっと思い出して……めんどくさい人を……」
「私も杖を使って魔法を使ったら、魔女のように見えるのでしょうか」
「やってみます? やってみてください!」
「いばらまほーはつどー」
「やる気のない声……。のくせに威力がつよっ⁉ いたたたたたぁぁぁ!」
「くいこめーくいこめーどくをいれろー」
「待ってくださいほんとにやばいです魔法強すぎ威力強すぎ勇者さん助けて」
「ぐーるぐーるぐーるぐーる」
「あああああの、聞いてます? ぼくそろそろやばい……ちょっと意識があの」
「はあ……あんまりおもしろくないですね」
「し、死ぬ……。死なないけど死ぬ……。意識が混濁して勇者さんが二人に見えてきましたアッでもかわいい勇者さんが二人もいてぼくとしてはとてもはっぴーかもぉ」
「まきつけーまきつけーもっと強く」
「ぐぇっすみません冗談です離してください勇者さんはお一人でいいですおんりーわん」
「でも、杖に魔力を集中させるといつもより滑らかに魔法が使えた気がします」
「魔法を使う者ならば持っていて損はないと思いますよ。ご自分に合った杖を持てば、より上手に、はやく簡単に強く安定した魔法を使えるはずです」
「……でも私は、魔法の役ではありませんから」
「勇者さんは勇者の役ですものね。ぼくにとっても、彼女にとっても」
「てことで、杖はいりません。ぽーいっ」
「いだっ。ぼく以外に投げちゃだめですよ」
「ごめんなさい。今のは普通にテキトーに投げたら魔王さんに当たりました」
「そうですか。めちゃくちゃ目に来たので狙ったかと思いましたよ」
「私の杖は目潰し用にしましょう」
「今いらないって言ったばかりですよ」
「歩く道に転がりまくっているので拾い放題なのです」
「勇者さんの杖はただの枝――伝説の枝ですからね」
「十本まとめて持ってみましたが、威力は変わるのでしょうか?」
「ええと、どうなんでしょう……。魔なるものは魔力でできていますから、魔法を使えるのが当然すぎて考えたことなかったんですよ」
「魔王さんの魔力量は規格外すぎて参考になりませんからね」
「杖に魔力を溜め、それを複数用意して一気に放出すれば威力は上がるかもしれません」
「しっかり考えてくれましたね」
「実際にやってみればわかると思いますよ」
「伝説の枝でやってみます?」
「勇者さんのやる気があれば」
「うーん、ない」
「ないかぁ」
「魔法はその専門分野の人に任せましょう」
「ぼくも一応専門っちゃ専門ですよ?」
「参考にならないといいました」
「待ってくださいあの魔女っ子も魔女の中では規格外なので参考にならないかと」
「魔法の呪文とか知りませんか? 唱えてみたい」
「呪文ですか。ぼくは詳しくないですねぇ」
「参考にならない……」
「待ってください今から考えますアッ杖捨てないで伝説の枝ー!」
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