藁人形に五寸釘⑬
「さて、初対面の私たちに話しづらいとは思いますが……」
薫はそう切り出した。
大学で佐藤野々花と出会えた悠季たちは彼女の話を聞くため、大学の最寄り駅近くの喫茶店にやってきていた。チェーン店ではあるが一席ずつ広くスペースを取ってくれているため、こういった話を聞く分には良さそうに思える。
「まず最初に、これを行ったのはあなたで間違いないですね?」
薫は自身のスマホに頭を五寸釘で打ち抜かれた藁人形の写真を表示させ、佐藤に見せた。
「……はい」
佐藤はその写真を見た後、すぐに視線をそらし蚊の鳴くような声で答えた。相当参っているのか、彼女はずっとテーブルのコーヒーを力なく見つめている。
「方法はどうやって調べたんですか?」
「……ネットで情報を調べて、道具はホームセンターで揃えました」
そこから薫はつらつらと彼女に向かって質問を続け、佐藤は詰まったりしながらも答え続けた。
「なるほど」
ひとしきり質問を終えた薫はアイスティーを口に含んでから、「では最後に」と口にする。
「理由をお聞きしても? 私たちとしては依頼人に伝えなければならないので」
薫の言葉に佐藤は一瞬体をびくりとさせ、ちらりと視線を悠季に向けた。察した悠季は隣に座っていた薫に、「僕は席を移ります」と声をかけ、注文していたコーヒーを持って窓際の一人席の方に移動する。
正直に言えば、彼女がどんな理由から丑の刻参りを行おうと決意するほど三島を憎むようになったのか悠季には興味があった。呪いと言う非科学的な手段に縋り、実行するほどの恨み。それはきっと生半可なことではないのだろう。聞き耳をたてたくなる気持ちを抑えるて、悠季は窓から広がる景色を眺める。何処にでもあるような街に忙しなく歩いていく人々。この中にも佐藤のように誰かに強い恨みを持った人がいるのかもしれない。そう考えると表面上は何もない日常的な風景が途端に恐ろしく思えてくる。そんなこと有り得ないと思うが、否定しきれない自分がいる。
「毒され過ぎだな」
悠季は苦笑いを浮かべてコーヒーを啜りながら彼女たちの話が終わるのを待った。
「待たせたね」
薫が悠季の肩を叩く。悠季が席を移動して3、40分程の時間が過ぎていた。
「終わったんですか?」
「ああ」
悠季が席を確認すると佐藤は既におらず、コーヒーカップが二つ寂しそうに置かれているだけ。
「必要な情報も得たし、後は依頼人に話をして終わりだ。ついさっき、あの藁人形の供養が終わったと連絡が届いたしね」
「じゃあ、一応この件は解決したことになるんですよね?」
「ああ、依頼された件は解決したことになるだろう、さて我々も帰るとしよう、連日付き合わせて申し訳なかったね」
「えっ、いや、気にしないでください」
悠季はどこか引っかかりを感じつつも、結局口にすることなく薫の後を追うように店を後にした。
その夜、家に帰った悠季はベッドに寝そべりながらスマホでキーワードに『丑の刻参り』と入力して検索していた。10万件以上のページがヒットし、その中から適当に中身を見ていく。
『丑の刻参りは、丑の刻、現在の午前1時から午前3時ごろに神社の御神木に憎い相手に見立てた藁人形を釘で打ちつける、日本に古来伝わる呪いの一種である』
『白衣に扮し、灯したロウソクを突き立てた鉄輪を頭にかぶった姿で御神木に憎い相手に見立てた藁人形を釘で打ちつける行為を七日間続けることで呪った相手を死に追いやることができる』
『行為の最中に他人に見つかるとその効力は失われ、呪いが自分に降りかかる。しかし目撃者を殺すことで呪いを回避することができる』
『丑の刻参りで有名な神社として京都の
『古くは丑の刻参り《うしのときまいり》と呼ばれ、元々は祈願成就を願い行われていたものだったが、後に相手を呪う行為に転じている』
どのサイトをみても同じような説明が続いていく中、一つのサイトに悠季の目が留まった。それはどこかの大学教授が研究していた
はやる気持ちを抑えながら、悠季は一階に降り店の中の古本を漁っていく。
「あった……」
深夜1時を過ぎたころ、悠季はその本を見つけ開く。カチカチと時計の針の進む音が嫌に大きく響いていた。
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