藁人形に五寸釘⑭

「以上が調査結果になります。発見した藁人形も知り合いの神社で供養してもらっていますし、彼女にも金輪際三島さんに近づかないよう念書を書いてもらっています」

 

 薫は今回の調査結果をまとめた資料と佐藤の念書を二人に手渡した。長野は顔色を変えることなく、受け取った調査資料をに目を通し、三島は本当に丑の刻参りの呪いのせいだったことに驚きつつも、解決済みと聞いて気の抜けたような笑顔を浮かべた。

「まじで呪いとかってあるのかよ、いやぁ、マジで焦ったわ」

「三島さん、頭のけがはもう大丈夫なんですか?」

 前回来た際につけていた包帯がなくなっていたことに気づいて悠季が声をかける。

「ああ、もうすっかりよ。こっちの方は傷口から菌が入ったとかでもうちょいかかっちまうらしいけどな」

 三島が上げた右腕には白い包帯が巻かれたままだ。

「……そうですか」

「でも、あんたたちが解決してくれてるんだからもう大丈夫だろ。ありがとな、助手君」

「いえ……」 

 悠季は曖昧な表情で軽く頭を下げるにとどめた。


「長野さんはいかがですか? こちらで問題ありませんか?」

「……はい、私もこれで問題ありません」

 一通り資料を確認した長野は顔を上げた。

「そうですか、……ではこれで依頼完了と言うことで」

「はい、ありがとうございました、こちら依頼料です」

 長野は鞄から茶封筒を薫に差し出す。

「確かに受け取りました」

「じゃあ、私たちはこれで」

「二人ともあざっした」

 長野と三島は手を握りながら事務所の出口へ向かっていく。

「あの……」

「やめておけ」

 悠季は声を遮るように薫が言葉を重ねる。

「何か?」

 立ち止まった二人が振り返りる。

「いえ、お幸せに」

 薫の言葉に三島は照れくさそうに後頭部をかき、長野は小さく微笑む。

「ありがとうございます」


「さて、事件も解決したことだし夕飯でも食べに行こうじゃないか」

 薫は茶封筒の中身から1万円札を取り出してひらひらと宙を及ぶように揺らめかせる。

「薫さん、聞いても良いですか?」

「構わないよ? 何かね、ワトソン君」

「その……、この事件は本当に解決したんですか?」

 薫の動きが止まる。

「解決したに決まっているじゃないか。貴ノ戸神社に向かい藁人形を発見。そしてその藁人形、もとい丑の刻参りを行っていた犯人の自供。藁人形は供養され、彼女は金輪際三島に近づかない。これ以上ないぐらい完璧な解決だと思うけどね」

 薫はゆっくりと自身の席に座ると机の上に肘を置き、絡めた両手の上に顎を載せた。

「それとも何か気になることが?」

「はい」

 悠季は頷く。いつの間にか鼓動が早くなっているのが自分でわかる。

「最初は自分の考えすぎだと思いました。だってドラマや映画じゃないんですから、現実にこんなこと起こるわけないって」

「まぁ、丑の刻参り自体そうそう現代でお目にかかれないと思うけどね」

 にまにまと笑いながら薫が告げる。

「茶化さないでください」

「すまない、続けてくれ」

「えっと、でも考えていけばいくほど、その可能性がありえることだと思う点がいくつも出てきたんです」

「ほう」

「薫さんの言う通り、そもそも丑の刻参りなんてものが実際に行われているんですから、その時点で現実的じゃないなんて考えで切り捨てる必要もないんです」

「つまり、君はこれまでの色々な情報を精査した結果、今回の調査結果とは違う結論を出したと?」

「そうです」

「なるほど、不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となると言う訳だ。なかなかに名探偵の思考だね」

 薫は楽しそうに声を弾ませる。

「薫さん、先に一つだけ質問させてください。」

「どうぞ」

「佐藤さんはどうやって丑の刻参りを知ったと言っていましたか?」

 説を立証させるためにはこの確認が重要になってくる。

「彼女はメールが届いたと言っていたよ。絶対に捕まることなく人を呪う方法としてね。差出人は捨てアカウントだったようでわからなかったらしいけどね」

「……わかりました、ありがとうございます」

「なに、では聞かせてもらおうか、君の推理を」

「はい」

 悠季は大きく深呼吸をして話始めた。


「この事件の犯人は佐藤さん以外にもう一人存在しています」

 

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