藁人形に五寸釘⑫
「正直、俺はあんまりそう言うのを信じてるわけじゃないから」
南雲はそう切り出した。
「呪いとかで人が死ぬのはあり得ないと思ってる」
「……そうだよな」
悠季は南雲の言葉に賛同する。実際に丑の刻参りの光景を見てもしかしたらありうるのでは? その時は思ったが、少し時間がたって冷静になればやっぱり呪いなんかで人が死ぬというのはありえない。あの光景は確かにひどく雰囲気があって、恐ろしかったけど、それだけのはずなのだ。良かったと思う反面、心のどこかで本当にそうだろうかと考えてしまう自分もいるけど、これもきっとあの光景に引っ張られているだけに違いない。
「急に変なことを聞いて……」
「でも……」
悠季の言葉を遮るように南雲が続ける。
「直接的ではなくても、影響はあると思う」
「影響?」
「ああ、例えば、瀬野、大野さんわかる?」
「わかるけど……」
悠季は頭の中で彼女を思い浮かべる。高校生にしてはやや小柄ながら活発で明るく男女ともに人気のある子だ。
「あの子、お前のこと好きだぞ」
心臓が跳ねる。
「嘘⁉」
「ごめん、嘘」
南雲は申し訳なさそうに答える。
「でも、要はそう言うこと。今のはいい例でたとえたけどね。大野さんがお前の事好きって言ったとき少しドキッとしただろ?」
「そりゃそうでしょ」
可愛い同級生から好きと言われて嬉しくないわけがない。
「呪いはその反対で聞いたら少なくとも気分が良くなることはないだろ? なんでとか、どうしてとか、不安とか恐怖心が出てきてもおかしくない。それでメンタルを病んだりとかはあるかもしれないし、その後の生活とか、性格にも影響を与えても不思議じゃない」
「……その理論だと、ただ呪うだけでは意味がないけど、自分が呪われていると気づくとってことか」
「まあ、あくまでも俺の考えだけどね」
「ありがとう、参考になったよ」
「いえいえ、と言うか瀬野誰かに恨まれてるのか?」
「なんで?」
「いや、急に変なこと聞いてきたら誰だって気になるだろ」
「そんなことは……」
そこまで言って悠季は隣にいる南雲の顔をまじまじと見る。
「……ん?」
「たぶん恨まれてるとするなら原因は間違いなく南雲だろうな」
主に学校の女子たち特にクラスメイト。
「えっ? ああ、わるい」
「否定しないのな」
「とぼけるよりはいいだろ」
「……まあ」
「さてとそろそろ教室戻りますか」
南雲はベンチから立ち上がりぐっと体を伸ばす。
「4時限目なんだっけ?」
「数学だったと思うよ」
悠季の回答に南雲は顔をしかめる。
「一番眠くなるときに数学かよ」
悠季は南雲の言葉に同意しながら二人して教室に戻っていく。
「大きいですね」
放課後、午後の授業を眠気と戦いながらなんとか乗り越えた悠季は薫と共にS大学にきていた。高校とは比べ物にならないぐらい大きな敷地内にいくつもの建物が見える。
「県内じゃ有数の大学だからね」
「と言うか、学生じゃないのに敷地に入って大丈夫なんですかね」
「問題ない、用が済んだらすぐに退散するし、不審な行動さえしていなければ学生かどうかなんてわからないだろう」
「それって結局不法侵入なんじゃ……」
「ほら、あまり時間もないことだし行こう。早くしないと彼女が帰ってしまうかもしれないからね」
薫は正門を抜けてすたすたと迷いなく歩いて行く。敷地内にはちらほらとS大生の姿が見えるがこちらを怪しんでいるような様子はない。服装も高校と違って私服だからか時折奇抜な格好の人も確認できる。
「あった、もう少ししたら授業が終わるから出てきたタイミングで声をかけるとしようか」
薫は目的の建物近くで腕時計を確認する。
「ちなみに彼女の見た目はこんなだ。見つけたら教えてくれ」
そう言って薫は悠季にスマホの画面を見せる。画面の女性は肩を超すあたりの黒髪に薄い化粧、たれ目がちで大人しそうな雰囲気がある。見た目で判断するのは早計だが、丑の刻参りをするような人には見えない。
「授業が終わったようだね」
薫の声でスマホから顔を上げると、建物から学生たちが続々と出ていくところだった。その中に彼女はいた。
「薫さん、あれ」
「いくよ、すいません、佐藤野々花さんですよね」
「えっ、はい、そうですけど……」
佐藤は薫を見て、一瞬止まったものの、すぐに怪訝そうな表情を浮かべた。この人が犯人なのか?
「すいませんが、少しだけお時間を頂けませんか?」
薫はそう言って彼女の耳元で何かを囁く。佐藤は目を大きく見開いたあと、スッと視線を下げた。
「……わかりました」
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