藁人形に五寸釘⑪

「相変わらず忙しそうだよな」

「まあ、ね」

 悠季は南雲と一緒に中庭のベンチで昼食を取っていた。

「にしてもあの先輩、すごい美人だね。図書委員長だったっけ?」

 南雲は普段そういうことを言わないので悠季が目を丸くしていると、南雲は「なんだよその反応」と笑っていた。

「いや、南雲でもそんなこと言うんだと思って」

「そりゃ言うだろ、男子高校生だぞ」

「どういう理由だよ、……まあ、何となく分からなくもないけど」

 悠季はパンをかじりながらさっきの出来事を思い出していた。


「あの、瀬野君」

 昼休み前の授業終わり。購買でパンを買ってから図書室に向かおうとしていた悠季を呼び止めた。普段からあまり話したことのない女子だが、クラスのムービーメーカーのような子だった気がする。

「なに?」

「廊下で瀬野君を呼んでくれって先輩が待ってるよ」

 悠季がドアの方に顔を向けると図書委員長の秋野が立っていた。

「じゃあ、伝えたから」

「ああ、ありがとう」

「いえいえ、瀬野君も隅におけないねー」

「そういうんじゃないから」

「はいはい、分かってるから早く行きなよ。先輩待たせるの良くないよ?」

 明らかに誤解してそうだったが、先輩を待たせる方が良くない。悠季はすぐに秋野のに駆け寄る。


「お待たせしました」

「いや、気にしなくていいよ」

「図書委員の仕事とかですか?」

 悠季と秋野の接点は図書委員会だけだから必然的に用があるとするならその件に違いない。

「いや、その逆。瀬野君、今日から今月いっぱいまで昼休みの業務なし」

 秋野は淡々とした口調で告げる。

「えっ、すいません、何かミスってましたか?」

「そんなことはないよ。ただ、やっぱり瀬野君だけ毎日昼休みの当番をするのはどうなんだと前回の委員会で話があがってね」

「でも、その分放課後とかは免除してもらっているので……」

「それは君自身のせいではないだろう? 寧ろ褒められる行動をしていると思うよ」

 秋野には放課後の図書業務を休むために理由を伝えているから、悠季が祖母のお見舞いとバイトをしているわけを知っているのだ。

「ともかく、その結果、圧倒的多数でひとまず今月、と言ってもあと2週間ぐらいだけど休みになったから、友達と昼食を食べるなり、好きに時間を使うように」

「……わかりました、ありがとうございます」

「……ところで、話は変わるが今週末お店を開ける予定はある?」

 秋野が言っているのは祖母の古書店のことだ。彼女は古書店の常連客だったりする。祖母の入院中は土日で悠季がいるときだけお店を開けるようにしているので、不定期に開けているのだ。

「はい、今のところ朝から開ける予定です」

 秋野の表情が一瞬和らいだが、すぐに涼し気な表情に戻る。

「わかった、なら土曜のお昼過ぎ辺りにでもお邪魔させてもらおうかな」

「ありがとうございます。お待ちしてますね」

「じゃあ、貴重な昼休みの時間を浪費させてしまうのも申し訳ないから。私はもう行くね」

 秋野はそう言って、肩口に切りそろえた髪を揺らしながら廊下を去っていく。悠季はその姿を何となく見送りつつ、昼をどうするか考えていた。


「瀬野、今日は図書委員じゃないのか?」

 教室から南雲が声をかけてきた。さっきまで南雲を囲って話していた女子たちから恨みの籠った視線を向けられる。いや、自分の所為じゃないんだけど……

「そのつもりだったけど今なくなった」

「そういう話だったんだ、なら昼飯食おうぜ」

 言うや否や、教室を出て行く南雲を慌てて追いかける。

「あの子たちは呼ばなくて良かったの?」

 南雲を囲っていた女子たちは間違いなく南雲と一緒に昼食を食べたかっただろう。

「いいんだよ、レア度が違うから」

「人をソシャゲのレアキャラみたいに言うなよ」

「でも事実だろ?」

「……エンカウント率は低いかもな」

 そんなこんなで二人は中庭で昼食をとることになっていた。


「なあ、南雲、一つ聞いていいか?」

「なに?」

「その、……呪いとかって本当にあると思う?」

 南雲は二つ目のパンを取り出そうとしていた手をピタッと止めて、心配そうな表情で悠季に顔を向ける。

「お前、……変な宗教とかにでも入ったのか?」

「いや、違うから⁉ 入ってないから⁉」

「そりゃ、色々大変だろうと思うけど、そういうのに傾倒するのは良くないと思うぞ」

「だから入ってる前提で話を進めないでくれる⁉」

「冗談だよ、それで呪いがどうしたって?」

 南雲はカラカラと笑っていてからかわれていたことに気づく。どうして自分の周りにはこういう人ばっかりなのだろうか。


「いや、その都市伝説とかで呪いで人が死ぬとかあるじゃん、ああいうのって本当にあるのかなって思って」

「そうだな……」

 南雲は口元に手を当て考え始める。その姿を渡り廊下からたまたま見た女子生徒がこちらを指さしながら隣の友達に声をかけてはしゃいでいる。相変わらずかっこがつく奴だな。悠季はそんなことを思った。 

 



 



 


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