必要なのはひとつだけ

※本編軸の藍沢芽愛の話

※『僕が幸せになるために必要な三つの要素』(診断メーカー「お題ひねり出してみた」)よりお題を借りて作成したものです


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幸せになるために、必要なものってなんだろう。

おいしいものを食べること?お金持ちになること?

きっと、どっちも正解なんだろう。おいしいものを食べるだけで、お金をたくさん得るだけで、人はきっと簡単に、幸せな気持ちになれる。

だけど、それだけでは足りない。

おいしいものを食べたって、それを分かち合う人がいなくちゃ、意味がない。

お金があったって、それを使いたいと思う相手がいなきゃ、意味がない。

そうでしょ?そうだよね?


「だよね?ゆーくん」


あたしは、目の前で静かに座っているゆーくんに向かって、甘いケーキの上に乗っかった、真っ赤なイチゴを差し出した。

はい、あーん。そう呟いてゆーくんの唇に、そっとイチゴを押し付ける。真っ赤なイチゴは、ゆーくんの唇の上でぐしゃりと潰れて、その果汁が、ゆーくんの唇を鮮やかに染めた。

「ふふ、おいしい?ゆーくん。おいしいでしょ?これはね、最近人気のケーキ屋さんの、一番人気のケーキなんだよ」

そう言って、あたしは真っ白な生クリームを掬い取って、口元へと運ぶ。ぱくり、とそれを口に含めば、ふわり、と、上品な甘さが口中に広がった。

「うん、やっぱりおいしい。おいしいねえ、ゆーくん」

ゆーくんは、なんにも言わない。だけど、それでもいいのだ。

あなたと一緒においしいものを食べて。あなたと二人きりで、この部屋で過ごして。

そんなふうに、あたしの生活の一部にあなたがいることが、あたしにとっては何物にも代え難い、一番の幸せなのだ。



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