『偶々』
冬休みも明けて今日からまた学校が始まるわけなんだけど…
このタイミングできたかー…
7時48分。
急行電車がくるまで後5分。
間に合うといいけどな…
僕は走った。
本気で走った。
ちょっと吐きそうになるくらい。
絶対このあと動けなくなるけど、これなら間に合う!!
ドッ!
その時僕は人にぶつかった。
「…いったぁ、ちょっとあんた…」
『ごめんなさい!ごめんなさい!急いでまして!!』
苛立ちを隠せないおばさんが全てを言い切る前に僕は謝り倒した。
ガッ!!!!
その時2人の横を茶色いなにかが横切って駅の壁に穴をあけた。
おばさんはその穴を見て呆気にとられていたが、僕とぶつからなければそのなにかが自分に当たっていただろうと思い腰を抜かしてしまった。
『本当にすみません、大丈夫ですか?』
僕が手を差し伸べると
「いえ、ぶつかったのは腹がたったけど、あれに当たらなくてよかったわ…」
おばさんはそう力なく答えた。
『お互いケガもなくてよかったですねオロロロロロロロ』
僕は優しさと酸っぱさに満ちたゲ◯をホームにぶちまけながらおばさんに感謝だかなんなのかよくわからない複雑な感情の顔を向けられた。
知らない人からみたら『偶々』が重なって助かったと思うだろう。
だけど、僕は知っていた。
だから走った。
吐きそうになっても。
いや、吐いたけど。
自己満足なのはわかってる。
でも、いくら知らない人のことでも知ってしまったらやらないわけにはいかなくない?
あとで寝覚めが悪いもの。
だから僕は『偶然』を装う。
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