不思議なこと1



 ――前の私。いつか戻ってくるんだろうか。と私はぼんやりと考えていた。天才。稀代の魔術師で誰からも愛される美しい人。まぁ戻って来るならそのほうがいいのかも知れない。私はこの通り――ああ。またスペルが違うと怒られた――頭の中ほぼ七歳児で勉強についていくのがやっと。誰からも愛されるというのであれば……愛していた人たちが可哀そうだとやっぱり思う。好きな人が消えてしまうのはとても悲しい事だと分かるから。



 ちらりと真面目に授業を受けているイブに目を遣る。当然だが幼い。黙していれば天使のような雰囲気だ。口を開かなければだけれど。兎も角この小さなイブが消えてしまったら私は泣くだろうけれどイブは泣いてくれるだろうか。となんとなく思った。別に泣かないならそれでいいけれどそれはそれで何となく寂しい。……あ。想像してしまった。悲しい。それを打ち消すように溜息一つ。頬杖をついてぼんやりと教師の姿を追う。



 戻ってくる前触れか何かあればお別れが言えるのだけど。そんなことあるのだろうか。考えながらノートにペンで落書きをしてみる。うん。絵心はない。イブのつもりだったんだけど何やら変な生物が完成してしまった。でもなんだか可愛いと思えるのだからおかしな話だ。楽しくなってきて、後でイブに見せようかな。考えながら外の景色に目を移す。



「……なんだろ」



 私たちの教室は一階のちょうど隅に当たる。そこから木は植えられているものの運動場が開けて見えた。体育をしている学年はいない。静かで風だけが通り抜けていく。



 ただ、そこに誰かが立っている気がした。艶やかな黒い髪。青いスカートがふわりと風で揺れている。女の子――だろうか。いや、我が弟の剣もあるので男の子という線も捨てきれはしないけれど――あれは特殊だからと思考から捨て去った。



 授業中なのにサボったのだろうか。いいな……羨ま――違う。一人で何を。あんなところにいたら先生にすぐに見つかるのに。見つかったら怒られるなぁとぼんやりと考えていた。



 空を見ているようだ。何かあるんだろうかと私もつられて空を見るけれど白い綿雲が――おいしそうに――泳いでいる。



 綿あめ食べたい。そんなことを考えつつ視線を少女に戻すとかちりと目があった気がした。遠くて本当に少女がこちらを見ていたのかは分からないけれど。



「……なにを見ているんですか?」



「え? あの。あそこに女の子が――」



 平坦な声。はたと我に帰り声の方を見てみると半眼でこちらを見ている先生が。視線を流して運動場を見るが『誰もいないです』と呆れられた声が響いた。その目は授業を聞きなさいと暗に言っている。



 ――でも。



 私には確かに見えるのだけれど。私は寝ぼけているんだろうか。授業が退屈だから。と考えつつ再会した授業は放置してその女の子を飽きもせずに眺めていた。





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