わすれんぼう

染谷市太郎

いまさら

 記憶力に乏しいことは、ちっちゃいころからから自覚してはいたよ。

 なにせ、幼稚園の先生や同級生の顔も名前も思い出せないし、そもそもどこの幼稚園に通っていたのかも忘れてしまった。

 というか通っていたのかな?

 え? 通ってた?

 ならそれでいいや。


 でもまあ、忘れたことを、ふとしたときに思い出すことはあるんだ。

 幼稚園のことは覚えていないけど、小学校に上がった時、幼稚園に何を持って行っていたっけと疑問に思ったことはつい先日思い出したね。

 たぶんそのうち忘れるね。


 思い出すタイミングや、きっかけに決まりはないよ。

 ふとしたときに思い出すんだ。

 どういうときに思い出したのかも忘れてしまったな。

 いつも、よくわからないときに思い出す。

 思い出したことは、たいてい数日で忘れてしまう。

 そういうもんさ。


 で、なんの話だったっけ。

 ああ、さっき思い出したことね。

 まあ乾杯したビール飲んだときなんだけどさ。

 え?乾杯まだしてない?

 まあさっきビール飲んだときだよ。

 思い出したんだ。

 小学校の頃、何年生だったかな、それは忘れた。


 かくれんぼしてたんだよ。

 みんなでやってたから、低学年のころかな?

 学校の裏で何人かで遊んでた。

 で、僕は女の子と一緒に隠れる場所を探していたんだ。

 女の子の名前は忘れちゃったな。


 それで、ちょうどいい場所を見つけたんだよ。

 焼却炉。

 さすがにもう使われなくなったやつね。

 鍵?

 女の子が外してたよ。たぶん。


 で、ふたりで入ろうって話になったんだけど、女の子はちょっと頭がよかったんだ。

 まず女の子が焼却炉に入って、木箱を被る。

 その上に僕が乗る。

 そうすれば僕が見つかっても、鬼はもう一人いるとは思わないから絶対に見つからないっていう考え。

 ほんと、頭いいよね。


 そのあと?

 ああ、もちろん僕はみつかったと思うよ。

 一番に。

 焼却炉の扉を閉め忘れてたから。

 お尻を出した子一等賞ってやつだよね。でてたの頭だけど。

 んで、一番に見つかったの申し訳ないって思ったんだ。僕は。

 だから焼却炉の蓋を閉めて鍵をした。

 そうすれば、鬼はもう誰もいないって思うだろ?

 いやあ、僕頭切れてたね。きっと女の子の頭の良さが移ったんだね。

 僕のおかげで、鬼は女の子を見つけることはできなかったんじゃないかな。


 あははっしゃべってたら懐かしくなっちゃった。

 忘れっぽいけど、やっぱりみんなと会うと思いだすものなのかな?


 じゃ、ちゃんと乾杯しようよ。

 僕忘れて飲んじゃったし。

 え? どうしたの? そんな場合じゃないって?

 みんな忙しいんだね。はははっ。


 で、なんの話だったっけ。

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わすれんぼう 染谷市太郎 @someyaititarou

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