第6話 冒険者登録試験が酷すぎる!


 岩山を滅却した後、俺は街に戻って宿屋で一夜を過ごした。宿代はまたクーリアに払ってもらっている、ふがいない。


 だがそれも今日で終わりだ! 冒険者になって稼いでやるんだ! 


 まずはこの世界で生きる基盤を整えないと! 何をするにもとりあえずだ!


「よし! やるぞ! このゲーム世界で生きて行くためにも!」


 気合を入れてベッドから立ち上がる。早くお金を稼いで色々買わないとダメだ。ちなみにクーリアは俺の宿代を一週間ほど払ってくれてから自宅に帰った。昨日は俺に合わせて同じ宿屋に泊ってくれたらしい。


 本当に申し訳ないよな、稼いだらちゃんと返さないと。


 宿屋の食堂で朝食のスープとパンをもらって食べた後、俺は街に出て冒険者ギルドへとたどり着いた。併設された酒場では朝から飲んだくれたちがたむろしている。


「聞いたか? 魔王配下の四天王が北の方の国で大暴れして、一国が壊滅したとか」

「物騒だなまったく」


 そういえばマジクエⅠには魔王がいたなぁ……最後に倒すラスボスだったけど。Ⅱではどうなのか知らない。


 いかんいかん、それよりも冒険者登録だ。俺はカウンターの受付嬢の人に話しかける。


「すみません、冒険者になりたいのですが」

「承知しました。ではまず冒険者についてご説明は必要でしょうか?」


 俺は「結構です」と返事する。冒険者については昨日寝る前にスマホのデータブックで確認済みだ。


 冒険者は魔物を討伐するなどを生業にする者。それで冒険者ギルドはその自助組織。そして冒険者には下からランクF、E、D、C、B、A、S、EXと存在する。ランクCが鍛え上げた凡人の限界で、B以降はある程度才能がないと無理だとか。


 そうして名前などが尋ねられていくので淡々と答えて行く。出身地方に関してはてきとうに誤魔化した。


「では戦闘スタイルをお教えください」

「後衛の魔法使いです!」


 大嘘である。ビーム魔法は設定上ではこの世界の魔法に入らない、つまり通常攻撃の類に入る。でも説明が面倒過ぎるので魔法使いで通す!


「ありがとうございます。では登録前に実地試験を行います」


 受付嬢さんはニコニコと笑いながら伝えてくる。これもスマホで事前に見たところだ!


 実地試験、それは冒険者登録時に受けるものである。不合格だと当然ながら冒険者になれない。


 冒険者ギルドとしてもあまりに酷い者、例えば依頼人を襲いかねない者などは冒険者にさせないための措置。


「もし今回の試験に落ちた場合、一ヵ月は再試験が受けられません。では試験官の人を案内しますね。ついてきてください」


 受付嬢さんはカウンターを出て酒場の方へと歩いていく。俺もそれについていくと背筋をピンと伸ばして椅子に座り、モグモグいや黙々と食事を取っている女の人の側に来た。


「ヒカルさん、この人が試験官になります。アイフェリアさんと言って若くしてランクBの優秀な方です。品行方正で頼りになりますので安心してくださいね」


 アイフェリアさんは俺の方に視線を向けて来たので軽く会釈する。


 キリッとした様子の少女だ、おそらく俺と同じ十八くらいだろう。桃色の髪を長く伸ばしてポニーテールに結んでいる。前衛職なようで金属鎧も着ていて、腰にはロングソードを帯剣していた。

 

「では私はこれで。アイフェリアさん、後はよろしくお願いしますね」


 受付嬢さんはアイフェリアさんに書類を渡した後、カウンターへと戻っていってしまった。


「ついてきて」


 アイフェリアさんは立ち上がると歩き始めたのでついていく。そして冒険者ギルドを出てから少し離れたところで、彼女はいきなり俺を睨みつけて来た。


「貴族の息子がお遊びで冒険者かしら? よいご身分ね」


 開口一番、明らかに辛辣な口調で語り掛けて来た。貴族……また俺の制服のせいでそう見られてしまったようだ。本当は着替えたいけど金がない。


「違います。服で判断したのかもですが、俺は貴族なんかでは……」

「否定しても無駄よ。服だけじゃな、纏っている雰囲気や手を見れば分かるわ。貴方には手に農作業や剣を振るった跡もなく、何の苦労もなく生きて来た。お遊びで冒険者を穢さないで」


 なんだよこの試験官! 何が品行方正だ! どう見ても俺に対して差別意識と偏見持ってるじゃないか、人選ミスもはなはだしい!


「俺は遊びで冒険者になるわけでは……」

「言い訳はいいわ。さっさと試験をやって終わらせる」


 この女、俺の話を聞こうともしない! まあいい、俺もこんな試験不快すぎるからさっさと終わらせてやる!


 俺のビーム魔法なら楽勝で合格できるからな! 何せランクBの魔物であるオーガを三体倒せるんだぞ! 敵は己というかビーム撃つ痛みだけだ! 


 試験官の女は受け取った書類を見た後に。


「後衛の魔法使いね、なら貴方に現実を教えてあげるわ。ついてきなさい」

「教えてもらおうじゃないですか! ええ!」


 あんたに逆に俺のビーム魔法の力を教えてやろうじゃねぇか!


 そうして俺は女について街の外の山へと歩いてきた。彼女はしばらく山を捜索した後に高さ2mほどの洞窟を発見すると。


「これはゴブリンの巣穴よ。ここを潜って中にいるゴブリンを全て倒せば合格とする」

「いいでしょう! 外から魔法放って全滅だ!」


 ビーム魔法で洞窟中を焼き尽くしてやるよ! だが試験官の女は首を横に振った。


「それはダメ。中に人がいる可能性もあるから、ちゃんと潜って一体ずつゴブリンを倒しなさい」

「…………」


 俺は冷や汗をかいていた。いやこれ流石に無理、あまりに俺のビームと相性が悪すぎる! こんな狭い洞窟で高火力ビームぶっ放してみろ、下手したら崩れて生き埋めだ!


 というか色々とおかしいだろこの試験! 俺は魔法使いで登録してるのにこんな狭い洞窟に潜ったら何もできない! 


 それにゴブリンの討伐ランクはEだったはずだ。魔物のランクの判定のつけ方は、そのランクの冒険者の四人パーティーでの討伐を想定している。どう考えても冒険者になる試験でしかもひとりでやらせるものではない!


「待ってください。これはいくら何でも酷いかと! 俺は後衛で……!」

「後衛でも襲われることはあるはずよ。ゴブリン程度倒せないようなら冒険者の才能などないわ。さっさと実家に帰りなさい」


 相変わらず辛辣な試験官め! どうする、ここは諦めてまた日を改める選択肢もあるが……いやでも再試験には一ヵ月かかるとか言われてたな。それを待っている間に稼ぐ手段がない……っ!


 それに一ヵ月何とか待ったとしても、次もこいつが試験官の可能性だってあるわけで……やるしかないかくそっ!


 覚悟を決めて洞窟へと入ろうとすると。


「『助けて』と叫べばその時点で助けてあげるわ。それとは別に危険だと判断したら、問答無用で助けるけど当然試験は不合格よ。ちなみにあなた、ロクな装備も持ってないのにどうやって洞窟に潜るつもり? 中は暗くて松明がないと無理よ」


 試験官の女は俺を見下したような視線を向けてくる。確かに暗いが……ビーム魔法のちょっとした応用で何とかなるはずだ。


 俺は右手に光を収束させ続けて光の剣を発生させた。やはり予想通りだ、撃たなければビームを帯同させ続けられる……! 熱いけど!


 洞窟内が照らされていくので、とりあえずこれで進むことは可能そうだ。


「なっ……!?」


 俺のビームソードを見て試験官の女は驚きの声を上げるのだった。でも俺って敏捷1だから、ゴブリン相手でも近接負けそう……どうしよ。




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 ヒカルとアイフェリアが冒険者ギルドを離れた後、併設された酒場で壮年の男たちが飲んでいた。


「のう。さっきの少年、見覚えある気がするのじゃが」

「実はワシもじゃ。ほれあいつに似ておるのじゃ。以前にこの街にいた夫婦の貴族。名前は確か……」

「ランパルトじゃなかったかの」

「ライグウジ、いやライケンジだった気も。今度見たら聞いてみるかの」



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