第7話 細いビーム


 洞窟に入る前にスマホを起動して、データブックでゴブリンの情報を確認する。夜目が効くらしいので明かりをつけて入っても問題はないみたいだ。


「よいご身分の息子のようね。そんな魔法の道具まで持ってるなんて」

「だから違うってのに……」


 俺は再度右手にビームサーベルを出してその光で前を照らしながら、洞窟をゆっくりと前に進んでいく。まるで懐中電灯のように周辺をかなり明るくしてくれるので助かる。


 ゴブリンがもし出てきたらビームサーベルで斬りたいところだ。迂闊に手のひらビームとか放ったら、洞窟の壁を貫通して崩落させてしまう恐れもある。


 後ろからは試験官の女が余裕ぶった態度でついてきた。くそっ、偉そうに!


 更にゆっくりと歩いていく。すると洞窟の奥の行き止まり、少し広がった場所にたどり着いた。


「「「ゴブゥ!」」」


 そこには三体のゴブリンがいて俺に気づいて叫んできた。手には石で作った斧のようなものを持っている。


「ゲッ、三体もいるのかよ!」

「どうした? 諦めるか?」

「誰がっ! とはいえ接近されるとキツそう……」


 俺は敏捷1のせいで機敏には動けないので、1VS1ならともかく囲まれるとヤバイ! しかも防御1のせいであの石斧で叩かれたら即死!


 ビームサーベルで相手取るのは厳しい! というかそもそも敵と近づいて戦うべきではないよな、今更だけど!


 ゴブリンたちがこちらにじりじりと近づいて来て、それに合わせるように俺も少しずつ後ろに下がり始めた。


「私はすでに腰の剣を抜く準備をしているわ。諦めたら?」


どうする……手のひらビームも胸ビームも火力が高すぎて壁に大穴を空けてしまう……。


 ……あっ、目ビームなら細いから大丈夫か? でも細い分だけ命中率も不安だ、いや待てそれなら……。


 その瞬間だった、俺の顔の横を何か小さなものが通り過ぎて行った。ゴブリンが小さな石を投げて来たのだ。


「気をつけなさい。ゴブリンは手癖が悪い、石くらいは投げてくるわ。まあ当たっても死にはしないけどね」


 背筋が凍る。クーリアに軽く叩かれて気絶したことを思い出す。


 ……今の石に当たってたら死んでいたのでは? やばい! あのゴブリンたちをすぐ倒さないと!


 俺はゴブリンたちに対して両手を向けて指をできるだけ開いた。俺は身体全身でビームを放てる、ならば爪からもきっと撃てるはずだ!


「つ、爪ビーム一斉射だ! 吹き飛びやがれっ!」


 俺の両手十本の指から紙のように薄いビームが発射される! ビームたちは扇状に広がってゴブリン三体全てを貫いた! 


「ご、ぶっ……」


 ゴブリンたちは目を見開いて倒れた。ど、どうだこの野郎! 爪くらい細くて薄いビームなら洞窟の壁を貫通しても流石に崩れないだろ!


 しかも薄いが幅は指と同じだから、それなりに当たり判定も大きくなる! これから火力制限が必要な時は爪ビームだ。それと爪だからあまり熱くないぞ! 今後は爪メインで戦っていきたい……たぶん火力不足だけど。


 心臓のたかぶりを抑えつつしばらく息を整える。や、やはり俺は後手に回ったらダメだ。先制攻撃で敵に何もさせずに消し飛ばさないと。


 そうして暗い洞窟から出て、俺は試験官に勝ち誇った笑みを浮かべる。少し間を置いたので落ち着けた。


「これで試験クリアだろ!」


 こいつの理不尽気味な試験を突破したのだから文句なんて言わせねぇ! 言えるものなら言ってみろ!


「……ダメ、認めないわ」


 いや言うなよ。そこは「くっ……」ってあきらめるところだろ!


「ふざけるな! 何が問題か言ってみろ! 言えるもんならな!」


 試験官の女は少し顔をしかめて、俺から目を逸らした後。


「こ、この試験は近接能力の確認よ! 魔法で倒したら失格!」

「はぁ!? お前そんなの言わなかったよな!? そもそも魔法使いに近接能力いらないだろうがっ!」

「い、いるわよ! もし後衛が襲われたら自衛しないとダメだから! これだから貴族の息子は世間知らずなのよ! 私が試験官だから異論は認めな……待って、黙って」


 試験官の女はいきなり話を遮ると、勢いよくとある方向に顔を向ける。そこには二足で立つ全長3mはありそうな大きなクマが、少し離れたところで様子見するように俺達をガン見している。


「うそっ……Aランクのハザードベアが何でこんなところに……!」


 狼狽し始める試験官。俺も怖いがまだ少し距離があるし襲ってくる様子もない。スマホを取り出して、『ハザードベア』でデータブックを検索する。


 なになに、ハザードベアはAランク魔物。動きは鈍いがその毛皮は剣をも弾き、その爪は金属鎧すら砕くと。マジクエⅡでは最初の方でボスとして出てくる魔物らしい。


 まあいいや。今はもう外だ、ここなら俺の全力ビームで瞬殺だ。


 ハザードベアに両手を向けて光を収束させる。そしてビームを放とうした瞬間だった、


「馬鹿っ! 迂闊にっ……!」


 俺の前方、ビームの射線に試験官の女が飛び出して来たのだ!? 俺は瞬時にビームの発射を停止する!


 あ、あぶねぇ! ビーム放つ直前だったぞ!? 一歩遅かったら人殺しするところだった!?


「ザアアアアアアアアア!!!」


 ハザードベアは俺達がいきなり動くのを見て逃げると思ったのか、こちらに向けて咆哮して襲い掛かって来る!


「あなたは足手まといよ! 邪魔だから失せなさい!」


 試験官の女は腰から剣を抜いて構えると、ハザードベアに対して立ち向かっていく。


 ……いやあのものすごく邪魔なんですが。そんなに近くにいたらビーム撃てないだろ!? さっきまでの様子通りに、俺を見捨てて逃げてくれればいいのに!


「はあっ!」


 試験官の女は力いっぱいに剣を振り下ろす。ハザードベアの頭蓋に直撃するが……なんと剣の方がへし折れた!? 


「しまっ……きゃあっ!?」


 ハザードベアの右手の反撃を受けて、試験官の女は俺の側に派手に吹っ飛ばされて地面に転がる。


 思わず彼女に近寄ると鎧の腹部分が爪の形に抉れていた。幸いにも血は流れていないようだが、立てないようで俺の方に顔だけ向けて来た。


「邪魔……って言ったでしょ。失せ……」


 試験官の女が何か言っているが無視。


 こちらを威嚇してくるハザードベアに対して、俺は両手を向けて改めて光を収束させると。


「いやそれはむしろ俺のセリフなんだよ」


 両手からビームを放って、ハザードベアの頭と左胸を貫いた。声も出せずに倒れ伏すハザードベア。それと見て試験官の女は茫然としている。


「なっ……えっ……嘘……」

「あっちぃ……邪魔なのは最初からあんたの方なんだよなぁ。命助けたけど、まだ試験落とすつもりか?」


 硬くて大きくて遅い奴など俺の敵ではない。ゴブリン共の方が、何ならこの試験官の女の方がよっぽど厄介だ。



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スラッシュネイルビームみたいな、ビーム出しながら切り裂くノリをいずれやりそう。

最近は近くで事故が起きたりしたら、すぐスマホで撮る人増えてますよね。

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