第5話 恵攻糞防
俺はスマホでMAPを開きながら近くにある岩山の前へとやって来ていた。
ここは文字通り岩しかないので、誰も近づかない場所だそうだ。実際周囲にいるのは俺とクーリアだけ。
「お、おお……ヒカルさんこの辺の地理分かるんですね……!?」
クーリアが俺から目を合わせずにボソボソと呟いている。
スマホに記載されたMAPが間違っていて迷った時のために、クーリアにもついてきてもらった。だが実際は物凄く正確な地図だったので、特に問題なく目的地にたどり着けたのだ。
「ついてきてくれてありがとうな」
「はひっ!? い、いえそんな……!?」
クーリアはすごく動揺して銀髪を揺らしながら返事してくる。翡翠の目がキョロキョロと焦点定まってない。
この娘、あまり人と話すの慣れてないっぽい。俺と目を合わせないしすごく大慌てだもんな。
「さてと、じゃあゴーレム退治としゃれこむか! さっそく発見!」
「ごおおおおおお!」
周囲を見回すと2mほどの人型の岩の魔物であるゴーレムが、俺達の方にゆっくりと歩いて来ていた。ゴーレムはCランクの魔物だが、実際の戦闘能力自体はBランクとも言われている。
人間に対する脅威度が低いために討伐ランクが下げられているのだ。容易に逃げ切れるし基本的に住処から移動しないからな。なおたまにゴーレムが大軍で移動した場合、村どころか街まで危険になることもある。
なので定期的に間引きしないと危険なのだ。
俺はゴーレムに対して右手を向ける。手のひらに光が収束していって、手の形のビームが放たれてゴーレムに直撃する! 熱さに顔をしかめながら何とかこらえる!
「ご、ごおおおおおぉぉぉぉ……」
ビームはゴーレムの頭を貫通して穴をあけた。ガラガラと崩れ落ちるゴーレム。
「やっぱりこのビーム強いよな。岩すら貫通するんだし」
この世界で生きて行くにあたって、自分の力を把握しておかねばならない。具体的には俺のビームがどれほどの強さであるかだ。
ちなみに昨日屠ったオーガは半端に強い魔物らしい。データブックによるとマジクエⅡでは後半に出てくるザコ魔物。それをワンパンできるので弱くはないのだろう。だがこれだけでは全くデータが足りない。
「お、おおー……ゴーレムを軽く一撃で……すごいです……!」
いつの間にかクーリアはゴーレムの死骸、というかただの岩に近づいていた。穴をまじまじと見つめる様子が小動物チックで可愛らしい。
俺は次の岩もといゴーレムを探す。俺に向かって四体のゴーレムがゆっくり接近しているのでそいつらでいいか。
次にテストするのはどこからビームを放てるかだ。まずは定番である目から試してみる。目よ、ビーム出せ……。
俺の念が伝わったのか両目に光が集まりだして、そして細い光線が発射されてゴーレムの右腕を穿つ。
「ごおおおおおお!?」
「よし、目でも撃てるのか。なら次は肩だあっちぃ!?」
両肩部分から手で撃つより太いビームが発射される! めっちゃ痛くて熱い!
肩のビームはゴーレムの上半身を消し飛ばした! やはり手から撃つよりも威力が高そうだ!
今気づいたのだが制服を脱いでからやればよかったな、幸いにも服が燃えたりする様子ないけど。
更に胸や腹、股間、足、太ももと色々試すがどこからでもビームが撃てる! 撃つ度ににゴーレムがただの瓦礫と化していく!
そしてもれなく全部熱くて痛い! もう泣きそう!
「はぁはぁ……全身からビーム撃てるのか。こりゃすごい、攻撃力999は伊達ではないと。滅茶苦茶痛いけど」
周囲のもはや動かぬ岩となったゴーレムを見ながら呟く。よし、では次は……全身から放出だ! 間違いなく熱で苦しむだろうが、試さないとマズイよなぁ……身体に火傷とかないのが救いだ。
普通のより大きい5mくらいのゴーレム発見、あいつを狙うか!
身体を大の字に広げて念じる。身体全身を光が収束していき、そして大の字ビームが放たれた!
「ぐおおおおおおぉぉぉぉぉ!? あっつい!?」
案の定全身が焼けるように熱い! そして5m級ゴーレムの胴体部分に俺サイズの大の文字の穴が生まれてしまう! そして崩れてただの岩になるゴーレム!
「お、おおー……! ゴーレムが砂利みたいです……!」
クーリアが岩に近づいて感心している。もっと褒めて。
「こりゃすごい! じゃあ最後にっと」
俺の中でもう一つだけ出来ると確信していることがあった。それは……ビームを拡散させることだ。
今までのビームは光を身体の形に収束させて放ったが、光を固定しきる前に放つのだ。次の狙いはゴーレムでは微妙だな、もっと大きいのがよい。
おっと、ちょうどよい岩山があるじゃないか! 高さ20mくらいありそうだからな! 全身にビームを収束し始めて……ここだ!
「いけっ! 拡散ビーム! あっつぅぅぅぅぅぅ!?!?」
光が収束し終える前にビームとして放つ! すると光は前方の超広範囲に、無数の蛇のようになって広がっていく!
狙った岩山に無数の光が雨のように飛来し蒸発! だがそれだけで収まらない!?
「えっちょっ!?」
周囲にある岩や地面に直撃し、当たった側から全てを溶かしていく!? まるで全てを溶かす光の雨だこれ!?
そうして光が止んだ後、俺の前方には焦土が広がっていた。岩山どころかそこらに転がっていた岩すら消し飛ばし、強力な熱で溶けた地表が無惨な姿を見せている。
「いや強すぎるだろ……」
目の前の凄惨な光景を目の当たりにして、そう呟くのが精いっぱいだった。
「ふ、ふええええ……」
そしてクーリアは溶けて子供サイズまで縮んでいた。
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「…………これ、内緒にしてもらえない?」
「……は、はい。言いません……」
拡散ビームを放った後、俺とクーリアは物凄く気まずい雰囲気だった。
何せ地形を変えてしまった。人がいない場所でテストしたのが不幸中の幸いだ、もし普通の山とかで撃ってたら……。
いやでも岩山消滅させたのはマズイよなぁ……。
「これ弁償とかいるのかな……?」
「だ、大丈夫です。この岩山は街からしたら邪魔でした、ので怒られることはないかと……。何とか撤去できないかみたいな話も聞いたことあるので……」
どうやら岩山を消滅させたのは大丈夫なようだ。よかった、もし弁償しろとか言われたらどれほどの価値か想像もつかない。
いやしかしビーム強すぎるな。狙ったモノを貫通してしまうので、その後ろまで気を付けて撃たないとヤバイ。
当てた敵だけ消滅させてくれれば扱いも簡単なのだが、強力過ぎるのも考え物だ。とはいえ弱いよりはよほどいいが。
「ふぅ……よし。とりあえず力は試せた。強いのは分かったので明日は冒険者ギルドにがあっ!?!?」
「ど、ど、どうされましたっ!?」
気を抜いた瞬間だった。首筋にいきなり大きな針で刺されたような強烈な痛みが……!? 俺は思わずうずくまってしまう。
「く、首が……」
「え、ええっ!? そんな!? 周囲に魔物や人なんていないのに!? み、見せてください!」
クーリアがうずくまった俺に近づいて、首元を観察するが。
「え? これは……」
「な、にがっ……!」
「え、えっと……虫刺され? 小さな虫が首筋にとまってますが、毒などはないやつのはず……と、とりあえず潰しますね?」
そう告げた後に手を少し振りかぶって、俺の首筋に止まっている虫を叩こうとするクーリア。俺が覚えているのはそこまでだった。
「ごべっ………」
「え゛っ!? ひ、ひ、ヒカルざん!? ヒカルさんんんんん!?!?」
そこで俺の意識は消えたようで、目が覚めると地面に寝かされて介抱されていた。
全てを理解した。俺のビーム攻撃の代償を思い出した。
防御力低すぎて小さな虫に刺されても激痛が走り、人の手で叩かれようものなら気絶するんだ。
「ははは……誰だよこんなキャラ考えた奴!? 俺だよ!」
「ヒカルさん!? どうされましたっ!?」
ここまで防御力ないとか赤ちゃんか!? こんなことなら全能力均等に分けるべきだった!?
ま、まあ何とかなるか。ビームの攻撃力は過剰だから、身を焼くような痛みさえ耐えて火力で蹂躙すれば!
よほど狭くてビーム使いづらい場所以外なら、先制遠距離攻撃で負けないはずだ!
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