第4話 冒険者になろう!
俺は自分の容姿が変わっていたことに絶望していた。確かに見た目はよいのだが、これでは俺が誰だか分からない。
もし地球に帰れたとしても来宮寺光ではない誰かだ。
「あ、あの……ヒカルさん? もしかしてさっきの戦闘で怪我を……?」
「あ、いや違います。うん、違います……街まで案内してもらえますか?」
何とか動揺を隠す。
そうか、俺はもう別人になってしまったのか……これだと地球に戻れたとしてもまともに暮らせないな。この世界で生きて行くしかないのだろうか。
「は、はひっ! じゃ、じゃあ行きましょう!」
そうして俺達は歩き始めた。
何となくスマホの画面をつけるが電波は圏外となっている。分かってはいたことだが俺にとって最後の希望が断たれた気がした。
しばらく周囲を見回しながらクーリアの後ろをついていく。街道を歩いていると馬車や旅人とすれ違うが、みんな服装が古いというか現代のものではない。
「ははは……どうするかなぁ」
「ど、どうされました!? わたし何か失礼なことしてしましてごめんなさい!?」
いかん、何故かクーリアさんに飛び火してしまった。彼女はこちらに振り向いて必死にペコペコと謝って来る。申し訳ないのはこちらだ。
「あ、違います。クーリアさんのせいではありませんから」
「そ、そ、そうですか? あ、それと私程度に敬語は不要ですっ!」
「程度って……。じゃあ決してクーリアのことは軽んじてないけど、普通に話させてもらうよ。俺のことも敬語なしでいいから」
クーリアは明らかに俺より身長も低いしたぶん年下だ。微妙に敬語に違和感があったのは事実だし。それと敬語使って欲しくなさそうな雰囲気がある。
彼女は俺の言葉に茫然とした後に、顔を真っ赤にして……溶けて行く。そう溶けて行ってるのだ。彼女の足もとに水たまりができて、その分彼女の身体が縮んでいく!?
「!?!?!? く、クーリア!? 溶けてない!?」
「はっ!? わわわっ!? 《冷気着霜》!」
急に身震いするほど寒く感じたかと思うと、クーリアが溶けて行くのが止まった。そして徐々に彼女の縮んだ身体が元に戻っていく。
「す、すみません……私、実は恥ずかしくなると溶ける体質でして……ほら太りやすいみたいな……」
その二つを同一視するのは無理があるのではないだろうか。ま、まあいいや、何かあまり言われたくなさそうだし。
「なるほど。痩せやすい体質も身体が細くなるからね。体積が縮むみたいな」
「そ、そ、そうです! 似たようなものです!」
ホッと胸をなでおろすクーリア。そんなわけないがもういい。
それとどうやら彼女は敬語を使い続けるようだが、それは自由なので別に問題ない。
そうして更に歩き続けていると、大きな壁に囲まれた街の門前までたどり着いた。これは城塞都市というやつか。
「あ、あのっ! ヒカルさんは入街札持ってますか!?」
「いや持ってない」
「じゃ、じゃあ私の方で買わせていただきますねっ!」
「ありがとう」
クーリアが入街札という木札を渡してくれて、俺は無事に街へと入ることができた。本当に彼女さまさまだ、この娘があの場にいてくれなければ俺はどうなっていたか。
立て札に『レプラー街』と記載されている、日本語で記載されているようで助かる。この街の名前にも見覚えがあったので、スマホを起動してマジクエⅡの公式データブックを確認する。
すでに全てDLしていたのが幸いだ、スマホの回線がつながらなくても見れる。開いていたのがちょうど『レプラー街』のページだった。
やはりこの世界はマジクエⅡなのか。そうなると確か金儲けとかの手段は……。
「クーリア、この街に冒険者ギルドってあるか?」
「じゃ、じゃあ冒険者ギルドに向かいましょう! こっちです!」
話が早い、というよりは焦って先走っているクーリア。
俺はそんな彼女に案内されて冒険者ギルドと記載された看板のある建物に入った。酒場と併設されているようで昼間から酒を飲んだくれている者がいる。
いいよな、やはりファンタジーと言えば酒場だ。木のグラスで酒を乾杯してるのは絵になる。
「と、ところで何で冒険者ギルドに?」
クーリアが挙動不審に慌てながら聞いてくる。
「お金がなくてね。稼がないとどうにもならなくて」
「な、なるほどっ! ヒカルさんならすぐに優秀な冒険者になれますよっ!? だって凄い魔法で私を助けてくれてっ……! 格好良かったですっ!」
顔を真っ赤にしてポタポタと汗を床に落としているクーリア。どうやら彼女は俺を応援してくれている、それはよいのだが……。
「あの、また溶けて縮んでる……」
「わ、わわっ!?」
クーリアが体勢を建て直している間に考える。
冒険者ギルド、これはマジクエⅠの設定にもあったので知っている。冒険者という腕っぷしの強い無頼漢たちが、魔物討伐などの依頼を受けて生計を立てている。冒険者ギルドはその総括であり自助組織だったはず。
メインの設定ではなくうろ覚えだったので、念のためにスマホの公式データブックで冒険者ギルドで検索した。うん、俺の記憶通りだった。
お金は必要だ、今の俺は一文無しだもんな。
「そういうわけで冒険者になるつもりだ。同業になるけどよろしく」
この世界で生きて行くなら金を稼ぐ手段が必須だ。そうなるとやはりビームを撃てるのを活かすしかない。
クーリアは俺の言葉を聞くとすごく嬉しそうに笑った。すごく可愛くて思わずドキッとしてしまう。
「あ、ありがとうございます! じゃ、じゃあ今日はとりあえず宿で寝ましょうか! こちらへどうあうっ!?」
慌て過ぎたクーリアは目の前の木の柱にぶつかってしまった。何というか本当に面白いなこの子。
「いたた……じゃ、じゃあ冒険者申請は明日出しますので、今日は宿屋へ行きましょう!? 場所は……」
「あ、ちょっと待って」
俺はスマホのデータブックで、この街のMAPを見て宿屋らしき場所を探した。
「ここから北に十分くらいの場所?」
「そ、そうです! ご存じなんですね!」
どうやらこのデータブック、この世界のことがかなり詳細に記載されているようだ。すごく助かるな、もうこいつ手放せない。
幸いにもソーラー充電のスマホなのでバッテリー切れがないのもよい。
こうしてクーリアに部屋を取ってもらって、俺は宿屋の個室のベッドに寝そべってスマホを見ていた。たまに画面が黒くなるたびに反射して写る顔が辛い。
「さてと……どうやらこの世界で生きて行く必要があるわけで。まあなるようになるか」
本音を言うとワクワクもしている。俺はマジクエは大好きでその世界に入れたのだから。それにスマホによるデータブックや、ビームによるチート攻撃もある。
クーリアという美少女とも知り合えたので、楽しくこの世界で生きていけるのではないかと。
「よし! 明日から頑張るぞ!」
そうして眠り始めたのだった。この時の俺は完全に忘れていたのだ、自分がどんな風にキャラビルドしたのかを。
ロマンとは傍から見るから楽しい物で、自分がやる分にはすさまじい苦労がある代物なのだと。
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