第3話 クーリア
俺は助けようとして危うく殺しかけた人に視線を向ける。その人は倒れながら顔だけこちらを見ていた。そのすぐ隣のビーム事故で抉れた地面が、俺のやらかしをこれ以上なく示していた。
ヤバイ、どういう顔して近づこう……いっそ何もなかったことにして去ってしまおうか。でもここがどこかとか全く分からないし、ちょっと話してみたい気もする。
「す、すみませーん……大丈夫ですかー?」
少し迷ったがゆっくり歩いて近づくことにする。倒れていた人は上半身だけ起き上がってこちらを見続けている。接近したので全体像が見えて来た。
全身を茶色のローブで着こんでいて顔以外に肌は見えない。立っていないので予想にはなるがおそらく小柄だ。
フードで隠れているので全ては見えないが、見とれるほど綺麗に輝く銀髪をおそらく腰辺りまで伸ばしている。
目はパチリとしている上に、瞳はまるでエメラルドのように緑に輝いている。
小動物を思わせるような可愛さ。そして雪のように白い肌の美少女だった。間違いなく外国人だろう。年齢は十五くらいだろうか?
そして少女のすぐそばまでたどり着いてしまった。互いに顔を合わせて無言の時が続く。あれ? 俺話しかけたよな? もう一度聞いてみるか。
「すみません、大丈夫ですか?」
頭を下げて銀髪の少女に言葉を促すと、彼女はあわあわとしながらこちらをチラリと見て来た。
「は、はひっ!? た、た、た」
「た?」
「た、助けて頂きありがとうごじまずっ!!!!」
銀髪の少女は噛んだ、盛大に噛んだ。それを見て俺は動揺が掻き消えて行く、自分以上に慌てている人を見ると落ち着くとはよく言ったものだ。
「いやむしろすみません。危うく消し飛ばすところで……」
「いえいえっ!? あ、あのままだとどちらにしてもドラゴンに殺されてましたしっ!? けけっか助かったのでだいじょぶです!」
少女はあわあわしながら両手を必死に振って来た。なんというかすごく可愛い。
とりあえず恨まれてないようでよかった……。
「そ、それならよかった。手を……いや何でもないです。立ち上がれそうですか?」
俺は地面にへたりこんでいる少女に向けて、手を差し出したがすぐに引いた。理由は簡単だ、先ほどこの少女を抹殺しかけたビームは俺の手から発射されていた。
つまり俺が手を差し出すということは、銃口を向けているようなものだ! まさにハンドガン!
「は、はひっ! 大丈夫です! 立てますっ!?」
少女は慌てながら必死に立ち上がった。どうやら怪我などはしていないようだ。
小柄なようで150cmくらいしかない。俺は170cmだから頭ひとつ分は差がある。
「あー、えっと。俺は
「みょ、苗字にその服装に貴族様ですかっ!? わ、私はクーリアですっ! 貴族様にとんだ無礼をすみません!」
必死に頭をペコペコ下げてくるクーリア。いや貴族って……日本に貴族なんて残ってないよな? やはりここは日本じゃないよな。いやあのドラゴンがいた時点でアレだが。
というか今の俺って貴族に見えるのか? 服装も高校の制服なんだけど。
「あ、いや俺は貴族ではないです。それとここはどこなのでしょうか? さっきの怪物についても知ってたら教えてもらえると……」
「そそそうなんですか? え、えっと、ここは『バーミラ王国』です! あの魔物はソードホーンドラゴンです!?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、背筋に何かが走った。バーミラ王国ってさっきキャラビルド画面で初期地点として選んだ国じゃないか!
しかもドラゴンもOP画面に出て来た魔物だ! 見た目だけじゃなくて名前も同じだなんて!
やっぱり夢……と思いたいのだが、さっきから背中がすごく気持ち悪いのだ。ドラゴンに咆哮された時、まだ距離は離れていたのに冷や汗をかいてしまった。
夢でこんな生々しく汗なんてかくだろうか? それにさっきからドラゴンの焼けた焦げくさい匂いも周囲に漂っている。
……まさかこれ、現実じゃないだろうな? Web小説などで流行っている異世界転生だが転移だかみたいなやつでは……ゲームも『異世界転移します』みたいなこと言ってたよな。
「あ、あのっ!? よ、よ、よ、よろしければお礼をさせて頂きたいのですがっ!」
「え? あ、はい」
あまりの事態で悩殺されている時だったので、思わず生返事をしてしまった。
クーリアは純白のような肌を真っ赤に染めて、俺の方をおずおずと見ている。ただし目は全く合わせてくれない。
「じ、実はドラゴンに襲われる前に討伐した別のドラゴンがいまして……。出来れば素材をはぎ取って献上したく!?」
クーリアは慌てて走っていく。俺も同じく走って追いかけようとしたが、何故か身体が固まってうまく走れなかった。
何度か走ろうとしてもやはり身体が硬直する。仕方がないので早歩きを試してみるとそちらは大丈夫だった。
そうして少しの間歩いたらそこにあったのは……黄金に輝くクマくらいの大きさのドラゴンの死体だった。このドラゴンもマジクエⅡのOPで見たやつそっくりだ、サイズは小さいけど。
ところで近くに雪のかまくらがあるのだが、周辺に雪なんてないのにどうやって造ったのだろう。
「そ、そろそろ魔力も回復したはず……。ひょ、《氷剣よ、我が手に顕現せよ》!」
彼女の両手の先に氷の刃が出現した!?
「い、いきますっ!」
クーリアはそう宣言すると、ずばずばとドラゴンの死体を両手の氷の刃で斬り始めた。美しい刀身でありながらすごく切れ味がよいみたいで、肉厚のある身体が包丁で肉を切るかのごとく解体されていく。
「あああああっ!? 希少部位の心臓まで斬って!? あ、高く売れる骨が…………」
ダメそう。切れ味がよすぎのも考え物なのだろうか。いかん、クーリアがどんどん落ち込んでいく……。
「え、えっと……このドラゴンは君が……?」
「は、はいっ! なんとか倒したのですがそこで魔力が尽きてしまって……」
「な、なるほど。じゃああのかまくらは?」
「ゆ、雪のかごのことですか? あれも野営のために造りました!」
この小動物チックな娘、実はけっこう凄いみたいだな……雪かまくらでキャンプいいなぁ。
「お、終わりました! お、お礼にお納めください!?」
そうして俺の前にドラゴンを解体した素材の山が……いやどうしろと言うのだろう。
「えっと……持てないかな」
「あああああ!? すみません!? わ、私が街まで全部持って帰りますから!?」
「それも無理だと思うけど……」
「だ、大丈夫です!? 寝ずに三日三晩往復して足が折れようとも運びますから!?」
「いや寝てください……」
ツッコミしつつ現状を整理していく。
……たぶんこれ現実だよな、ならひとまず街まで案内してもらおう。そしてこれからどうするか考えよう。
普段のクセでスマホを制服上着の内ポケットから取り出す。
起動前の黒い画面に反射するのは、見慣れた顔ではなくて銀髪赤目の西洋人っぽい奴だった。
……は? 俺は純日本人の黒髪のはずだぞ!?
「あの……俺の目の色を見てくれません?」
「えっ!? えっとあのえーっと……すみませんすみません! 目も合わせられなくてすみません!? ゴブリン以下の存在ですみません!? ああああゴブリンさん私なんかと同じにしてしまってすみません!?」
「あ、いや違……俺の目の色を教えて欲しいのですが」
「あ、赤! 赤です!」
うそ、だろ? こんなの……もう俺じゃないじゃん。
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雪のかごと書いて、籠と加護のどちらとも読みます。
雪で造ったのになぜか中が温かいから。
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