3.星とさな


 さなは、小さいときから、本が好きだった。

「さなちゃん、おたんじょうび、おめでとう」

 おじいちゃんとおばあちゃんは、毎年、すてきな絵本をプレゼントしてくれた。

「さなは、本が好きだから、きっと将来、立派な大人になるな」

 お父さんは、そう言ってさなを褒めてくれた。

「さな、このお話のお姫さまみたいに、すてきなひとになるのよ」

 お母さんは、絵本を読み聞かせるたびにそう言った。


 小学生の頃は、図書館でお気に入りの本を何度も借りては繰り返し読んだ。

 中学生の時には、自分でお話を考えて、妹のために手書きの絵本を作った。

 高校生の時は、初めて自分で買った大好きな小説のシリーズを、夢中で読んだ。


「お姉ちゃん、これ自分で作ったの? すごい、作家みたいじゃん!」

 妹のために作った自作の絵本は、今まで読んだ物語のつぎはぎみたいなものだったけど、妹はとても喜んでくれた。

 

 ――そうだ、わたしは、物語が好きだった。


 本を読んでいるときのどきどきを、思い出した。

 このセリフすてきだな、この先いったいどうなるんだろう。

 そうやって読みすすめるのが、幸せだった。


 自分で絵本を作っていたときのわくわくした感覚を、思い出した。

 こんな設定にしよう、こんなキャラクターにしよう。

 そうやって考えるのは楽しかった。


 描きたい世界があった。書きたいストーリーがあった。


 井戸の底に忘れ去っていたきらめきを、さなは思い出した。


 立派な大人になんか全然なれていない。

 すてきなひとにもなれているか分らない。

 いつも失敗ばっかりで、迷って、悩んで、つまずいて、そんなことばっかりだ。

 それでも……。


 ―― 物語を、書きたい。

 そう、思った。

 

「大切なものは、見つかった?」

 かえるの王子さまが、さなをじっと見つめて言った。

「うん……」

 さなは、こくんとうなずいた。

「だいじょうぶ。きみはきっと、だいじょうぶだよ」

 王子さまはさなの小指に、優しくちょんと触れた。


 夜風が草花をそっと揺らし、夜空の下を通り抜けていく。

 かすかだけど、きれいな星の光が、さなの瞳を照らしていた。

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