2.よるの国


 数多の枝を空へと伸ばす大きな木々。静かにきらめいている無数の星々。

 やわらかな緑のこけ、可愛らしい草木の芽やつぼみ、ぽつりと落ちている木の実。

 さわさわと風に揺れる葉音、かすかに聞こえる虫のこえ。

 静かで深い夜の中に、よるの国はあった。


 夜空のすみっこの冴えない星を見つめながら、さなは自分のことを考えていた。

 今まで、さなは無難な人生を歩いてきたつもりだった。

 なんとなく学校に通い、なんとなく進学して、なんとなく就職した。

 そしていつのまにか、何のために生きているのか、分からなくなっていた。

「わたし、迷子になっちゃたのかも……」

 さなは、小さくつぶやいた。


 かえるの王子さまに案内され、たどり着いたのは小さな井戸のある場所だった。

「ここは?」

「ここは『星々の井戸』。小さな星が溶けこんでいる井戸だよ」

「星……?」

「きっと、あなたを照らしてくれる、みちしるべとなる星」

 さなは小さな井戸をそっと覗き込んでみたが、中は真っ暗だった。

「うーん、なにも見えないけど……?」

「それじゃあ見つからないよ」

「どういうこと?」

「目を閉じて」


 さなは目を閉じた。

「どうするの……?」

「きみの心の中を探してみて。大切なものは、きみの中にあるんだよ」

 目を閉じたまま、真っ暗な中、自分の心の奥深くを見つめてみる。

 ……何か、さなの心の奥底に、かすかに淡く光るものがあった。

「なんだろう……」

 かすかな光を頼りに、さなは手を伸ばす。

「これは……、私が昔、自分で書いた、絵本……?」

 心の奥に光るもの。それは、さなの大切なものの記憶だった。

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