EP6 初めての異世界



(この場所は、一体…)


色々と考えたい事もあったが、俺はしばらくその目の前の景色に心を奪われていた。





「サアアアアアアアアアアア―」



「チュンチュンチュンチュン―」





風の流れる音に耳を澄ませば


どこからか小鳥のさえずりが聞こえる。




所々に流れていく雲の合間からは


柔らかな日差しが差し込んでいた。




日差しに反射した色鮮やかな黄緑色の草々が…どこまでも生い茂る。







(なんて、広大な大草原なんだ)




遠くの彼方に目をやると、そこには雄大な山並みがくっきりと見えていた。空気が、とても澄んでいるんだろうか。



そして、なにより静かだ。

都会の喧騒とは、まるで違う。


寒くも暑くも無い、そよ風が時折吹いて、とても爽やかで心地よい。凍えていた昨日までが、嘘みたいだ!!



―それは、春の様に暖かかった。






「フゥ…」


まぁ、ちょっと雲が多いけど、良い天気だな。



「フフフフ…」


俺は、たまらず笑みをこぼす。








「…」(俺)




―いやいやいやいや、天気の事はどうでも良い!!


まず、ここは日本なのか…


俺は慌てて、我に返っていた。まるで、北海道の大草原にいる様だ。だが、この時期の北海道はこんなに暖かくはない。今は、真冬なのだから。


いや、北海道というか…

ここがどの場所であっても、これはあり得ない事なのだ。

だって、俺は…昨日の夜は、東京のアパートにいたはずなのだから。



まだ、夢を見ているのであろうか。


(痛みは、感じるけど…)



俺は、何気なく自分の手を見つめると―



「「ギャっ!!」」


「こ、これは…」



俺は起きたら、違う場所にいた事以上に驚愕する!!


手が小さく、腕も…か細い!!


そして、後ろに手をやると、長い髪が手に触れる。どうやらポニーテールみたいな感じで、髪を結んでいるらしい。これは、明らかに女性の身体だ。



(((アワワワワワワワー!!)))


(マジかぁー、どゆことですかっ!?)


とりあえず、何か顔を確認が出来るものがあれば…

腰には、ウエストポーチがついていた。これは俺が休日の時に、ちょっとした外出で使っているポーチだ。



…というか今、着ている服装も俺の部屋に置いてあるものだった。


白いジップアップパーカーに、黒い七分丈のカーキーズボンなどなど…春先とかは、よくこの格好をしてダラダラと過ごしている。まぁ…特にこだわって、この格好をしていた訳ではないけど。俺は、ファッションには関心がないから、服のレパートリーが少ないだけだ。この服も近所の服屋で、適当に選んで買った服だった。




俺は、ポーチの中に手を入れてみる。


スマホとか入っていれば嬉しいんだか…ミラーで顔の確認が出来るし、今いる場所の位置も分かるから。






(ゴソゴソゴソゴソ…)






「!!」(俺)



カップ麺が2個出てきた。

それと菓子パンやスナックなどなど…


これ、昨日コンビニで買った晩メシじゃん!!


そういえば、食べないで寝てしまったんだっけな。




(後で食べようかな…)




えっと、他には…


湯沸かしポットも出てきた。

あとフライパンや鍋など調理器具一式、そして…ご丁寧に食器まで一緒に。



とりあえず、俺は出てきた物をその辺に並べていくと、その内に生活必需品が揃っていた。



そして…極めつきは、折り畳みのコタツであった。

これは、俺の部屋に置いてある小さなコタツだ。


…というかコタツだけではない、出てきた物は全部、俺の部屋にあった物だった。





「ワァオ…」




へぇー凄いじゃん。凄い。


生活をするにあたり、必要な物は一通り揃っているし、なんと言うか…ここでも、すぐに生活が出来そうな感じじゃん。




「ハハ八っ、便利、便利!!」


俺は、何となく軽く笑う。







「…」(俺)






いやいやいやいや、おかしいだろ、このポーチ!!

ポーチの中に入る容量を遥かに超えちゃってるよ!!



大きさ的には精々、晩飯を詰め込んだら一杯一杯の大きさなんだけど。いや、晩飯も全部は入りきらないだろうか。何だ、このポーチ。


…というか今、コタツってどうやって出したんだろ。

気付いたら、なんか出ていたけど。





(とりあえず、仕舞ってみるか…)



俺はコタツを折り畳み、ポーチの開いた口に近づける。

すると―あら不思議!!


「スポンっ!!」


開いた口に、コタツが吸い込まれていった。




「「こ、これは…」」




まるで、ドラ◯もんの四次元ポケットの様だった。


俺は、呆気にとられていた。

これは、普通のポーチではない。



なんと言うか…これは…その…進化したポーチだ!!







あまり良い表現が見つからなかった。




凄いなー。あっ、そうだ!!


俺は、スマホを探していたのだった。

ポーチから出した物の中に、スマホはまだ無かった。


俺は、もう1回ポーチの中に手を入れる。改めて、中に手を入れてみると…なんか、とても気味が悪い感じがした。得体の知れない空間に、手を入れているからだろうか。




ポーチの中に、手はどこまでも入っていく。


俺はポーチの中をかき混ぜる様にスマホを探すと、手に薄べったい長方形の何かをガッシリと手に掴んだ。



「!!」(俺)



この形と感触は―間違いなくスマホだ!!


これは間違いない。

よっしゃ、スマホがあった!!


俺は勢いよく、掴んだものを引き出した。






だか…



「えっ、何これ…?」






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