第24話 ''五人目''最前線のめるん☆

「後ろの車、左に寄りなさい!」

 左のウインカーを出して車を動かす。

 顔面が蒼白ななろは車から出ていく。慌てたようにスマホも取り出した。

 警察も二人いる。

 なろは携帯からどこかへ連絡をかけた。

「や、やばいです。じ、事故を起こしたんです。──あ、場所は──」と言っている。ということは、相手は警察だろう。

「警察は目の前にいるんですけどね。」

 目の前の彼らも苦笑していた。

「現場検証はしなくていいね。もう私達もその現場を知っていますからね。」

 なろは切符を切られ、罰金を払った。

「最悪、ついてない」と吐き捨て戻ってきた。

 凹んだ車で道を走らせていく。

 明らかにテンションが低いなろ。きっと本日は凶なのだろう。

 もはや彼女は自分のゾーンに入っていた。他人を思いやる気持ちなんて一ミリも残さず消え去っていた。

「うち、ついてない人間なんだよね。産まれてくる性別を間違えたし、親は何も知らずにガミガミうるさいし、人生はつまらないし。はぁ、めるんはいいなぁ。人生楽しそうで!」

「今の人生楽しいよ。だけどね、あたしはめるの人生の方がいいと思うよ。羨ましいぐらいに、ね。」

 常滑から知多へと突入した。

「何それ、不幸なうちへの当てつけ?」

「違うよ。だって、なろちゃんは親がいるんでしょ?」

「いるけど、それが何なの?」

「それだけで幸せじゃん。」

「意味わからない。親なんてうるさいだけじゃん。」

 知多ユートピアにたどり着いた。オープンしたのがここ二、三年のショッピングモールである。そこの駐車場の空きは簡単に道が見つかりそうにもない。

「あたしには親がいないんだよね。生みの親はいるかどうか知らないんだ。だって、物心つく前にあたしをエリアZに捨てたんだよ。」

 ズリアンらを閉じ込めた壁の中。その中に彼女は捨てられたみたいだ。

「育ての親は亡くなった。独り子のあたし引き取ってくれた施設は、あたしを愛してくれてる訳じゃなかった。だってあたいらの'ママ'のクロクマさんはいつも忙しそうだったもん。」

 車が静かになった。なろの絶望感は哀れみの感覚に上書きされているように見えた。

 運良く帰宅する車に出会った。そこに出来た駐車場に車を止めた。そこから徒歩で知多ユートピアの入り口に向かった。

 この人のたまりはおかしい。今日、何かイベントがあるのだろうか。イベントにしても相当なものだろう。世界的な有名人が来るとか、俺はその理由を想像してみた。

 入り口にポスターが貼られている。

 そこには知多ユートピアが休園することが書かれている。その理由は今週の木曜日にズリアンが襲ってくるからみたいだ。復旧したらすぐに再開すると書かれている。

 ズリアンは壁の中にしか現れないのに、なんてことを心の中で若干嘲笑いながらそのポスターを眺めていった。

「待たせたね」と来たアルファ。けれども、俺らもさっき来た。

 そのままパーク内へと入ったが、あまりの人、人、人でいつも以上に時間を食ってしまう状況だ。目的であった知多ユートピアの喫茶店も今日は数時間の待ちを作っている。

「ごめん。うち、人混みが苦手なので気持ち悪いです。」

 なろは吐き気を催し、トイレへと駆け込んだ。俺もついでに尿を足しにトイレへと向かう。その時、思わぬ顔を見つけた。

「えっ、ヨム? なんで居んだ?」

 私服姿のヨムがいた。

 相変わらず無口だけど、簡単な言葉は発してくれた。

「……来週の木曜日にここにズリアンが来るみたいだから。一応、下見ではないけど、様子だけ見てみようかと思って。」

 そう言ってその場から離れていこうとした。

 せっかくの機会。俺はヨムを親睦会に誘うことにした。断ろうとしたが、渋々引き受けた。

「戻ってきたぜ。それと親睦会、一人追加で。」

 ヨムがコクリと頷いた。

「この子は友引ともびきヨム。結構静かなタイプだな。」

「あれ? 友引……ってどこかで聞いたことあるような。」

 なろが戻ってきた。彼女にも同じような自己紹介をした。

「うちらにも友引ってつく仲間がいますよ。」

「あっ、カクとヨムは双子なんだよ。」

 なろもめるんも「えっ」と驚くがヨムはうんともすんとも反応を示すことはなかった。

 人の渦が絶え間なく回っていく。

 ブランド店や食事処を初めとする店が並ぶ一階。通路の真ん中で催される市。そのうちの一つに可愛いデザインの土焼きを売っている所があった。

「そこのお兄ちゃん達。どうです? これが最後の品となりました。最後の品をかっていきますか?」

 商品棚には七つの色の置物がそれぞれ置いてあった。どれも可愛い鳥型の焼き物だった。

 その中でも橙色の鳥が俺の方をじっと見つめている気がする。

 めるんが飛び出した。

「おおっ。お姉ちゃん。買うかい?」

「うんっ! あたし、赤紫色のソレが欲しい。この色、珍しいもーん!」

 八百円のお買い上げ。

 残るは六色。

「僕も買おうかな。赤色のお願いします。」

 アルファも買い上げ残るは五色。

 橙色の鳥が買って欲しいと目で訴えている。

 ヨムが行った。

「これ、下さい」と二つの鳥型を指さす。

 藍色の鳥と黄色の鳥をお買い上げ。

 残るは三色となった。

「じゃあ、うちも買おうかな。」

 なろが青色を買った。

 残るは二色。そのうちの橙は買ってくれと涙ながらに目で訴えている気がする。

「仕方ない。買うか。橙の下さい。」

 俺は橙の鳥型の置物を買った。

 残る一つが──余っていた。

「どうする? 一つ残ってるけど。」

「いいですよ。気にしなくて。買ってくれただけで充分ですから。」

「うーん。気がかりになっちゃう。あっ、そうだ。緑の下さい。」

「いいんかい?」

「はい。これ新しく仲間になった人にプレゼントするので。」

 その言葉を聞いて、俺らは慌てた。めるん一人で代金を払おうとしていたのを自ら数人で折半することにした。

 そこにあった鳥型の焼き物は全て売り切れた。

「ありがとう。お兄ちゃんお姉ちゃん達のお陰で最後の商品も売り切れました。あなた達に良いことが起きますように。」

 俺らはそのまま人混みの中をかき分け、親睦会をお開きにしたのだった。

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