第23話 ''四人目''後方支援のなろ☆
中部国際空港に集まり始めるもの達。人が密集するこのエリア。そこでは猛者達にとっての戦争が行われるようだ。
「初めてだよ。コミケってこんなに混むんだね。」
今日は親睦会を含めて、ここに遊びに来た。知ってはいたが人が多い。
「今日はとことんコスプレに付き合って貰うからねぇ~。」
めるんがニヤリとしている。彼女の手には可愛らしくデコられた旅行ケースがある。その中に服が詰められているようだ。
親睦会と言っても、参加できたのは俺とアルファとめるんの三人だけだった。めるんはコスプレコスチュームの製作が得意らしい。そして、それを着させることをしてみたかったと言っている。
「今回は平成ブームに乗っかって、平成漫画やアニメをイメージして作ってみたから。楽しみにしちゃってよ、ね!」
俺らは彼女に手渡されたスーツケースを持って更衣室へと向かった。
俺の衣服はシンプルなTシャツとパンツ。もはやコスプレかと疑いたくなるぐらいだ。俺はそのシンプルな服装に着替えた。
一方でアルファは普通のスーツだった。
少し変身的な意味も込めて期待してただけにがっかりという感覚だった。
「うん。ばっちり左馬刻だよ。碧棺左馬刻様。ねぇ、クシブさん、ラップやってよ!」
「ら、ラップ?」
急な無茶ぶり。これには対応しきれなかった。
「アルファは少し色黒にしよっか。安室透様に近づけるよ!」
浮かれているめるんのテンションに俺らも気分が高揚する。
色黒となったアルファはあちらこちらの女子共に人気だった。通り過ぎる人々からの握手やサインを求められている。コスプレしてるだけなのに。
俺も彼には負けるが、それなりには人が来た。そして、ラップをやってくれと言われる。いや、俺、ラップできねぇし、と思いながらも挑戦していく。
近くに執事のコスプレイヤーが来た。彼女もまた人気者だった。
「こんにちは。人気者ですね。……って、アルファ!?」
なろだった。
執事の格好をしてイキイキとしていた彼女はなろだった。彼女は顔を赤らめていた。
「なろちゃんの男装姿も良いね。イメージが捗っちゃうよ!」
「忘れて。お願いだから、今日のことは忘れて。」
可愛らしい一面が垣間見れる。
人混みを背景に俺らは笑っていた。
「痴漢よ!」という声が急にした。
俺らはすぐに振り向いた。
痴漢をしたと思われる男がなろにぶつかった。「邪魔なんだよ。クソ女」と暴言を吐いて逃げた。その彼はすぐな警備員に捕えられ、会場の裏へと連れていかれた。
「やっぱ男って糞だわ。」
その時のなろは真顔で下を向いている。嫌悪の表情がありつつも、何か他の感情が多くを占めているような気がする。
「もう……帰りたい。ここには居たくないな。嫌なのを思い出すから。」
「せっかくのコミケが台無しだね。ねぇ、みんなで知多ユートピアにいかない? そこでみんなでシェイク飲もうよ。最悪なことを忘れてさ?」
俺らは少しでも人混みが少ない所へと掃ける。周りは人混みの騒音で包まれている。熱気もすごい。
「どう?」
「そこまで言うなら……行こう。」
俺らは親睦会の場所を変えることにした。
俺らはコスプレから普通の服へと着替える。全くだ。ここまで人混みが激しいとは思わなかった。人の少ない裏の世界にお似合いの俺には似つかわしくない場所だと思った。
「みんなって何で来たの? 車?」
「僕らは名駅の銀時計に集まって、そこから電車で来たんだよね。」
「そうなんだ。うち、車で来てるから乗せてくよ?」
アルファは「ごめんね。寄りたい所があるから」と断った。昔の友人が常滑に住んでいるみたいで、顔を合わせたいみたいだ。知多に行くことになったため、彼は常滑の友人に会うことにした。
俺らはなろの車に乗せてもらうことにした。
りんくう常滑まで移動しなろの車に乗る。水色の軽自動車で丸みがあり可愛らしい。最近でた「チコ」と言う車種だ。目の前の窓には初心者マークがついている。
俺らはチコに乗り込んだ。
車内には今流行りのポップソングが流れていった。
「ねぇねぇ、なろちゃんのコスプレ凄かったよ。ね、クッシー!」「クッシーって……。」
あまりの馴れ馴れしさに苦笑い。
「まあ、凄いのは確かだった。これ言っていいのか分からないけど、男に見えたわ。だから、なろだと分からなかった。それぐらいコスプレの技術力が凄かったってことな。」
車の速度が上がった。
「うん。あたし、コスチューム作りが趣味だから、なろのも作りたいな。どんなのが着たいとか希望ある?」
有無を言わせず作るつもりだ。
「──かっこいい男のコスプレがいいな。できれば……」をボソッと言った。後ろの席からでも彼女の頬が赤くなっていることが分かる。
「分かった。次のコミケはカッコヨな男装、準備しとくね! なろちゃんの思い、叶えます!」
彼女はすぐには返答しなかった。
「けど、キモイよね。女の私がこんな男男したものを着たいなんて。うち、女なのに男みたいになりたいなんて。」
「えっ? そんなことないよ? 男装も女装も、トランスも全部、おかしなことじゃなくない?」
「けど、似合うのなら大丈夫だと思う。だけど、うちは絶対に似合わないから。」
否定が繰り返される。
思わず俺は言葉が出た。
「そんなん関係なくねぇか。大事なのは心じゃねぇの? どんなに周りの目が気になろうと、自分が良けりゃそれでいいじゃねぇか。じゃねぇと、息が詰まらねぇか、この世界。」
なろは「えっ」という顔をしている。
下道をプラス十キロで走っていく。
「なろが男になりたいって思ったとしても、俺は絶対笑わねぇし、笑わせねぇ。仲間を侮辱する奴は俺が許さねぇ。だから、なろはなろで隠すな。自分の心を隠すな。なろはもう仲間なんだ。俺は仲間であるなろの助けになりてぇんだ。」
速度がまた上がった。
運転手は何故か耳をつんざくような高い笑いを出していた。
「なんか吐き出したら気が楽になった気がする。けど、そんな簡単に性格は変わらない。うちはうちの性格が嫌いだから。身体だけじゃなくて心も女だから。だから、男になんてなれやしないってずっと思ってる。きっと簡単には治らないから、それは覚えていて。うちはクシブ君みたいにそう簡単には変われない。それでも夢見ようかな。若いうちに夢が叶うといいな。」
「言えたじゃねぇか。それだけでも夢への一歩は踏み出したんだぜ。何歩で夢に辿り着くかは知らねぇけど、踏み出さなきゃ絶対に辿り着かねぇしな。俺も簡単じゃねぇと思うぜ。でもな、なろなら変われる。きっと……いや、絶対な。」
今まで見てきたなろの表情がここにきて少し明るくなった気がした。全てに対してやる気のない炎を宿してたなろの目はやる気を宿した目に変わった気がする。
ピピピピピ!!!
その時に鳴り響く警告音。
次の瞬間目の前の車にぶつかった。俺らはシートベルトに強く締め付けられた。
目の前の車の上にはランプがある。それは白を基調とした車だった。そして、車体の横には警察署の文字が。
そう、なろはパトカーに突っ込んで事故を起こしたのだ。一時の間、無音となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます