第22話 折紙のマスク

「なあ、知らねぇとは思うが聞いてもいいかい? 燦然さんぜん部っているか? 燦然部の奴らはホープにいるのか?」

 俺はピンと来なかった。ヨムも無言を貫いている。俺は「知らない」と答えようとしたが、ヨムが耳元で囁いた。燦然部の奴らはいるみたいだ。

「いるのか。じゃあ、部長のログはまだやっているんだな。はぁ、まだまだ身を隠さないといけないなぁ。」

「大安──ログ?」

「おっ、知ってんじゃないか。そうそう俺が昔入ってた燦然部の部長──いわゆる若頭だな、だったんだよ。」

 彼は折り紙のコップに入った酒を飲み干した。プハァ、と声を吐いた。

 俺もそれにつられてジュースを口に入れた。そのついでにログがトップスリーだということを伝えた。

「あいつ、三番目なのか。こりゃ、外にゃ出られねぇなぁ。あ、燦然部の同期なんだけど、ノラはいるのか? 奴ならそれなりに強い、というかログと張り合えるしな。名前ぐらいは聞いてないか?」

 俺は彼女がトップツーということを伝えた。

「マジかぁ。まあ、素質はあるもんなぁ。俺、あいつと同期なんだよ。けど、あいつマジモンのサイコパスだからさぁ、俺の身が持たないんだよ。きっとだぞ、あいつ心がないんだ。残虐性しかない悪魔だ。表面上は取り繕ってても悪魔だ。そいつのせいで、俺は病んで燦然部を辞めた。そしたら、ログが怒って刺客を送りやがった。死を覚悟して暮らさなきゃいけないから、俺はここでゆっくり隠居してるって訳。五年前から。」

 酔いが回っているのだろうか。少し早口だ。

 俺らは数十分、そこにいた。

 彼が少し頭をガクッと倒したのを見て、俺とヨムは見合わせた。帰るか、という言葉を目から発している。

 俺らはその場を後にした。

 花畑を過ぎ、一本道の洞窟へと着た。少し下りになっている。

 少し歩くと、入口に芒種が追いついてきた。

「おいおい。帰るのか? 帰させないぜ。ここは誰にも知られちゃいけない場所だ。帰るんなら殺す。ここに残るなら、今すぐに決めろ。残るのか? 死ぬのか?」

「帰る──」とヨム。即答だった。

「じゃあ、死ね。」

 折り紙で作られた弓矢が飛んできた。それをヨムの糸が軌道を変える。

「伝説の殺し屋女一族──えぇっと、確か友引一家みてぇな技使うんだな。めんどくさっ。」

 芒種は折り紙を大量に使い、龍を作り上げた。龍に食われれば一溜りもなさそうだ。

 その龍を吹き飛ばすレーザー。

 ヨムはシロクマフェスで光線のマスクをつけているみたいだ。

「技の読み合い。だから、対人戦はめんどくさいんだよなぁ。」

 頭をポリポリと掻きながら、彼は大きな武器を作り上げる。それを壊そうとレーザーが乱雑に放たれた。それによって入口の岩盤が崩れ、入口が塞がった。

「一か八か、やるしかない。どうせ出口ないし。」

 俺はヨムから威力の高い攻撃を提案された。それは俺らをも巻き込み自爆する可能性のある技だ。だからと言って、躊躇う時じゃない。

 俺は砂とそれに付着する岩を固めていった。いつの間にかできる岩の玉。玉は下り坂によって少しずつ転がっていく。

「逃げるぞぉ!!」

 ヨムは糸を使って飛ぶように逃げていった。

 って、おい。俺、そんなことできないぞ。

「うぉぉぉぉぉぉおお!」なんて言い出す俺と芒種。勢いを増していく岩の玉とそれから逃げる俺ら。必死に走っていく。

 そこに聞いた声がした。

「全く。こんな場所があるなんてね。二人が消息を絶った場所をシロクマさんに教えて貰ってきた場所に来たけど、露骨にわかりやすい地下通路への階段が見えてたからいいけど、見えなかったら絶対に分からなかっただろうしね。」

 アルファだった。

 彼は手を振った。返したいのはやまやまだが、それどころじゃない。

「ったく、心配させるなよな。二人が消えたから、探しに……って、うぁおお!!」

 俺とアルファ、芒種は転がる岩から逃げるように全速力で走っていく。

「どういう状況だよ。これぇえええ!」

 下り坂のお陰か、スビードが出しやすい。ただ、それは岩の方もだが。

「俺ら、こいつに殺されかけたんだ。で、岩の玉で攻撃を仕掛けたらこうなった訳。」

「馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの?」

 その時、地面から小さな板が作られた。折り紙で作られたハードルだ。ハードル走のように飛んで避ける。

「あ、危ねぇじゃねぇか。」

「ふん、死んで欲しい奴にそれ言うか?」

「あんた自身もピンチなんだよな。何故、自分にもハードル作ってるの……。」

「そりゃあ、こんなすぐにやらなきゃいけないのに誰かだけなんて器用なこと出来るわけないじゃんか。はい、次!」

 次のハードル。作った芒種が転けかけた。

「危なかった。」

「あれ、アンタも馬鹿なの?」

 下り坂を走っていく。

 岩の回転と来るスピードが上がった気がする。

「うおっ?」

 芒種が転けた。

 どこからか糸が見えるような。すぐにヨムのお陰だと気づいた。すぐそこにはヨムがいた。それだけじゃない。壁もそこにあった。

「これはヤバイ。すぐに上に上がらんと潰される!」

 芒種は潰された。

 ヨムは糸を使って安全圏へと逃げた。後は俺らだけだ。

「任せて、ここは。今日の僕は蜘蛛の力があるからね。」

 俺はアルファに抱かれた。

 彼は手から糸を出して、その糸を辿って上へと上がった。岩にはギリギリ当たらなかった。

 ドシン。おおきな揺れが起きた。それと同時に岩は崩れた。

 その後。その洞窟は天井が崩れ、見るまでもなく原型を失った。もう、あの花畑に行く道はないだろう。

「散々だったな。」

「いや、それ僕の言うことだからね。それも一番の要因はアンタでしょ。アンタが岩を作ったから。」


 シロクマフェスは終わった。

 順位は散々だった。

 俺は受付に土操のマスクを返した。

「どうでした? 土操のマスクは?」

「ああ、良かったよ。けど、やっぱり野獣の身体能力は欲しいな。両方あればいいんだけどなぁ。俺はそれも含めて、今まで通りに野獣のマスクだな。」

 俺は帰宅の準備をした。

 いつも使っている鞄。そこには大切な大切なお守りが入っている。神様の加護は一切ない。それはただのマスカレードマスク。

 治安維持や安全のためにホープの外に持ち運べないため、俺専用のロッカーに入れた。そして、いつもの言葉を放つ。

「今日も、成長を見守ってくれてありがとな」と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る