第21話 土操のマスク

 第四回シロクマフェス。

 そのポスターに目が奪われた。フェス当日は参加者が、大量のC級ズリアンを誘導した場所でズリアン狩りをする。どれほどズリアンを倒せるかを競う。そしてこのフェスは──何と、いつものマスクが使えない。その日、運営がランダムでマスクを貸し出す。どのマスクになるかは当日のお楽しみだ。

「これはいい機会だね。違うマスクを使うことで新しい発見に気付けるからね。能力の使い方や動き方、いつもの使うマスクでの戦い方をレベルアップさせることができるはずだよ。」

 アルファはフェスに参加するようだ。さらに、俺にフェス参加を勧めてきた。

 まあ、断る理由なんてない。

 俺はアルファに教えて貰いながらフェス参加の手続きを行った。


 日曜日の電車はどこか酔いが回るのが早い。

 ぎゅうぎゅうずめの電車も栄駅を通り過ぎてからは多少の間が空いたが、まだまだ人が多い。

 藤が丘で降りてモノレールに乗り換える。

 そう言えば、ここに来てから新たな場所の発掘をまともにしてなかったな。いつかしてみようと心に決めた。

 ホープに着いて、受付へと向かう。

 俺はスポーツマスクを受け取った。

 フェスが開催されるまで時間がある。俺は一旦、控え室へと向かった。ロッカーに荷物を入れて鍵を閉める。

 煙草を持って喫煙室でも行こうか。

 そこに向かっている時に、久しぶりに見る顔があった。

「おっ、久しぶりだな。」

 軽く頭を下げられた。それだけで終わった。

 相変わらずだな。

 無口だけども、奥底にある力強さ。友引ともびきヨムはミステリアスな雰囲気が漂っていた。

 煙草を吹かしていく。

 シガー。この白い煙を吸い込んでいた分だけ外に出す。

 いつの間にやら開始時刻となっていた。

 俺は開始と同時に会場の中へと向かっていった。

 俺に与えられたマスクは土操のマスク。俺はマスクから涎のように泥土を垂らすことができた。「汚ねっ!」なんて言いながら泥土を出す。出した泥土は俺の意思で自由に変形させることができる。また、固めて鉄程の硬度にすることもできた。

 まだズリアンは現れていない。この間に能力を使えるようにしよう。

 土をゆっくり棒の形にしていく。

 今度はそれを硬くする。

「うん。シンプルな動きはやれるな。」

 今度は鎌型の刃物をくっつける。今度は先に行けば行くほど鋭く尖らせていく。

 それを硬くした。

 そこに現れるサイ型のズリアンであるサイスタ。俺はその鎌で切り裂いた。サイスタは一瞬でやられていった。

「錬金系の能力を扱えるな。」

 なんか頭の中で蛙の偶像が浮かんでくる。俺は頭を横に振って、その頭の中の偶像を消し去った。

 サイスタが二体も現れた。

 今度は遠くの土を対象にする。

「これはいけるかっ。」とドキドキしながら遠距離で土を操る。

 地面から棘を生やす。すぐに硬度をマックスにする。そして、生やす。これを高速で繰り返す。一本の棘がサイスタを貫いた。まだ倒しきれない。

 それを何本にも増やす。

 しかし、上手くいかない。硬化させられずに土がほろける。

 ガブリッ。

 横入りでサイスタを食らう恐竜──のぬいぐるみを着た存在。

「これで二点ゲットっす。残念ながらこれは勝負っす。知り合いだからって手加減はしないっすよ。」

 聞いたことのある声。

「透か?」

「正解っす。最近、S級となった透っすよ。このゴールデンウェーブに乗ってくっす。優勝は渡さないっすよぉ!」

 慌ただしくその場から過ぎ去っていった。

 続いてアルファがやってきた。

「土操のマスクね。僕は蜘蛛のマスクだったよ。」

 そう言って、蜘蛛の糸を巧みに操ってその場にいたコアラ型のズリアン、ヒアランを叩きつけて倒した。

「新たな発見があったよ。クシブ君も発見のある場になるといいね。」

 アルファもまた行ってしまった。

 俺は現れていくズリアンを倒していく。その度に土操の能力にキレが増していく。

 どれほど倒したのだろうか。

 少し疲れてきたな。

 その時、見た事のある人影を見つけた。ヨムだ。俺は彼女の方へと向かった。

 ヨムは人気のない場所へと進んでいく。

 たどり着いた場所は廃墟のような建物が並ぶ場所だった。

「怪しい人を見つけたから追いたい。」

 淡々とした小さな声。けれども、珍しい声。

 彼女はオドオドと言ってきた。そこには多少の信頼感を感じさせた。

 廃墟の中、さらに地下へと通じる秘密の部屋。そこから少し進むと、洞窟の中の少し広めの一本道が現れた。

 軽い上り坂となっている。

 俺らはそこを進んだ。

 進んだ先には、カラフルな花咲きほこる場所へとたどり着いた。

 花の中でキャンプ用具のような、けどそれにしてはあまりにも可愛らしく頼りないテーブルやコップなどを広げている男がいた。

 スポーツ狩りの少し長身の男だった。

 中年程度の年齢だろう。世間を見知った男の笑顔が眩しい。

「珍しい。こんなところに人が来るなんて。いらっしゃい。ここは秘密の園。世間には出ずとも生活していける場所なんだよ。」

 彼は折り紙でできたマスクをつけた。

 無数の折り紙が現れ、折り紙によって椅子がつくられた。

「俺は折紙のマスクで、必要最低限のものは折り紙を使って作れるんだ。さあさあ、座って。酒はいるかい? ジュースも一応はあるぞ。」

 まだフェス中だし、俺はジュースを貰った。もちろん未成年のヨムもジュースを貰った。

 ヨムは名前だけ言い、俺は軽く自己紹介した。今度は彼の番。「俺は毒島ぶすじま芒種ぼうしゅ。元々ヤクザやってたんだが、もう足を洗った。まあ、殺されないよう世間からは亡きものとなっている。まあ、よろしくな。」

 表面上はとても優しいのに、どこか裏では怪しいものが見え隠れしている。

 俺らは貰ったジュースを啜っていった。

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