第25話 【VS 雷迅紅ボル鳥】①

 シロクマさんが言った。

 元X級ズリアンの輪風鹿ワープシカは昔とても恐れられていた。通常ズリアンは壁の中にある中央部で生まれ、壁の中で一生を終える。壁とハンターにより、それを可能にしている。

 だが、ワープシカが例外を生じさせた。ワープシカはワープホールを作り出し、壁の中と外を繋げたのだ。これにより力を持たない一般人に被害を与えた。当時一般人だった板コノヒトの活躍により被害の拡大を抑えたものの、死人も負傷者も出してしまった。その事件は世間を賑わせた。

 それからはA級だったワープシカをX級に改め、特別監視対象として注視していた。

 ズリアンの解明が進んでいる現在、ある程度ワープシカについても解明されていた。

 外に繋がるワープは相当な時間がかかる。何年単位のレベルだ。また、場所も特定可能だ。まず遠すぎる所にワープは起こせない。そこから絞り込んで探し出すことができた。いつ、どこで、が分かったお陰でワープシカを斃す参段もついた。それに伴いX級ズリアンからS級ズリアンへと数年前から降格させていた。

 そして、今日がワープ発生その日だった。

 木曜日の今日。場所は知多ユートピア。

 そこに数十人のハンターが集まった。血気盛んなハンターの中の一人に俺がいた。

 まさか本当にこんな所に現れるとは思いもしなかった。嘲笑ってた前までの俺を正したい気分だ。

「来るよ。ワープホールからズリアン達が飛び出してくる。君たちはこの知多ユートピアから出ないように沢山狩りまくって頂きたい。」

 穴の中から何かが出てきた。それなりに巨体な体躯だ。

「これはまずいね。みんな、ワープホールから離れるんだ。」

 ワープホールから黄色い鳥型のズリアンが出てきた。建物の二階まである大きな巨体だ。その周りには薄い円の膜が貼られている。その膜の中に入ったモノは全て消滅した。

 そのズリアンが動き知多ユートピアの中心へとやってきて、空中で居座った。その間にそのズリアンのサークルと重なった建物などは消えた。

「この巨大な鳥のズリアンはX級だ。」

 黄色く眩く光る鳥はショッピングモールの中央を陣取った。その周りを囲むようにハンター達が身を構える。

「X級ズリアンの雷迅紅らいじんぐボルとりだ。奴を囲む円型の膜は、中に入るモノを全て雷に変えてしまう。さらに、ライジングボルトリは雷を吸収し、攻撃に上乗せする。つまり、攻撃しても敵の攻撃力を上げるだけということだ。」

 ワープホールから他のズリアンが出てきた。

 今度はハンターの周りにドローン型装置がやってきた。ズリアンバスターを持ってきている。俺らはそれをつけた。

「それをつけている間にズリアンを倒すと、そこにズリアンが吸い込まれエナジーが溜まるよ。エナジーが溜まる程、身体能力が上昇する。また、全てのエナジーを解き放つことができる。これもまた、エナジーが溜まっていればいる程火力があがる。X級ハンター退治に役立ててくれ。」

 ボルトリ(※ライジングボルトリ)が真っ直ぐ伸びる雷を繰り出した。一直線に伸びるそれはハンターには当たらなかった。

「うちら何にもできなくない?」

 なろは雨雲を繰り出す。円の中に入ると雨雲は電気に変化し、ボルトリに吸い込まれいった。

 他にもハンターの攻撃があったが、円の中に入った瞬間に全て電気に変化し、ボルトリに吸い込まれた。

 ボルトリの攻撃。一直線に伸びる雷は床にぶつかった後、その場所から広範囲に散弾する雷が襲った。ハンターも二人、痛手を負った。

 下手な攻撃は一方的に相手の攻撃を増加させてしまう。

「ライジングボルトリだけでも厄介なのに、他のズリアンも襲ってくるとなるとめんどくさいね。『炎の奇跡』」

 トラ型ズリアンのトライブが煙をまとって襲ってきた。それを炎で焼き殺した。

 今度はアザラシ型ズリアンのハザラシが襲ってきた。ハザラシは突如襲う蔓蔦によって絞め殺された。

「本部待機組の分まで働くっすよ。」

 透がやってきた。

 彼はボルトリに向かって一本の蔓の攻撃をするものの、それもまた雷に変えられてしまった。

 今度はズリアンバスターを使って波動砲を繰り出すが、それもまた雷に変えられてしまった。

「まあ、これと言って勝てるビジョンは浮かばないんっすけどね。」

 突然叫ぶ男。

「ぐらぁ。全く癪に障る。こんな奴。俺様の最強の一撃で葬りさればよいものをぉ!」

 大柄の男の肘や膝からエネルギーが溢れ出していく。

「くらええい! ターボのマスクによる、『ターボインパクト・ゼクターファァァイブ』」

「やめるっす。死ぬっすよ。」

 男はターボの力を使って猛スピードでボルトリに向かって突進した。円の中に侵入するや否や彼は雷に変えられ消滅した。

「ひっ!」

 なろの腰が抜けた。体が震えている。

「当然の反応だね。ホープの常識に馴染んでしまった僕らは感性が狂ってるけど、なろにとっては初めての経験だからね。人間としては正しい反応だよね。」

「こういう業界だ。クズ人間におあつらえ向きのな。しゃあねぇ。クズじゃない奴は試練を乗り越えるしかねぇんだ。乗り越えんのも無理なんも本人次第だ。俺らはなろを守るしかねぇ。」

 きっとめるんもいたらなろと同様に崩れ落ちるだろう。めるんが本部待機組で良かったとつくづく思った。本当はカクと一緒の予定だったが、カクは今日急にため、彼女は一人ホープで待機している。

「来るっすよ。ズリアンが!」

 ハザラシが正面からやってきた。俺は素早い突進でハザラシを牙で穿った。他に来たズリアンをアルファと透で消し去った。

 俺ら三人で彼女を守っていく。

 その時だった。

 なろの頭上にだけ雨が降った。

 服も何もびしょ濡れだ。雨が頬を伝って落ちる。彼女は立ち上がった。

「もう大丈夫なの?」アルファが聞いた。

「大丈夫かどうかは分からないけど、やらなきゃ死ぬんでしょ。もう失いたくない。だったら、やるしかないじゃない。」

 赤くなった目尻に雨水が通過していく。

 強く握り拳を握っていた。

「一か八か。やってみなきゃ死ぬしかない。もう誰も死なないで。」

 円の上から雨を降らす。

 雨は全て円の中では電気に変化し吸い込まれた。

 ボルトリの攻撃。一直線に伸びる雷。それが壁に当たると否や広範囲に雷が広がった。これ程広範囲ということは、それだけ雷を吸収したということだろう。

「くそっ。ふざけんなっ。あぁ、ムカつく。あの鳥。ああっ、もう!」

 なろはボルトリを強く睨んでいた。

 怒りとか悲しみとか簡単な感情じゃない。色々な憎悪的感情を詰め込んだ複雑なものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る