第19話 雨雲のマスク
カクは唸りながら掲示板を見ていた。
掲示板にある任務を見定めしている。
「B級任務もいいけど、五人もいるからなぁ、A級でもいいのかなぁ。クシブはどう思う?」
俺はリスタのことを思い出した。リスタだけではない。七五三だって、板だって、俺はかけがえのない存在を失っている。それこそがこの仕事なのだ。
「俺はB級でいいと思うな。難しい任務で死んじまうのだけは御免だからな。」
「何言ってんの? 死ぬのはどれもだよ。その考えが命を落とす結果にならない?」
ヒヤリとした。
ハッとした。
「カクは敢えてA級でもいいと思うんだ。このチームがずっと続く訳じゃないじゃん。その時に、二人が困らないように。それこそ、その時に死なないようにね。今成長するためにはA級がいいとは思うんだよね。五人もいるからさ、こっち側のサポートも充実してるしね~。」
俺は何も言えなかった。
カクはA級の中でも比較的簡単な任務を選んだ。対象はS級ズリアンであるゾウ型のズリアン──シンゾウの、子どもである。A級シンゾウの子どもの鼻が今回狩りとるものとなる。
そして、任務の日となった。
なろは動きやすい服装で、めるんは可愛らしい服装でやってきた。それで本当に良いのかと聞いたら、「ダメなの?」と返ってきた。これから戦うのに。また、その服装に似合わない全面に棘がついた大きな盾を持っている。それが武器なのだろう。
俺らは少し大きめの乗り物に乗った。
自動運転によって目的地に向けて、揺られていく。
「ねぇ、なろちゃん。なろちゃんって歌聞くことが趣味って言ってたけど、どんなジャンル聞くのか、聞くの忘れてた! 教えて!」「最近はボカロとか多いかなぁ。」
二人は仲良く話している。最近会ったばかりなはずなのに仲良くなるのが早い。
「オススメある?」「てにをはの曲とか好きかも。」「そうなの? あたし、今頃になってプロセカ曲にはまってるからボカロもまあまあ知ってるよ。」
賑やかになったなぁ、としみじみ思う。
そこにカクも混じり、さらに賑やかな雰囲気となった。まさにアットホームだ。
そうこうしている内に、走行は終わり目的地へとたどり着いた。
山を登る。少し斜な道を進む。
すぐに大きな壁が立ち塞がる。これ以上は進めないだろう。そんな時にだった。
「これあたしの能力を使えばいけるよ」と伝えられた。
どういうことだろうか。
いつの間にかめるんが壁の上にいた。少し太めの木に軽くしがみついている。
彼女のマスクの視線が盾に向かう。すぐに盾は瞬間移動し、めるんの元へ。
アルファもカクもなろも俺も、瞬間移動した。何かに引っ張られているかみたいに。
めるんの活躍もあり、俺らは最短距離で目的の場所についた。シンゾウの子どもが一人でいる。カクがズリアンについての説明を行い、数分で終えた。
「なろちゃん、攻撃できる?」
「ムリ」と返された。それにより場が凍った。
彼女は冷静な雰囲気を醸し出していた。
「うちの能力は弱いから戦えないです。」
意欲の低さが顕著だ。初めての経験でどのような言動を取ればいいのか分からない。ふと思いつく言葉を振り絞った。
「どんな能力なの?」
「雨を降らすだけです。攻撃性がない雑魚武器なのに、あのシロクマって人がこれしか選ばせてくれなかったんです。」
語尾が下がっている。溶けていくように消える語尾が返答をするな、と言いたがっているみたいだ。
すぐそこにいる敵にはまだ気づかれていない。
「ねぇ、あたしがやってあげるよ。」
めるんが前に出た。
「あたしね、攻めることができるんだ!」
彼女は消えた。
いつの間にかシンゾウの目の前すぐそこにいて、棘つきの鉄盾でもたれかかるように攻撃をした。しかし、シンゾウは無傷のようだ。
シンゾウが鼻を上にやると同時にめるんは上へと飛ばされた。そして、鼻が振り下ろされると空気の振動でめるんは真っ直ぐ吹き飛ばされた。
失速していき俺らの前で──空中で──止まるめるん。
「糸のベッドだよ。全くさーあ、勝手に行動しないでよ。もぅ。」
シンゾウが雄叫びを上げた。
それに呼応して助っ人にくるズリアン達。
「もう、戦闘開始だねっ。とりま、周りの雑魚は任せてよねぇ。だってもう、罠は仕掛けてあるもん。」
カクの放った透明な小刀が糸や能力の壁を経由して、軌道が曲がったり、速度が加速したりして、ズリアンらを切り裂いたり貫通したりしていく。
止まらない攻撃がズリアンらを倒していく。
「『
アルファは型を構える。広げた手のひらの横には揺らめく小さな大剣のモニュメントが見える。次の瞬間、彼はシンゾウの背後へと消えた。シンゾウを炎の手刀で斬っていた。
相手は大分弱ってきた。
アルファは追い討ちを掛けようと両手をシンゾウに向けた。
「その炎でこの糸、切ってよね。後、こいつ近寄らせとくから。」
パッ、とシンゾウが消えた。
いつの間にかめるんの目の前へと移動していた。
「勝手なことをしやがって。自由奔放なのはカクで間に合ってるってのに。『炎の息吹』」
「えぇ、カクはそんな自由奔放かなぁ?」
「誰かどう見てもそうだと思うんだけどね。」
炎がシンゾウを襲う。
ついでにめるんも糸から解放され、すぐさまそこから離れた。空中にいたシンゾウが地面に落ちる。それまでには脱出することができていた。
斜面へと倒れるシンゾウ。その斜面の先には崖がある。
「ここの土は柔らかく湿っていて水はけが悪い。大雨を降らせられれば崖下まで落とせるかも。」
「だってよ、なろちゃん。やってみよっ。」
「そこまで言うならね。」
なろはマスクから雨雲を出していった。
雨雲は段々と大きくなって当たりを黒く染めていった。ポツリ。大雨が降っていく。
「シロクマさんが雨雲のマスクを推し進める訳だね。ここまで能力を最大限に活かせるとは、才能以外の何者でもないからね。なろにとっての雨雲のマスクは神から授けられた天啓かも知れないね。」
豪雨が地面をかっさらって斜面を下る。
表面の地面が崩れて下へ下へと落ちていく。
シンゾウはそのまま足を奪われ、斜面の下へ下へと落ちていき、ついには崖付近までズルズルとやってきた。
シンゾウが崖から落下した。
ズシンという音が雨音で掻き消された。
「まだ倒しきれてないかもねっ。トドメは頼むよ、クシブっ!」
「おう、任せろ。」
その時、雲がめるんのマスクに吸い込まれていく。天気が晴天に戻った。
糸に括り付けられ、カクの放った小刀と能力による加速に連れられ空中へと飛び出した。
虹のかかる空の中。
真下にシンゾウがいるのを発見した。
「決めてくぜっ!」
遠くからでも分かる。この一撃で倒せるという感覚がある。この一撃で決める。俺は体を捻った。
回転しながら落下していく。
俺の落下攻撃はシンゾウを捉えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます