第18話 旋風のマスク

 ロボットが空気砲を放って応戦している。

 シンゾウの攻撃でロボットは地面に叩きつけられた。もう機械の体はボロボロだ。壊れるのも時間の問題だろう。

 俺はそこへと向かった。

 そこに一匹のズリアンが乱入してきた。

 トラ型のズリアンだった。俺は勉強会でそれについて学んでいた。A級のズリアンである虎燻トライブだ。口から放つ煙は高音だ。

 野生の本能なのかすぐに俺を狙ってきた。

 だがしかし、問題はない。

 口から放たれた高音の煙。モクモクと出てくる煙は黒く濁っている。俺はその煙を一気に噛み飲み込んだ。

 すかさずトライブを蹴り上げる。

 宙に浮いた敵を十八番である回転しながら牙で食らう攻撃を行う。ダメージは与えたものの倒しきれなかった。

 突然、横に伝う大きな衝撃がきた。強い威力だ。

 シンゾウだった。

 シンゾウの横振りの攻撃で俺は吹き飛ばされた。その後、俺は地面を転げながら遠くに飛ばされ、大きな岩へとぶつかった。

 そこに真っ黒な煙が襲う。

 視界が真っ黒だ。

 ここの真っ黒な空間が無限に広がっていく。


 真っ黒の空間から抜け出した時、パッと目を見開くとそこは医務室だった。

「あっ、起きましたか。ご無事で何よりです。」

 そう言って、ナースは優しく微笑んだ。

 俺は気絶していたようだ。ロボットによってすぐにここに運ばれたらしい。

 はぁ、とため息を吐いた。

 さっきまで試験を受けていたのにこのザマだ。合格なんてできている訳がない。

 この日は土曜日の朝だった。

 合否については明日分かるようだ。

 ただ、カクが土日は来れないとのことで明後日に透や極と一緒に確認することになった。


 そして、待ちに待った合否の確認の日。俺らは一人ずつシロクマさんから結果を聞いた。最初に聞いたのは俺で、もちろん結果は不合格だった。筆記は良かったものの、A級になるには実力不足のようだ。それもそうだろう。あんなザマじゃ無理だ。

 続いて極が行った。

 彼は戻ってくると否や首を横に振った。

 彼は初めにいたロボット二匹のうち一匹を邪魔だからと置いていき、無理やりついてきた一匹は旋風の力で粉砕した。アルファ曰く、そもそもロボットはC級となる部下を示していて、それを置いていく、粉砕するなんて以ての外だ。

 その次に聞きに行った透はドヤ顔で戻ってきた。調子に乗ってポーズを決めている。

 最後に聞きに行ったカクもまたドヤ顔で戻ってきた。「えっへん!」と言ってにたにたしている。

 アルファと大森は安堵した表情で彼らを見ていた。彼らもまた二人に向かって安堵に喜びを加えた表情で見返した。

「アルファさん。勉強会を開いてくれてありがとっす。苦手な筆記もお陰で克服できたっす。」「大森さんの実技の教えも助かった~。」

 そして、二人は感謝を述べた。

 大森さんは小さく「何も教えてなかったんだけどなぁ」と言って苦笑いをしていた。その後、俺らの方を向いた。

「二人は残念でしたけど、次は必ず合格して下さい。」と俺らにメッセージを送ってくれた。


 今日はカクと透のA級合格祝いということでアルファが俺ら全員に焼肉を奢ってくれる。俺らがホールの中を歩いていると、ふとホールの掲示板が目に留まる。

 そこには討伐依頼が書いてあった。

「A級になるとチームの実情を考えて、この掲示板から任務を選ぶことが出来るようになるんだよね。」

 ズリアンの写真がズラッと並ぶ中、ふと一枚の写真だけ人間の写真があった。見知った顔だった。

「友引立夏──ね。ズリアン側に寝返り、何人ものハンターを暗殺したらしいですわ。怖いったらあらしないですよね。」

「この人ってカクの姉ちゃんっすよね?」

「そうだよ。」明らかにトーンが低い。

「もしかしたら任務中にばったり、ってこともあるかもしれないよね。」

「それは……嫌だなぁ。カクは姉ちゃん達、苦手なんだよねぇ。立夏ねぇは仕事で土日しか来ないから合わないで済むと思ってたのに。」

 独り言に近い。段々とトーンが低くなっていく。

「まあ、土日以外にアイツが来る訳じゃないからいいけどね。」

「アイツ──?」

「クシブは知ってると思うよ。ヨムのことだよ。」

 立夏もヨムも俺はチームを組んでたことがあるから人柄とかもよく分かる。

「ああ、確か双子だったっけ。」

 アルファの言葉に間を開けて「──そうだね」と呟いていた。彼はこの場から、この話から切り上げたそうに思ってたのか、よりぶっきらぼうになっていく。

 それに気づいた大森がこの場から焼肉の場へと上手く誘導していった。


 俺らは焼肉を楽しんだ。

 ジュージュー。ジュワジュワ。ジュゥー。

 カチリ。

 パクリ。

 ジュー。ジュワッ。

 ボッ。

 カコン。

 トン。

 パクリ。

 俺らは焼肉を満喫した。



 ふと、そこにはヨムがいた。近づくと立夏もいた。次の瞬間に赤い血が巻き上がる。糸と滴る血。そこには笑っている人影が。近づくとそこにはカクがいた。彼の笑みが世界を揺らす。

 揺れて、ラグが起きる。

 俺は現実に連れ戻させられた。

 俺の日常は大きな変化はなく過ぎていく。借金も少しずつ返済できてはいるものの、目処は一切立たない。

 家の外に出て誰もいない裏路地へ移動する。そこで煙草を蒸した。煙草もろくに吸えやしないいきづらくなった世界。陽の当たる所に出ると桜の葉が流れ落ちていった。

 もう春だな。

 シャキッとしたスーツを来ている希望に満ちた顔の青年。俺にもそんな時期があったな。懐かしい。

 車が走り去る数も増えている。

 そうだ、そんな時期だ。

 ホープにたどり着く。先にアルファとカクが着いていた。さらにシロクマさんもいる。

「待ってたよ。今は卒業と就職のシーズンさ。このホープにも沢山の人材が入ったよ。さて、君達には二人の新人を付けようと思うんだ。」

 現れたのは若い二人の女の子。

「二人とも高卒だ。ホープのことだけではなく社会常識も分からないことだらけだろう。教育も含めて仲間に迎え入れて上げて欲しい。」

 一人は白黒のボーダーシャツに黒ズボン、ショートカットと鋭い目つきが印象的なボーイッシュな女の子だった。

 一人は淡い桃色のフリルが目立つブラウスとしっかりとした折り目のある黒のプリーツスカート、厚底のローファーという地雷系というか量産系というか、個性的だけど在り来りな見た目の女の子だった。

 とても個性的な二人だ。

 ボーイッシュな方は仏滅ぶつめつ成桜なろ。強くなりたいという一新で来たようだ。

 地雷系の方は赤口せきぐちめるん。彼女は進学する大学がなく、なくなくここの就職となったみたいだ。

 俺たちのチームはまた一段と賑やかになった。

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