第2章 二人の後輩編

第17話 怪力のマスク

 大森による勉強会。実技を教えてくれるという。俺らは壁の中に入り、ズリアン相手に戦い方を見られることになった。

 カクは糸を巧みに使い相手を翻弄し、見えない小刀で切り裂いて倒した。極は旋風で飛びながら斬り倒し、透は蔓蔦で絞め殺した。

「うん。言うことないわ。うん。」

 その一方で、

「無駄な動きが多いよね。そのせいで隙も多いし、攻撃力も弱くなっている」と言われた。

 彼曰く、渾身の一撃を与えようとするも攻撃の隙が大きければ意味は無いとのこと。大きければ大きい程、避けられる。それによって狙いがズレていく程に相手へのダメージも少なくなっていくみたいだ。折角の致命傷のダメージも小ダメージで済んでしまう。

 俺の攻撃方法はそのまま噛み付くのと回転しながら噛み付くものの二種類。口元のみの攻撃という単純にして単調。それ故に攻撃に無駄が出てくる。

 さらに攻撃方法を増やして組み合わせることを考えられた。そして導かされたものは、俺に必要なのは武術というアドバイスだった。

 パンチやキックを基本とした攻撃。俺は喧嘩でしかまともにやったことはなかった。俺は大森から武道を教えて貰うことになった。

 その指導は毎日行われた。それを休養期間とされた三ヶ月間全て使って続けることになった。

 喧嘩とは全く違う理にかなった動き。

 たった三ヶ月で習得できる訳はなかった。だが、基礎となる動き方は身に叩き込んだ。後は、実践で使えるようにするだけだ。


 A級への昇格試験の申し込みが始まった。

 勉強会に参加した俺らは申し込み用紙を書いた。

 それから数日後。

 俺らは昇格試験を受ける。

 試験は二種類。筆記と実技。

 筆記試験では一斉に机に向かって問題用紙を解いていく。内容は単純で、ズリアンの写真に対して、そのズリアンの名前とどう戦えばいいのかを記述するのみだった。それを二時間行った。問題のズリアンが多すぎた。全てを解け切ることは出来たものの、見直すことは半分までしかできなかった。

 続く実技試験。これは単純に沢山のズリアンを倒せば良いだけなのだが、そこに条件が一つあった。それは自動型AIロボットのトミー君とタカラちゃんを連れていくことだ。トミー君とタカラちゃんは歩くからジャンプ、そして空気砲や槍の手の攻撃などまで多彩な動きをする。ただし、癖がある。

 俺は荒地へとやってきた。後ろには二体のロボットがついてきている。

 ゾウのズリアンの子どもであるシンゾウが現れた。

 まずはコイツを倒そうか。

 鼻が振り上げられた。叩きつけられた鼻が空を切る。それに伴い俺も地面に叩きつけられた。

 攻撃から解放された瞬間に俺は走り始める。狙いが定められないように不規則に動いていく。

 相手の頬を足の裏で思いっきり蹴る。軽くめり込んでも飛ばされることはない。今度は腹の下へと潜り──渾身の一撃で──両足で蹴り飛ばす。今度は広げたキャタツぐらい飛んだ。

 地面を蹴り飛ばし、落ちてくシンゾウ目掛けて行く。捻り、回転を加えた牙の攻撃。異能力の力がシンゾウを貫いた。

 やったか。

 次の瞬間。俺は横に吹き飛ばされた。シンゾウの鼻は横へと振られていた。


「ダイジョウブデスカ? ゲンジョウヲオシエテクダサイ。」

 一体のロボットがシンゾウの注意を引き、もう一体が俺に状況を確認しにきた。これも試験の一貫だろう。ここの回答でも試験結果に影響が出るだろう。

 確かそのための対策をしたような気がする。俺は勉強会での出来事を思い出すことにした。目を閉じて過去に耽ける。

 それは雨の降ってた昼頃。

 俺らはアルファから「状況説明」があるということを聞かされた。それの対策のために漫画の一話毎の「あらすじ」を考えることで、力を養おうとなった。

 まずはアルファが手本を見せるようだ。

「この漫画は一話に幾つかの話が描かれるラブコメだよ。疲弊したOLとヤンキーの見た目なのにピュアな男の出会いを初め、自殺してるかに見えて引き止めるために彼の良さを伝えるのに実際はそう見えただけで恥ずかしい思いをする彼女などの物語があるんだ。」

 幸せな恋、集めました。という作品らしい。クスッと笑えて、時に甘くてキュンとする作品のようだ。彼曰く、老人夫婦の日常会が特に好きという。

 今度は極の番だったが、何を言っているか分からなかった。

 続いて、カクの番。

 彼は昔の少年漫画を紹介するようだ。

「その男は人類から毛を無くす集団─毛狩り隊─と戦うために旅をしていました。彼には悲しい過去があったんです。それは彼が幼い頃の話。色々あって現在。」

 ふむふむ。分からん。全く分からない。

「そして、毛狩り隊幹部の一人と戦いました。鼻毛で戦うも互角の勝負。最後は脇毛でトドメをさしました。そして、最後に彼はこう言ってしめます。「ただし、漬物、テメーはだめだ」と、ね!」

 何が言いたいんだ?

 何一つ理解ができない。

 意味のわからないまま、透の番となった。彼はドラゴンボールという漫画から引っ張ってくるみたいだ。

「悟空とベジータが空中戦を繰り広げるんっす。バキッ。ドカドカ。バキューン。ズゴゥン。ドガ。ドカ。ドカ。ドカ。ドゴッ。ドッカーン。バキッ。ボッ。ドガッ。ドガ。ドゴゴ。ドゴドゴ。ドッゴン。バッコン。ズコーン。ドカ。ドッカン。」

 分かるかぁ!!

 そんな説明で分かる訳がない。


 思い出したそれは何一つ役には立たなかった。俺は目の前にいるロボットの前で、何も言えずにいた。

 頭の中でふと思いついた言葉を繰り返していく。俺にはこれぐらいしか言えることはできなかった。

 バキッ、という音が聞こえた。

 ロボットの欠けた音。戦わなければ。俺はシンゾウの方へと足を歩めた。

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