第12話 【VS ジャンバーユ】①
「助けに行こう。例え、少しの助力でも行くべきだ。」
「いや、行くべきじゃないね。僕らはそんな実力ないだろうからね。」
彼はその気ではなかった。
俺の意欲と彼の意欲では雲泥の差があるように感じた。
「俺は行きてぇ。ソイツは俺の大切な先輩を殺したズリアンなんだ。俺はその敵を取りたい。無理でも、一矢報いたい。」
「死にに行くだけなら行かせない。僕らはもう失うことを知っている。どうして愚かなことを選ぶんだ?」
それは冷静すぎて冷たすぎる態度。どこか胸に引っかかる。
「無駄なんかじゃねぇだろ? やって見なきゃ分からねぇだろ!」
「相手はX級だ。目に見えてる。」
「今度は俺らだけじゃねぇんだ。俺ら以外にも救援に来る奴がいる。みんなで力を合わせりゃ、勝ち目は見えてくるかも知れないだろ?」
頑なに変えない意見。俺らの意見はお互いに、まるで平行線で交わることがない。
諦めない彼に気圧され、救援は諦めようと思った。
そのまま戻るために乗り物に乗り込もうとする。
「本当に行かないんだな……。」
「もちろんだ。」
「お前は──このまま見捨てるんだよな。」
彼の足が少し止まった。
顔をこちらへと向けていく。
「僕はさ、なにより仲間のことが大切なんだよ。二人が死ぬことになるのなら僕は、正義に目を瞑る。だけど、死なないと約束するのなら、僕は君の気持ちを尊重しよう。」
「約束?」
「危険度が少しでもあればすぐにリタイアすること。相手はX級なんだ。勝てない相手に挑むんだよ。多少の危険でも即時撤退。それを守ってくれるなら行くのを認める。」
「ああ。俺は条件を飲んででも行きてぇ。少しでも可能性があるんだろ。撤退するってことは実力不足ってことだ。情けねぇが、受け入れるしかねぇだろ。」
俺は腹を括る。
「あはっ。なんか面白そうだねー。カクも行きたぁ~い。」
俺らとは温度の違うカクが乗り物へと乗り込んだ。俺もアルファもそれに続く。
「生きて帰るぞ。」
その言葉に「もちろん」と言い切った。
乗り物はスムーズに走り抜けていった。
走り抜けていく乗り物。遠くに巨大なゴリラのズリアンが見える。が、すぐに見えなくなる。
「先に情報を共有する。相手はX級ズリアンのジャンバーユだ。能力は透明化。さらに巨大化のマスクを被っている。つまり、透明化と巨大化の二つの能力を使ってくる。攻撃方法は今の所、分かっているのは殴るのみ。シンプルながら強力すぎる攻撃力と圧倒的なタフネス。それこそがX級とされる強みだ。」
シンプルイズベスト。それ以上でもそれ以外でもない。だからこその、圧倒的な強さなのだろう。
「現在、救援を出しているのはS級、錬金の能力の
走行しているうちに目的地付近へと着いた。
ここからは乗り物の安全のためにもここで降りて、ここからは走ってそこへと向かう。
巨大すぎる存在。
まだまだ遠いのに圧倒的な威圧感を感じる。
近づけば近づく程実感する。あの壁と同じぐらい大きな巨体を前に震えもでてきた。
「あの時の俺はお前を前に逃げるしかできなかった。だけど、今は違う。仲間を引き連れてやってきた。今度はお前が覚悟する番だ。」
争いの場に降り立った。
蛙の被り物をした男が話しかけてきた。
「ありがとう。私が依頼人の穀雨包です。みなさんのお陰で、三チーム集まりました。みんなで協力して倒しましょう。もちろん、無茶のない範囲でで構いません。敵がX級なのはこちらも分かっていますから。」
蛙の大きな口に手を突っ込む。そこから銀色の斧を取り出した。
「私は錬金術を使える能力です。銀の武器なら出せますのでいつでも言ってください。」
蛙は斧をブーメランのようにして投げて攻撃した。しかし、ビクともしない。
カクが地面にクナイを突き刺した。彼は満面の笑みを浮かべている。彼は軽やかな動きでジャンバーユの懐へと入り、回転したがらクナイで切り裂こうとした。が、柔らかいボディが刃を通さない。
ジャンバーユが蝿を叩くかのごとくカクめがけて手を上げる。地面に固定されたクナイの糸が伸びきった反動で元に戻る、それによりカクも俺らのいる場所まで戻ってきた。強烈な音がしたが、叩いたその中には何も無かった。
「X級だけあるね。強すぎて手応えがない。」
他のハンターが能力で攻撃していく。
無数の弓矢が放たれる。水の波動。それら全てが効いてるように思えなかった。
ジャンバーユが消えた。
次の瞬間、大きな風圧が起きた。その風圧がハンター一人を潰した。その後、ジャンバーユが現れた。大きな腕が地面に叩きつけられていた。
「今ので一人死んだね。ただでさえ硬すぎてダメージすら与えられない状態なのに、全てが一撃必殺の巨大な体躯、透明化、ほんとにやばすぎるよ。こりゃ!」
生半可な攻撃は効かない。
俺の一番強い攻撃。それは回転しながら牙で食らう攻撃。俺はそれを狙って走り出したが、ジャンバーユが地面払いをした時の風圧で吹き飛ばされてしまった。
「もっと勢いがあれば……。」
そうだ。俺は一つ秘策を思いついた。
「俺を加速させてくれ。その勢いでアイツを食らってやる。」
「無理だよ。カクの能力はね、物には有効だけど、人には効果がないんだっ。」
駄目だったか。
そんな時、ヒットアンドアウェイで戻ってきたアルファがその話を聞いていたようで、アドバイスをくれた。工夫次第で可能だと。それには包の存在が必要不可欠だった。
俺らは包に弓矢と弓を錬金して貰った。
それを持って遠くへと離れていく。幾ら離れても巨大すぎる体は遠ざからない。もし倒れられたら潰される程だ。
弓に糸を結び、俺にも糸をつけていく。亀頭の結びで俺は固く糸で結ばれた。
アルファが弓を強く引っ張っていく。
弓は燃え盛り、勢いよくしなっていく。
弓が放たれた──。
放たれた弓は透明な板を通過して加速する。さらに加速させるためにアルファに抱き抱えられたカクが壁を次々に作り加速させた。また、弓に繋がれた俺は弓と一緒に加速しながら進んでいっていた。
勢いが凄まじいことになっていく。
俺は空中で回転を加えた。空気抵抗を受けながらも、物理を無視した加速で、高速回転に変わる。
くらいやがれ。俺の一撃。
俺の渾身の一撃。ジャンバーユにダメージを食らわした。が、ようやくまともなダメージを与えた程度。致命傷などには至る程ではなかった。
アルファとカクが戻ってきた。
これを繰り返せば、何とか倒せるんじゃないかと思った。
思ったのに。
ジャンバーユを思わぬ一撃を食らったからか、雄叫びを上げた。鼓膜が破れそうになるぐらい大きな音。それを聞いた他のズリアン達が助っ人に来た。それも数匹どころな数じゃない。
「ただでさえ厄介なのにこんなにもズリアンが来るとか。これはまずいね。」
絶望が漂い始める。
強敵プラス無数の敵はあまりにも酷すぎる。
「これはこれは。ピンチな時に駆けつけるなんて、我ながらヒーローみたいじゃないかぁ。」
深緑のロングコートが靡く。
そこには貫禄あるおじさんがズンと立っていた。
その姿を見て多くの人が同じ言葉を上げた。
ズリアンハンターナンバーワンの実力者。彼こそが「名前を呼んで欲しいコノヒト」だと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます