第10話 ''二人目''中枢のアルファ☆

 給料日。今月の払うべき借金は既にシロクマさんが給料から天引きしていた。残りの借金分に利息がつく。返せるのが遅くなる。いつ返せるのだろうと、ため息を吐いた。

 俺は今、休養中だ。この狩猟という仕事には常に働きっぱなしというのができない。だからと言って、帰郷する気にはなれなかった。引越してきたせいで、友達もいないし、恋人もいない。孤独を癒してくれる唯一の存在がギャンブルだった。

 船の優劣を決めるために家を出る。

 常にギャグが滑る寒い町──常滑。そこに船の優劣を決めるための場所があるようだ。俺はそこまでの行き方を調べていった。

 そんな時、電話がかかってくる。

 番号を見ても誰か分からない。なんだろうかとそれに出てみる。

 出たのはアルファだった。

 シロクマさんから電話番号を教えて貰ったみたいだ。彼は話したいことがあると言って会いたいと言ってきた。

 別に急ぎの用事もない。まだまだ休みもある。競艇なんて明日でも明後日でもいつでもできる。俺はアルファの方を優先させた。


 誰を模型したのかは分からないが、特殊な種族の女の子であるナナちゃんの前に来た。全身白の体で巨人。これは模型。白くて巨人のオリジナルがどこかにいるのだろうと思いながら付近に立つ。ここが待ち合わせの場所だ。

「ごめんね。休養中にも関わらず呼び出して。」

 シンプルな服装に身を包むアルファ。それがカッコ良さに変わっていた。

「どうして、呼び出したんだ?」

「結局、救援隊が出動しても七五三は助けられなかった。クシブの言う通り追いかけていけば助かったかも知れないのに、僕が止めたからさ。申し訳なくって謝ろうと思って。」

 一通り多い通路に涼しい風が吹いた。

「気にすんな。俺らが駆けつけたって何も変わらねぇよ。知らねぇけど。どうせ俺らには相手が強すぎたんだよ。あんたには怒りも何も感じない。不甲斐ない俺にしか怒りは起こらねぇんだ。」

 俺は近くにもたれかかった。

「強くなりてぇな。誰も失わないぐらいにさ。」

 いつの間にか目を閉じていた。

 頭の中に浮かぶリスタの姿。あの時は混乱していたのか実感が湧かなかったのか思いもしなかった気持ち。あの時に七五三が掲げていた想い。

「知っている? なごみんが捕らわれた場所は立ち入り禁止になったんだ。S級が五人以上。それが立ち入る条件なんだ。」

 風が少しばかり冷たい。けど。どこか温さも感じる。

「まだなごみんが死んだとは限らない。相当無茶な話だけど、早くS級になって、S級の仲間を増やして、助けたいんだ。本当に無茶な話だけどね。」

「嫌いじゃねぇな。その無茶話。」

「一緒になごみんを助けたい。ルールに則るせいで時間もかかってしまうけど、きっとこれしかないと思うんだ。協力してくれるかい?」

「ったり前だ。通り道のように見えてこれが近道みてぇだな。急がば回れ。それまで無事でいてくれよ。七五三──」


 いつの間にか寒さを忘れていた。

 そう言えば、アルファと会う前は何をしようとしていたのだか。忘れてしまったようだ。

「休養中にわざわざごめんね。折角だし、付き合うよ。」

「付き合うっつーても、俺の趣味、ギャンブルだけどいいのか?」

「うっ。まあ、いいよ。」

 それは本当にいいという合図なのだろうか。まあ、いいや。折角だし、競馬でも競艇でもパチンコでもない所に行こう。とても気になってた所があった──違法だけど。


 裏道を通り、人っけのない場所を進む。

 ようやくたどり着いた所は地下に存在する扉。そこから女性達の悲鳴や男どもの歓喜が飛び込んできた。

「違法なギャンブルだけど、一度はやってみたかったんだよな。」

「違法ギャンブルか。見過ごせないけど、クシブに免じて見過ごしてあげる……か。」

 扉を開く。

 そこにはステージ上にマッチョな男ども八人。そして、それを見る男女がいた。

「よっ! 風神雷神よりもマッチョだねぇ!」

「七番。あんたはマッチョのズリアンや!」

 ポージングを決める男どもとそれに歓喜の悲鳴をあげる女達。やれやれと勢いづく男達。

「な、なんなんだよ。ここ。」

「ここは筋肉を競うギャンブル場。略して競筋きょうきん。ルールは──いらないな。見たら分かるもんな。じゃあ、五回全てをベットしようか。」

「いや、分かるかぁ!」

 購買所で切符を購入する。

 俺は五回戦の一位をそれぞれ書いた。アルファも同じように一位のを書いた。これが当たれば一攫千金なのだ。

「さあ、始まりました。マッチョは好きかぁ!?」

 司会の盛り上げで会場は段々ボルテージが上がっていく。

「さぁ、一回戦。誰が勝ち上がるんだ!」

 八人のマッチョがキラリと輝く歯を見せた。

「おっと! リアル範馬勇次郎がいたぁ!」

「宝石と思いきやマッチョだった!」

「お願ぁいマッスル! めっちゃ好きだぃ!」

「貴方の体の上に家を建てれそう!」

 様々な黄色い声援が駆け巡る。

「いや、掛け声が意味分からないのよ。怖いよ、これ。」

 そして、司会の一言で会場は静かになった。

 彼のマイクが響き渡る。

「一回戦、勝者は六番だぁ!」

 六番の番号を書かれた男は強い雄叫びを上げていた。

「いや、何が起きたの? 何をもってして勝てるの?」

 何か言っているアルファの切符を見た。見事的中させていた。

「すげぇな。当たってるじゃねぇか。ベットすげぇんだぜ。これを当てるなんて単なるタマじゃねぇな。」

「いや、運だから。何をもって勝ちなのか分からないからね。自力で当てられる訳ないじゃん!」

 それからと言うのも四回中三回、的中させていた。

「すげぇな。まさかギャンブル狂の俺よりも当ててるとは。脱帽だぜ。」

「いや、待って。やればやる程に意味が分からなくなるってどういうこと?」

 最後の戦い。

「マッスルラーメン。筋肉モリモリ。」

「守りたい、この笑顔。布教したい、この筋肉。」

「筋肉本舗! はいズドーン。」

 会場のボルテージはマックスだ。

 司会は言った。勝ったのは一番だと。

「は、は、外れたぁぁぁ! 五百円分損しちまったぁ!」

「あ、あ、当たった……。何で当たったんだ? 何でだ? 意味が分からないよ。ついていけないよ。怖いよ、ここの人たち。」

 アルファは当たっていた。五万も当たっている。悔しいけど、俺の負けだった。

 彼についていき、還元所にいく。

 ふとそこに見知った顔と出会す。

「あれ? 立夏じゃ……ない?」

「えっ? 行方不明。生死不明となってたはずなのに……。」

 そこにはなぜか七五三を救援するために活動し、行方不明となったはずの立夏がいた。

「これがどうしてもやりたくてね。あっ、あたしがいたことホープの誰一人でも言いふらしたら、あんたら殺すから。」

 そう言って、手には一万円を持ってその場から去っていった。

「これは夢……なのか。もし夢なら、どんな夢だ、これ。」

 そんなことを呟きながらアルファは五万円を財布の中へとしまった。外に出ると良いぐらいに空は薄暗くなっていた。

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