第3話〜個人と集団〜
また一段と日差しが増した8月も下旬。
夏休みだが、当然、目立った友人もいない俺は、バイトをし、たまに生徒会に顔を出し、残りはゲームやアニメを見て過ごすという自堕落な生活を送っていた。
夏休みはいい、この生活リズムをしても、弊害になるようなことはあまり無く、安心して溜めていたゲームやアニメを消化して楽しめるのだ。
嫌な学校のことを忘れるだけでなく、好きなことを好きなだけやることが出来る救いの手な訳だ。
しかし、カレンダーに記されたそれを見た瞬間、俺はすぐに現実に引き戻された。
二日後・サマーキャンプスクール・二泊三日
そう箇条書きで小さくカレンダーに記されている事を、見間違いではないかと、何度も何度も見返す俺は、やがてそれが現実である事を悟った。
「サマーキャンプスクール……か……2日間、どうにかトラブルなしで終わってくれ」
切実にそう呟いた俺、そんな事を呟いた理由は、この間の班決めの時間まで遡る。
・ちょうど部活動大会が終わった頃
サマーキャンプスクールの計画立てが始まった時にどこかでみたことがあるようなやりとりを再び俺と辰也は繰り広げていた。
「お願いします!辰也大明神様!俺と班組んでクレェ」
「俺もそうしたいのは山々なんだが、その、お生憎様、他にも五人くらいから誘われてるんだ」
相変わらずこいつ人望あるな、てか、俺の前でその事を口にするとはこいつ、自慢か!?
「それにしても......っ!?そうだ!思いついた」
突如辰也が手を叩く。
「どうしたんや?いきなり」
「それがなぁ!ええこと思い付いたんやが、聞きます?」
「聞かせていただこうか」
辰也は俺の耳元に口を持ってきた。
「いやなぁーーーーーーーーーー」
・その結果......サマーキャンプスクール当日
学園の歌姫と呼ばれる人と同じ班になってしまった......
おいおいどうなってんだ、バカか"あいつ"
バカが何を企んでいるかは全く持って不明だが、コネを使ってこの班に俺を入れたということは目的がある筈だ。
まあ、警戒しておくに越したことはない。
「長月君、よろしくね?」
「あ、は、はい、よろしく......」
コミュ障全開で話しかけてきた女子に対応した俺は、その時、こう思った。
辰也、助けてくれ......と。
「改めて、班の自己紹介するわね、まず私から、班長の星河夜宵だよ、よろしくね」
星河夜宵......昔、だいぶ昔に......どっかで?いや、気のせいに違いない。
それに、この人は1学年だけで無く、全学年に有名なのだ。
勘違いに違いない。人違いは失礼だし、気をつけなければ......
彼女はその妖艶な容姿と人々を魅了する歌声、接しやすい性格なおかつ純粋と、男児が夢見る全てが詰まった女性なのである。
こんな俺とは大違いってやつだ。
「あ、よ、よろしく、お願いします」
アビリティ発動!コミュ障!効果噛みすぎて話にならない!いらねぇよ、デバフじゃねぇか。
そんな一人漫才を脳内で浮かべていると、他の人達の自己紹介を聞き流してしまった。いつもの悪い癖だ。まあ、あまり喋らない俺にとっては脳内容量を食うようなものをダウンロードするのは避けたい。脳内容量フロッピーディスクだもん、俺。
「お前ら、準備できたら班ごとにバスに乗り込め。出発するぞ!」
先生の声が響いた。どうやらバスへの乗り込みが始まるらしい。うん?待てよ、まさか!?
「こうなりますよねぇ」
バス内でひとりため息をついた。
「うん?どうしたの長月君?具合悪い?」
あんたのせいだよ!なんて言えるはずもなく、俺はボソッと答えた。
「い、いや、昨日ちょっと徹夜してしまって、ハハハ」
「きついんだったら先生にいってね?」
そう、俺の横にいるのは先ほど話していた星河夜宵さんその人である。
最悪なことに、横の席になってしまった。
男子からの視線が痛い何処からかボソボソと
「星河さんと一緒とか舐めてんだろ」
「今まで存在すら危うい陰キャだったくせに」
と言う陰口が聞こえてくる。
女子からも
「星河さんと一緒?あいつ誰」
とか、
「あんなやつ居たっけ?いきなりでしゃばってきて」
など、数え上げればキリがない程の陰口が俺に刺さる。本人達は聞こえてないと思っているだろうが、俺は生憎様耳も目もいい方だ。簡単にそんな声を拾ってしまう。
ゴリゴリと自分のMP(メンタルポイント)が削られていくのを実感し、俺は遠い目をして外を眺めた。
「本当に大丈夫?長月君」
「だ、大丈夫......です」
当の星河さんはそんな陰口にすら気付いておらず、俺を気遣ってくれる。
気遣ってくれるのは嬉しいが、あんたのせいでこうなってるんだ、考えてくれと、自分でも理不尽に感じる程、彼女にキレてしまった。
平穏にキャンプを過ごすつもりだったが、それはもう無理だろう。
俺は心の中で叫んだ。
「ふざけんな!」っと......
「岩島山林キャンプ場」
あれからトイレ休憩を何度か挟み、無事目的地に到着した。
入り口の看板にはデカデカとそう書かれており、ゲートをくぐると、大きめの施設が見えてきた。
「目的地着くぞ〜寝てるやつおこせ〜!」
しかし、起きている奴がほとんどだったようだ
バスから降りて山の空気を吸う。
The ☆山☆
生い茂る森、スマホを覗けば
「圏外」
まあ、知っていた。
安定と言うべきか、wi-fiなど飛んでいるはずが無い。
ギガを使用すれば動画見れるし、気にならないな
ちなみにバイト代が高めな為、俺のスマホは20ギガもある。最高かな?
そんなこんなしてるうちに、先生からの指示が降った。
「では、部屋割りごとに各自荷物を置いて、10分後にこの場に集合する!では解散!」
103号室
泊まるための部屋は質素だった。二段ベッド2つにチェストテーブル4つ、ちゃぶ台1つ。
泊まるのは四人、俺、辰也と辰也の友達二人だ。
荷物を置いた俺達は、お互いに自己紹介を始めていた。
「俺の名前は高橋鉄斗、よろしくな!長月」
「はぁ、よろしくお願いします」
「僕の名前は射山練、よろしく!長月君」
「よろしくお願いします、射山さん」
「敬語は堅苦しいから無しにしよう、長月君」
「あっ、了解」
自己紹介を済ませ、時間が余った為、五分間はトランプをする事にした。
「ゲームルールは、どうする?」
辰也がゲームルールを問うと、
「ババ抜きとか、安定かな?どうする?長月君、鉄斗」
「うーん、ババ抜き安定かな......ポーカーやりたいけど時間ねぇよなぁ」
時間的な問題を考えても、ババ抜きでやれるところまでやるのが得策だろう。
すると、辰也がある発言をした事で、全員がガチな目をしてババ抜きをする事になる。
「なぁなぁ、このままじゃ面白くないからさーーーーーーーーーーーーーー」
3分後
「あと二人だ!長月vs射山!」
俺は今、多大な心理戦を繰り広げていた。
こちらの手持ちは残り1枚、対して相手は2枚。相手の手札のどちらかがjokerと言う最終局面だ。
負けるわけにはいかない、揺さぶりをかけてみようか。
「なぁ、射山、当ててやるよ、左がjokerだろ?」
「さぁね?」
言葉では動じていないが、
左ジョーカーだな、これ
ある反応を見て、俺は確信した。
「ここだぁ!」
俺は右を引き抜いた。恐る恐る表を見ると、そこに記されていたのはスペードの4、元々俺の最後の手札もスペードの4だから、俺の勝ちだ。
「しゃあ!勝ったぜ!」
「負けてしまったなぁ、600円飛ぶ......」
そう、今回のトランプを始める前に辰也が言ったのは、ビリッケツが他三人にジュース代200円を払うと言う、貧乏学生にとって、まさに闇のゲームだったのだ。
「男に二言は無い、仕方ないか、」
そう言って射山が財布を取り出した刹那。
勢いよくドアが開き、先生が突入してきた。
「何やってるんだ?お前達、もう5分も過ぎてるが?」
あっ終わった......
そこにいた四人はこの時、共通でそう思った。
団体ってめんどくせぇなぁ
説教されて、部屋に戻っている俺はふと、そう思った。俺は今まで群れることもあまりなかったし、集団行動力も皆無だった。やはり、単体がいい、こう言う旅行に来て、家に帰った時に感じる、「やっぱり家がいい」と同じ気持ちだ。俺は毎回集団で騒いだ後に一人に戻ると、「やっぱり一人がいい」と思えてしまう。
「はぁ、学校って、めんどくせぇ」
ふと、そう吐き捨て、部屋の扉を開けると、
「はぁ!?なんだよ......これ......」
あまりの惨さに絶句した。
そこには、
泥棒が入ったかのように散乱した班員の私物と、部屋のベッドがボコボコに殴られていたのだから。
後書き
皆さんこんにちはReitoです!2連続投稿+オーバーワークで絶賛死にかけの学生です、いやな、なんで学生が死にかけてるんだろうね......色々と伏線を貼りましたが、そのうちの一つヒロイン登場回ですね、さて、では次回予告を、自分達の部屋を荒らされて怒ったルームメイト一行は先生達の捜査とは別に自分達でも調べ始めます。果たして、衝撃の犯人とは!?そして、次回、紫電ピンチ!?
追記
説明不足の部分と、修正不足の部分を修正いたしました。
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