第2話〜悪と正義〜
照りつける日が体力を奪う、八月。
そんな暑さだというのに、それを吹き飛ばす程、教室内は賑やかだった。
毎度毎度よくあんな賑やかでいられるな、教室内軽く動物園じゃん
遠い目をしながら教室を見渡していた俺だが
「すまない、確か、長月だよな?ちょっといいか?」
いきなり後ろから声を掛けられた俺は、そいつに連れられる形で、教室を出た。
教室を出た後に連れてこられたのは、部室棟裏の荒れ果てた狭い通路だった。
そこで待っていたのはガタイの良い三人の男。
これが集団リンチの前兆ってやつか......なんか俺、この人達を不機嫌にするような事しましたっけ?
不安になりながら記憶を辿っていると、
「すまん、長月、助けてくれ!」
またさらに目の前で起こったことが、俺を重度の混乱へと落とし込んだ。
何という事でしょう、ガタイの良い四人の男達が、俺に対して土下座しているではありませんか......まてまて、状況の理解が追いつかん。俺の脳みそというCPUがキャパオーバーでヒートアップしている。
「まてまて!頭を下げる前にまずちゃんと説明をしてくれ!」
「なるほどな.....」
一通り話を聞き終えた俺は、自分の脳内で話を整理し、要約した。
まずこいつら四人は、野球部一年生。
どうやら野球部内では、現在事件が起きているらしい。野球部にはそれぞれ、監督、副監督、コーチ、顧問が居るらしいのだが
「監督は俺らにあんまりアドバイスしてくれないし、あいつ!マネージャーにまで手を出しやがった!」
という事らしい、まあ、マネージャーが監督にセクハラを受けていて、その時にたまたま風の噂で、俺がスポーツ大会の一件で活躍したことを聞いたらしい。
「頼む!長月、俺たちに力を貸してくれないか?」
再び深々と頭を下げた
「それはそれとして、お前らに聞くべき事がある。どうしてマネージャーという無関係......と言うわけではないが、あまり付き合いが長くないであろう人物のために動くんだ?」
それは俺の"本質"から来る、率直な疑問だった。
すると、四人のうち一人が声を上げる。
「一年で、右も左も分からない状態で俺たちと一緒に野球部に入って、一緒に切磋琢磨してきた仲間なんだ!そいつが苦しんでるとして、見捨ててられるかよ!?」
なるほど、どうやらこいつらは"俺みたいに腐りきっちゃいない"らしいな、
「わかった、だが、俺もタダで動くわけには行かない、あくまでこの間の事件に協力したのは、生徒会の許可あってこそだったからな、この話は一度生徒会に持ち帰らせてもらう」
「ありがとう、この恩は必ず」
野球部はそう言ってその場から去っていった。
「礼なんか要らねぇよ、あくまでもこれは仕事なんだから」
放課後 生徒会室にて
「だからぁ〜シデが一番良いんだって!」
ただでさえ狭めの生徒会室に、どでかい叫び声が迸る
「確かに、紫電君が一番安定か......」
現在生徒会が会議中なのは言うまでもない。
その議題は
「あの〜なんで俺が依頼解決専門要員にされようとしてるんですかね」
面倒ごとをなすりつけられるのはごめんだ、ただでさえ最近は職員室から回ってくる資料の処理で放課後の19:00くらいまで無賃残業やらされてるってのに、これ以上仕事が増えたらこちとら溜まったもんじゃない!
「俺バイトもあるんで!それにこれ以上仕事増えたら堪りませんよ!」
俺が思いつきの反論を口にすると
「それであれば、風紀委員から暇そうな奴をアシスタントとして回そう!それであれば、長月君に負担が偏らないで済む」
石川先輩に全てを掻っ攫われ、もはや拒否することすらできなくなった俺は諦めからくる負け惜しみをそのまま口に出した。
「あーもう!わかりました、やれば良いんでしょ?やれば!」
「やれば良いも何も、元はと言えば君が依頼を解決したからこうして相談が何件か来てるんだ、作業を増やした責任は自分で取るべきだと思うぞ?」
井下先輩、ニヤニヤしながらこっち見てやがる、性格悪いな、あの人。
まあ、その性格の悪さと狡猾さがなければ、今頃普通の学園生活送ってただろうしな
俺は諦めと関心が入り混じったため息を一つ吐き捨てた。
翌日 昼休み
俺は作戦立案に必要な情報を揃えるため、野球部に話を聞いていた。
「それで?具体的に監督はどんなことをしてるんだ?」
「マネージャーへのセクハラは部活中にやられてるらしい、ユニフォームや選手の制服を畳んでいるときに故意的に肩を触られたり、ひどい時は太ももを触られたり、髪触られたりとかしてるらしい」
俺はそれを聞いて純粋な疑問を口に出した。
「話を聞いてる限り、もはやセクハラじゃなくて痴漢だろ、なんでマネージャーはすぐに告発しないんだ?」
「大会が近いんだ、今そのことが明らかになったら、大会には出られなくなっちまうだろ?」
なるほどな、マネージャーなりに、大会に出る先輩達を応援したい訳だ。
「後一つ理由がある。実はこの間、司先輩が停部になったろ?」
一人の問いに俺含む他四人が首を傾げた。
「それがどうかしたのか?」
「実は、セクハラのことにいち早く気づいた司先輩が、監督に直接抗議したらしいんだ、その結果。」
直後、他の野球部三人が声を上げた。
「ハァ!?お前なんでそのこと早く言わなかったんだよ!」
「マジかよあのクソ野郎、許せねぇ」
怒り立つこいつらの気持ちはわからなくもない、ぶっちゃけ聞いていて胸糞悪い話ではあるが、ここはこいつらを宥めないと前に進むことすらできないだろう。
「お前ら、まず落ち着けあと、司先輩っで誰だ?まずそれを説明してほしい」
俺がそう言って宥めると、案外野球部はそれで落ち着いてくれた。
「すまない、取り乱した。司先輩は野球部のキャプテンだよ」
なるほどな、とりあえず出てくる情報は仕入れた。あとは作戦を練るだけだ。
「ありがとう、とりあえず作戦は考える、あとは任せてくれ」
そう言って俺は生徒会室へ向かった。
生徒会室にて
生徒会室に入ると、何やら準備が始まっていた。
「おかえり長月君、ちょうどいいところに来てくれた、これから明日の白鷺ラジオの取材に行くところなんだ?何件か引き受けてくれないか?」
生徒会室に入って早々また仕事が増えた。
「良いですけど、取材ってなんの取材ですか?」
「大会前の部活動インタビューだ。」
俺の問いに即答でそう返した井下先輩は、機材を持って、俺に渡した。
その瞬間、俺は良い作戦並びに、シンプルな作戦を思い浮かんだ。
この作戦であれば"目的自体は達成できるな"大体依頼と言うのは目的さえ達成すれば良いんだ。それ以外はお呼びじゃない。
「じゃあ、長月君にはeスポーツ部、バレー部、テニス部を頼む」
「すいません、野球部もいいですか?友達が居るので」
俺は適当な理由をつけて野球部の取材権を手に入れた。
「わかった。じゃあ、そのほかは俺が、じゃあ頼んだぞ」
先輩と分かれた俺は、順番に部活を回っていった
ついに野球部へのインタビューが終わった。
終わった後、俺はわざとらしく部室の近くを通り、カメラであたかも偶然写り込んだかのようにセクハラの様子を撮影した。
「いや......やめて!」
しかし、中は尋常ではならざる様子だった。
「いやいや、何もしないよ〜ただちょっと触っただけじゃ〜ん?」
どうやらこいつはセクハラしたと言う自覚がまず無いようだ。俺でもびっくりなクソ野郎だった。
「司君......助けて」
小声だが、静まり返った部室棟にはよく響いた。
「あいつねぇ〜大の大人にセクハラだ〜って大袈裟言いやがって、もうあいつは来ないよ、それよりもたしか西川夢ちゃんだっけ?司のことはもう忘れた方がいいよぉ〜」
今にもぶん殴ってやりたい。
こいつはただ監督という立場を使ってやりたい放題してるだけのゴミクズ野郎だ。
あいつら野球部四人の気持ちが、司先輩の気持ちが、こいつに分かるだろうか?
監督という立場の教えがない中で、副監督の教えをしっかりまもり、汗水垂らして練習し、血眼になって今年の甲子園で優勝を目指している。そんな彼らの努力が、こんなクズ野郎のやりたい放題する理由になってもいいのであろいたか?否!断じて許されない。例えここで野球部の大会出場が消えてしまったとしても、ここでこの状況を見逃せば、このクズが何をしでかすかは分かったもんじゃない。
その前に監督の座から、いや、学校から引きずり下ろすべきだ。
生徒会室にて
「よし、インタビューは済んだな、あとは編集作業だ!ここが山場だし、みんなで頑張ろう!」
井下先輩の声と共にビデオの確認作業に入った。
数分後、石川先輩が悲鳴ににた声を上げ、それと同時に野球部のセクハラも生徒会内部に知れ渡った。
これで、作戦は成功だ。
姉貴はこれを見て野球部監督を野放しにはしないだろう。
「これは......」
「酷いな......セクハラか。」
ノートパソコンの画面に映し出される野球部監督のとても気持ちが悪い行動は、こちらまでをも不快にさせた。
「はぁ、私はこれを持って職員会議に行くわ、みんなは早く脚本を完成させておいて?それ締め切り今日だから」
姉貴はデカデカとため息をつき、生徒会室を出た。
翌日
生徒会室から見えるグラウンド
俺は遠目から見える野球部の練習風景を見ていた。
朝練では監督、副監督、コーチ、部活顧問、マネージャー、全員揃っているようだ。
すると、何やらそこにスーツを着た男たちが現れる。
監督達が何かを話ていると思うと、数分の会話を挟んだのちに、監督は男達に連れて行かれた。
野球部監督の悪事は全て白日の元にさらされた。
翌日に被害者相談会、および学園側謝罪会が開かれ、野球部の大会出場停止と部活動停止処分。および監督の解雇が決定した。
鈍い音と共に背中に鋭い痛みと衝撃が走る。
「てめぇ!テメェのせいで!俺らは大会にッ!」
他の野球部員が静止する
「やめろ智樹!長月がマネージャーを救ってくれたことは事実なんだ、彼は依頼を達成しただけだよ、その条件をあまり考えず飲んだ、僕らも悪い」
なんだ、結構物分かりいいやつもいるじゃないか。
すると、改めて野球部四人は俺に頭を下げた。
「ありがとうございます!君がいなかったら、マネージャーは救出できなかった。君のやり方には納得できない!だけど、マネージャーを救ってくれたのは事実だ!ありがとう」
俺は振り向いて、彼らに背を向ける。
右手を上げ、ひらひらと手を振った。
「礼は要らねぇよ、お前たちの大会を潰しちまったのもまた事実だし、俺はこれが仕事だからな」
俺はそう言ってその場を去った。
一人、中庭の茂み近くのベンチで食事を取っていた。さっきのことを考えながら、
「フッ、やっぱ俺は変われない。正義ヅラして、やってることはただの悪だ。人間の本質なんざ、そう変わるもんじゃねぇな」
一人、自嘲気味に静かな空間に話しかける。すると
「いや、君は今回正しい行いをした。それもまた事実だ。」
後ろから声がした。
俺は弁当に蓋をすると立ち上がり、身構えた。
「誰だ」
中庭入り口の柱から、姿を表したその人物は、俺のよく知っている。だけど、今はあまり会いたくない人物。そう、野球部キャプテン
「霧島司先輩......」
「ああ、今回は君に、礼を言いに来たんだ。野球部代表としてね......」
ベンチに座った俺たち
「改めて、野球部監督の悪事を暴いてくれて、ありがとう!君の協力がなかったらと思うとゾッとするよ」
「そうですか......俺はあまり褒められた事はしてませんけどね」
司先輩からの礼に俺は自嘲気味にそう話した
「確かに、君は褒められたことをしていないのかもしれない、だけどそうして勇気を出して、人を救っているのは紛れもない事実だ。対して、そんな君に反感を抱いている人物も居る。長月君、いい加減気づくべきだ。君のお姉さんも........」
その瞬間、俺は殺意を込めた鋭い目で言い放った。
「先輩。世の中には綺麗事で済ませてはいけないこともある。俺はそれを自ら引き受けているだけです」
司先輩は何かいいたげだったが、俺はその前にベンチを離れた。
「最後に、こべりついてしまった負の面という汚れは、なかなか取れないもんですよ」
司先輩に言葉を投げる。
「君はまさか!?」
俺はその言葉を聞く前に中庭を後にした。
後書き
皆さんこんばんわReitoです!流石に時間なさすぎて手抜き&文字数少なくなってしまう大戦犯しましたわ、次はもっと骨のあるやつ描きます。てな訳で次回予告、ついにサマーキャンプスクールが開幕、その時に起きる大事件とは!?そして、何気に初めての紫電のピンチ!?乞うご期待!
それではまたみなさん、次回!
good-by!!
追記
なかなかに納得がいかない出来だったんです、余裕ができたらリメイクします!
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