本懐の目撃者

長月零斗

第1話〜表と裏〜


"人は表と裏がある"

それを知り始めたのは中学生からだろうか、無駄な正義感を振り翳し、何も考えず助けに動く。そんな行動をした結果、俺が浴びたのは

「批判だった」

一面から見れば"被害者"でももう一面から見たら"加害者"にもなるのだ。

俺が助けたのは"加害者"だった。


あれ以来、俺は正義感を持つのを辞めた。

怖かったんだ。

1つの面だけを見て動いたから"失敗した"

"失敗した"故に"批判を浴びた"


しっかり人を観察し、あたりを見て、"人の裏"を観察する。

人の表情、人の言葉遣い、人の行動。

これらを見て、ある程度の心情を読み取り、それに適切な対応をする。

それが社会の適切な生き方だって。

中学の間に学べてよかった。



暑さがジリジリと身を焼く夏、冷房がついているはずの教室は、その賑やかさと人の多さで、涼しさなど皆無だ。

(お前ら、飯食わずによくそんなに騒げるな......)

騒ぐ輩を遠目に見ながら、俺は白米を口に運んだ。

(ああいう明るそうなやつらでも、内面何を思ってるかわからないもんな......)

このクラスでも、一見賑やかで仲が良いクラスに見えるが、中身を見てみれば、おそらくそうではない。

明るいと言うことは、その分対比する影も大きく、濃くなる。

おそらくこのクラスも、表には出てないだけで、一人一人が悩み、妬み、恨み、辛みを隠し持っているものだ。しかも、それは明るさと言うポジティブが増加する反面、ネガティブとして肥大化していく、そして、それはやがてストレスと言う形で溢れ出し、トラブルや事件という形で暴発する。

俺はそれに巻き込まれたくない。

だからこそ、こうしてクラスの端っこで一人弁当を貪るという行動に至るわけだ。


無意識的にそんな考えを脳内に走らせる。

刹那教室の扉が勢いよく開いた。

「このクラスに長月紫電は居るか??」

教室の賑やかさを吹き飛ばすように響いたその声は、クラスの注目を入口一点に集めた。

すると、クラス内で小声話が始まる。

「あの人って確か生徒会の......」

「てか、長月?そんな奴いたっけ?」

そんな声をいやと言えど俺の耳が拾ってしまう。

(生徒会?なんでそんなやつが俺に?って........十中八九姉貴のせいか.......いやそれより、この状況をどう打開するかだ、このままじゃ姉貴にこき使われちまう。それは癪だし、なんとしてでも避けたい、幸いクラスの奴らも生徒会の奴らも俺のことを知らないようだ。このままやり過ごせば.........)

「やほーー!シデ!」

よりによって一番きて欲しくないやつが教室に来やがった。

(これは、逃げ切るの無理だ......詰んだ......)

完全に諦めがついた俺は、

「何しに来やがった!姉貴!」

その瞬間、クラスは一斉に声を上げた。

「ハァ!?姉弟!?」

俺は呆れながら

「生徒会長サマが俺になんのようだ?」

やじを飛ばすように問いかけると、姉貴は

「ここじゃなんだから、場所を変えない?」

嫌な予感がした俺は

「拒否権は?」

まあ、答えはわかっていた。帰ってきた答えは

「何言ってるの?ないに決まってるでしょ!」

即答で返ってきた答えを聞き、俺は天を仰いだ。



生徒会室にて

まんまと姉貴にしてやられた俺は、ざわついた教室を後にして、生徒会室に訪れていた。

「それにしても、うるさかったわね、まあ、うちのクラスも変わらないけど」

姉貴はそうして生徒会長席に腰を下ろす。

(誰のせいだよ!誰の!)

俺は姉貴にジト目を突き刺した。

こいつは長月可憐。俺の姉であり、現薙刀部の次期エース、この学園の生徒会長をしており、その慕われ方は学園随一だろう。

なんでも、前回の生徒会選挙では、ライバルと2倍の票差をつけて当選したらしい。

俺は純粋な疑問を姉貴にぶつけた。

「で?俺になんのようだ?姉貴......」

姉貴が机に肘をつき、手を組む。

「君にきてもらったのは......他でもない」

俺は姉貴に突っ込んだ。

「言いたいだけだろ!それ!早くわけを言え!わけを!」

姉貴はムスッと頬を膨らませ

「もう!シデのケチ〜!言わせてくれたっていいじゃ〜ん!」

(こいつ、クソウゼェ)

「大体俺はまだ飯食ってねぇの!」

姉貴は音を立てながら勢いよく立ち上がり、

「早く食ってなかったあんたが悪いんでしょ〜」

俺にふざけて嘲笑うかのように呟いた姉貴の言葉に対して、

「もったいぶらずに教えろやぁ〜!」

そんな姉弟漫才も、生徒会室内に静かにつぶやかれた1つの声で静まった。

「二人とも、兄弟のじゃれ合いも程々にしてほしいな」

俺達はビクリと背筋を震わせ、ゆっくりとその声の元凶へと視線をスライドさせる。

そこには

さっきまで姉貴と一緒にいた先輩が満面の笑みで仁王立ちしていた。

よく見ると先輩の笑みに影が見える。

この先輩は、石川雪菜先輩。女子剣道部員であり、この学園の風紀委員会代表だ。

俺達は一瞬で戯れ合いを止めすぐさま謝罪の言葉を口に出した。

「ハイ、スイマセン」

震えながら重なるその言葉を聞いた先輩は少し笑い

「いやはや、やっぱり2人は姉弟だな......」




「成程、つまりは、人員が足りないから生徒会に入れと.......」

全ての説明を聞いた俺は今までの説明を一言でまとめた。

俺を呼んだ理由は生徒会末席の子と生徒会書記の面々が活動を始めて僅か二ヶ月で辞めてしまったらしい。理由に関しては知らないが、その補填として、俺ともう一人を生徒会に任命するつもりのようだ。

「お願い!引き受けてくれない?シデ?」

答えは決まっている。

「断る。」

すると姉貴は

「なんで?生徒会に入れば何かと融通も効くし、生徒会活動をすればボーナスも付く、明らかに将来にとって優位なのよ!?」

俺は立ち上がって扉に向き直ると

「大体なんで俺なんだ?俺よりももっと有能で実力があるやつなんざこの学園には腐るほどいるだろ?」

そう言って俺は早足で扉まで歩いた。

「まって!わかった!貴方に対して、別途に報酬を出すわ!だから行かないで!」

(別途の報酬?生徒会からの報酬か、しかも、生徒会費、もしくは姉貴の金から収益がくるなら.......悪い話ではないかもしれん......)

俺はその場で足を止めた。しかし、今度は姉貴と石川先輩が言い合っている。

「ちょっと可憐!?別途報酬は違反よ!?てかそれ以前に犯罪になる可能性も......」

しかし、姉貴はそれを聞いて、ニヤリと笑った。

「違うわよ、私がシデに出す報酬はーーーーーーー」




「結局引き受けてしまった......」

日差しが差し込む廊下、俺は一人、そう呟いた。

(はっきり言って気分は最悪だ......それよりも、対価として出された条件が魅力的過ぎた)

「あの条件は.......飲まざる得ないな......」


放課後

俺は生徒会に参加することを伝えに、生徒会室を訪れていた。

「きたってことは、引き受けてくれるのね......ありがとう、シデ」

俺は後頭部をポリポリと書きながら。

「ぶっちゃけ、気分は最悪だよ、だけど、報酬が報酬だからな」

姉貴は少し闇深い笑みを浮かびながら

「それは良かった、じゃあ、頑張ってね"生徒会末席"君」

姉貴は俺の方をポンポンと叩くと、資料を持って生徒会室を出て行った。

「ったく、あいつ何か企んでやがるな、見た目によらず腹がドス黒いな、姉貴は」

俺はその扉が閉まり切るまで、去っていく姉貴の後ろ姿を見つめていた。



翌日の早朝

あくびをしながら学校に到着した。

いつもなら家をギリギリに出ている俺だが、今日ばかりはそうは行かない。

「はぁ、今日から生徒会......ねぇ」

この早起きが毎日続くと感じると少し憂鬱だが、引き受けたものはやらなければならない。

俺はトボトボとした足取りで生徒会室へ向かった。


「それでは、新たな生徒会メンバーを発表するわ!まずは生徒会末席、長月紫電君!そして生徒会書記井下康平君よ!じゃあまず、康平君から挨拶を」

姉貴と交代した井下先輩はハキハキとした口調で話し始めた。

「ご紹介に預かりました!2年3組、井下康平です!途中からの参加になりますが、皆さんに遅れを取らないよう、精一杯努力します!どうぞ、よろしく!」

井下先輩が挨拶を終えると、生徒会室内は拍手喝采で満たされた。

(すげぇな、井下先輩。あんな人の後手で挨拶とか、ハードル上がりすぎだろ)

直前にごちゃごちゃ並べても仕方がない為、腹を括って井下先輩とチェンジする。

「同じくご紹介に預かりました、1年1組、長月紫電です、先輩達の指示及び仕事を完遂できるよう、尽力します!よろしくお願いします!」

深々と頭を下げるとしっかりとした拍手が返された。なんとか成功したらしい。

(良かった......)

胸を撫で下ろす思いで脱力していると、姉貴が声を上げた。

「じゃあ、シデは優樹君に、康平君は雪菜について仕事を習って頂戴。では、活動開始!」

すると、石川先輩が声を上げた。

「起立!気をつけ!礼!」

挨拶が終わると、各自持ち場に着いた。


備品室前にて

「改めて、生徒会第三席の松下優樹だ。よろしく、長月紫電君、歓迎するよ」

先輩に手を差し出され、俺はそれに応じて握手を交わした。

「はい、よろしくお願いします、松下先輩」

松下先輩はうなづくと

「早速だが、仕事が溜まっているんだ。長月君は最初、僕と一緒に第一備品室の整理。備品の一覧が書かれたフォルダは僕が持っている。長月君は備品を順番に降してくれ、チェックは僕が付けるよ。次に破損備品の破棄があるんだが、あまり破損備品は出ないから、君には相談箱の中身の回収をお願いしたい。まあ、これも、中身が入っている方が珍しいんだがな......」

全ての指示を聞き終え、俺は早速仕事に取り掛かった。



「おわったぁ〜」

備品の整理を終えた俺は備品室を後にし、背伸びをしながら相談箱の回収に向かった。

どうやら相談箱は南校舎の保健室前に設置されているらしい。

現地に着き、保健室前の箱に目をやる。そこにはデカデカと"相談箱"と書かれていた。

「あったあった......」

俺は相談箱を回収し、鍵を使って箱を開けた。すると、ヒラヒラと一枚の手紙が地面に落ちる。

「手紙......か......」

(おいおい、一ヶ月に一回の回収では、入ってることは少ないんじゃ......これ相談箱の相談は回収者が引き受けないといけないとかある?めんどくさいなぁ)

回収してしまったものは放り捨てるわけにも行かない為、俺はそれを持って生徒会室に戻った。


「おう!案外遅かったな!長月」

生徒会室に戻ると、もう俺以外の生徒会メンバーは戻っていた。

「すいません、あと姉貴!これ、」

俺は相談箱に入っていた手紙を渡した。

「なにこれ?手紙?」

姉貴は折り畳まれた紙を開く

俺と近くにいた石川先輩も覗き見るように手紙を見る。手紙にはこう書かれていた。


生徒会の皆さんへ

名前もなしにすいません、私は1年生です。私達は現在、三週間後のクラスマッチに向けて計画を立てています。しかし、会議の際に口論が起きてしまい、現在メンバーは対立状態です。詳しい相談は屋上で昼休みの時間に待ちます。どうか来てください


「なるほどね、シデ、あんたに頼むわ」

俺はため息を吐きながら答える。

「俺一人でか??せめてもう一人欲しいんだが」

それを聞いた姉貴が頭を抱える。

「申し訳ないけどそれは無理よ、今日風紀委員は校内の巡回があるし、私や優樹君は康平君に生徒会新聞と書記ファイルの作り方を教えないとなくよね、他メンバーは全員来月の体育祭の計画を立てなきゃだし」

(おいおい、この事案を一人で捌けと?)

「待ってくれ姉貴、この相談はまだ不明瞭な点が多い、どんな無茶振りされるかわからんし、せめて2人以上が筋だろ」

俺は姉貴になんとか人員を割いてもらおうと抗うが、姉貴は首を縦には振らなかった。

「あ!?」

すると、姉貴が何か思いついたように手を叩いた。

「シデが選んで連れてくればいいのよ!誰か一人!」

俺はその時反吐を吐いた。しかし、もうそれ以外ないだろう。

「へいへい、わかりましたよ、誰か引っ張ってきますわ」

俺は諦めてヒラヒラと手を振りながら生徒会室を後にした。



10分休み中

「てなわけだ!頼めるか?辰也!」

俺は唯一の友達に机に頭を擦り付けて頼み込んでいた。

「え〜、どうしよっかな〜?」

(こいつ楽しんでやがる)

こいつの名前は飯島辰也。小学生からの付き合いで、親友だ。俺とは正反対の明るく面白い性格であり、人望も厚く、辺りに人が寄ってくる

「お願いします!辰也様!バイト代でカフェおごるんで!」

俺が放ったその言葉に反応した辰也は、武士風にアレンジした口調で

「御主、その言葉に二言はないとこの場で申すか!」

俺はその口調に乗っかる。

「ははぁ!大名殿、我が言葉には、二言はないとこの場で誓い申しましょう!」

辰也から得られたのは、了承の返事だった。

「よろしい!それならば我が知恵、御主に授けようぞ!」

再び机に頭を擦り付けた俺は

「ははぁ、ありがたき幸せ!」

こうして俺は、唯一の親友を味方につけることに成功した。



昼休み 屋上扉前

「で?具体的に何すればいいんだ?」

辰也の問いに

「とりあえずは相談を聞く、何をするかはそれからだ」

そう返して屋上の扉を開けた。


屋上で待っていたのは、

同じクラスの女子生徒だった。

「生徒会の人は飯島君と長月君だったんだ......とりあえず、立ち話も何だから、近くのベンチに座りましょう」

そう言われて俺達は移動した。

「改めて、来てくれてありがとう、私の名前は宮崎葵。近いうちに行われる学年内スポーツ大会の実行委員長だよ、よろしく」

自己紹介されたら返さなければいけない。

「知ってると思うが、長月紫電だ。よろしく」

俺の自己紹介に合わせて、辰也も

「飯島辰也だ!よろしく頼む!」

自己紹介が終わると、向こうはすぐに話を切り出してきた。

「今回相談させてもらった詳しい理由は〜

まず最初。1組、2組、3組、4組の実行委員が集まって会議したんだけど、その時まではまだ良かったのこの会議は実行委員長と副委員長を決める会議で、実行委員長には私が、副委員長には3組の小野さんが選ばれたんだけど、そこからが問題で、スポーツ大会の競技を決める議題の時に、サッカーとバスケが上がって、この間昼休みに集計した結果。サッカーの方が投票が多かったからサッカーにしようってなったんだけど」

それまで聞いて俺はある程度の展開を察した。

(これはおそらく、うまく納得できなかった奴らが分裂して、手に負えなくなってるやつだな)

「最終的に同じ一組の広瀬善さんと三組の2人が納得してくれなくて、頑なに否定して会議を放り出しちゃって......」

全てを聞き終えた俺はある作戦を組み立てた。

それを実行するには、2人の協力が必要不可欠だ。

「2人共......聞いてくれ......俺に考えがある、しかし、それを実行するには、まず宮崎さん、あんたがどうしたいかによる、この事案を協力して解決して欲しいのか、ただアドバイスが欲しいだけなのか、どっちなんだ?」

若干威圧を込めて問いかけた。

その方が焦って、本性を引き出せるからだ。

普段あまりしない手段な為、うまく威圧できてるか不安であったが、態度におどおどしさが出ている。効果はあったらしい。

「協力して解決して欲しい......です」

俺はそれを聞いて威圧を止め、作戦を告げ始めた。

「わかった、じゃあ、作戦内容を説明する」



放課後

どうやら会議は毎週一回、北校舎第一会議室にて行われるらしい、

「てな感じで、頼んだぜ、辰也」

等の辰也本人は、あまり乗り気ではないらしい

「俺はこの作戦、好きじゃねぇなぁ」

何やかんや言って一緒にいてくれるこいつには後で絶対に奢ってやろう。

作戦の打ち合わせを終えた俺達は、会議室に足を踏み入れた。


「それでは、第三回スポーツ大会実行会議を始めます!気をつけ!礼」

挨拶を済ませた俺達は、司会であり、依頼者の

宮崎さんの言葉で挨拶をした。

「今回は、生徒会からの視察役として、長月紫電さん、飯島辰也さんに来てもらってます。この2人も交えて、議題である、実行する競技について話し合っていきたいと思います」

すると、宮崎さんの声を遮り、一組のバスケ部、広瀬が声を上げる。

「つまんねぇんだよ!バスケの方が良いっつってんの!実行委員だからこっちだけの意見で決めれば良いだろ?代表で選ばれた俺らが決めてるんだから、他が何と言おうが俺らで決めれば良いじゃねぇか!」

どうやら相談時に聞いた学年で取った多数決調査がまだ気に食わないらしい。

すると、それに加えて、三組の2人がそれぞれ声を上げた。

「そうだそうだ!周りに合わせる必要なんかねぇんだよ!」

「代表で決まってんだから学年多数決なんか回りくどい方法取らずに俺らだけで決めれば良いっつうの!」

「違う!私はただみんなに楽しんでもらおうと.......」

宮崎さんは何とか反論しようとするが、顔を上げた宮崎さんに集まっているのは広瀬と三組2人の睨むような鋭い視線だった。

「みんなで楽しむとか言ってるけどさ、誰でも彼でも楽しめるわけじゃなくね?運動嫌いな奴もいるわけだしさぁ?だろ?実行委員長サマァ?」

広瀬がそう言うと、三組2人はそれを聞いて激しく笑い始めた。

「確かになぁ!」

「広瀬の言う通りだわ!」

すると、俺の後ろから鋭い気迫を感じる。

辰也がキレてる。

俺はそれを察して、素早く辰也の耳元でつぶやく。

「頃合いだな、手はず通り頼んだ」

俺はその場で手を上げた。

「あ?」

広瀬達含む会議参加者全員の視線が俺に集まる。

「ちょっと良いか??言いたいことが複数個あるんだが、」

会議が静まり返る。

俺は沈黙を承諾と見做して話し始めた。

「まず一つ目、広瀬、お前さっき代表で選ばれたから自分達だけで決めれば良いって言ったよな??その理論でいくと、お前らの中での代表として決まったのは紛れもない、宮崎さんじゃないか?そして、その路線で辿っていけば宮崎さんは最初、サッカーとバスケのどちらかをやると決まった時に多数決で決めると言った。お前らは宮崎さんのその意見に同意した。違うか??」

俺の問いに、広瀬は舌打ちして答えた。

「最初っから会議にいないくせに何言ってんだ?お前、俺らは同意なんざ鼻っからしてないっての!」

俺はそれを聞いて、予想通りの返しだと安堵すると同時に呆れたため息を出した。

「だったら、なんで多数決やるって時点で反対しなかったんだ?そこで反対してたら、自分達で決めようぜって意見出してたら、今こんなしょうもない言い争いはしてないと思うんだが?」

俺の問いに、三組二人は

「大体、宮崎が委員長やるってことに、俺達は反対だったんだ!」

「そうだ!」

それに乗っかり、広瀬は反論を口にだす。

「そうだよ!人望の無い委員長なんてやらなきゃ良いのにな!」

俺はそれを聞いて再び呆れたため息をついた。

こいつらはどうやら自分達の出した言葉の意味すらわからないらしい

「あのなぁ、お前らいまさっきも言ったよな?じゃあ何で宮崎さんが委員長になると決まる前に反対しなかった?別のやつに投票すれば良かったじゃねぇか、反対しなかったんなら、お前らが宮崎さんを代表だと認めたのと何ら変わりはないだろ?なぁ?広瀬、俺はお前に逆に問うぜ?お前本当は、自分の得意なジャンルで活躍したかっただけじゃ無いのか?」

俺は広瀬を扇動する様に問いかける。

「違う」

広瀬は小声で否定する。

「本当はそれで活躍してみんなから慕われたり女子からきゃー凄い!見たいにチヤホヤされたかっただけじゃねぇのか?」

俺はさらに詰めかける。

「違う!」

「正直に言えよ!ほら!自分は正しい!自分は強いって!この会議の場でチヤホヤされたかったが為にワガママを突き通してるだけじゃねえか?」


「違うっていってんだろ!」


勢いよく立ち上がった広瀬に胸ぐらを掴まれた俺はその手首を掴みかえし、

「その怒りは、自分がそう思ってるって言う証明だぞ?」

圧を込めて言い放った。

刹那、胸ぐらを掴んだ状態から、俺は投げ倒される。

他の生徒が止めに入ろうとしたその時だった

スマホの通知音が大音量で鳴る。

俺はそれを聞いて、ニヤリと笑った。

「あぁ、済まないな、今の音は生徒会から依頼された、会議風景の撮影だ。なんでも、今度の学年集会で流すためのものらしいぜ、頑張って会議した実行委員の人達の姿をみんなに見せる為にな」

その瞬間、見ればわかるほどに広瀬と三組の二人の血の気が引いていく。

「どうせだから、今度の学年集会の時に、このビデオの後、もう一回アンケート取ったらどうだ?その時に、全ての結果がわかるはずだぜ」

そう、これは全て計画していたことだ。

つまり、自分の作戦は功を奏したわけだ。

そうして俺の提案で終わりを迎えた会議の後、俺は屋上で宮崎さんと辰也と話をしていた。


「いやぁ、上手くいったな、」

俺は脱力したようにベンチに腰を下ろした。

「なんか、悪いことしたような気分。だけど、長月君、あなたがいないと解決できなかった。ありがとう」

俺は手をひらひらさせて

「いや、あんたの実力だよ、宮崎さん、この作戦が結果的に成功したのはあんたが基盤となる会議を作ってくれたおかげだ」

すると辰也が

「と言うか、俺、自分の持ち場についてしか聞いてなかったからどう言う作戦だったか普通に知りたいんだけど」

俺は笑いながら、

ああ実は......

時は遡り、昼休み 屋上ベンチにて

「具体的に作戦は3段階に分かれる。まず1段階目、辰也にはこの時、生徒会に提出する資料として、会議の風景を動画に納めてくれ、そして、おそらく相手は納得できない理由を何かしらぶつけてくるはずだ。まずはそれを黙って聞いて、それが終わるまで耐え凌ぐ、そして、2段階目、俺が何かしらの反論を即興で考えて反論する。同時に宮崎さんは息を潜めていてくれ、そして3段階目、俺が相手を煽りながら詰める。すると相手は煽りに耐えられなくなって、何かしらアクションを起こす筈だ。あとは動画を保存して、最後は宮崎さんの出番、近いうち、一週間後くらいに学年集会があるだろ?その時に今撮った動画を見せてから納得ができない人がいるようなので再び多数決を取ります!もちろんそんな状況でバスケに投票するやつなんていないさ、ただでさえ初回の投票でサッカーに負けてるんだ、バスケ部がやりたい放題している会議現場を目の当たりにして、バスケに投票する奴なんて、絶滅危惧種並みに居ないだろ」


俺はそれを振り返って

「今思うとだいぶ博打要素が強かったが、俺らはその博打に勝ったんだ。勝ちは勝ちだし、あとは、来週の投票を待つばかりだな、じゃあ、動画とアンケート表持って、職員室行きますか!」


その後、無事学年主任の先生に"頑張っている会議姿を見てもらう為"と言う口実の元動画とアンケートを送り届けた俺は、生徒会室に戻るのだった......



一週間後、サッカーが投票の差で圧勝したのは言うまでも無い

その後、1年生の間ではこの会議について、

「暴走した広瀬が一番悪いがそれを捲し立てた長月も悪い」

となり、俺についての噂が絶えなくなった。こうなることも計画済みだ。

これも作戦立案時に予想していた。

この作戦を実行するにあたって俺が一番懸念していた点、それは、この作戦をやることでことが終わった後、次は広瀬が批判を受け、暴走した広瀬が事件を起こすと言う流れ、つまりは、事件の再発だ。それを防止する為にはどうしたらいいか、簡単だ、別に批判を集める標的を作れば良い、そうすれば、宮崎さんにも広瀬にも批判が傾かずに済む。そうつまり、俺がその標的を引き受けたわけだ。捲し立て、煽る事で、俺も悪い、と言う状態にしてあげれば、人望がある広瀬は今回の事案で人望をある程度失おうが、残った人望で新たに再建できるはずだし、それこそ部活で活躍すれば、失った人望は復活するだろう。そうすれば、一番批判が向きやすいのは人望がない俺。俺が自動的に標的になると言うカラクリの完成だ。

まあ要は、ただ俺が全一年からのヘイトを買っただけである。


「どう?解決はできた?」

放課後、生徒会室にて、俺と姉貴は二人きりで話していた。

「意地が悪いなぁ、経緯も結果も、全部知ってるくせによぉ?」

ヤジを飛ばすように問いかけると

「さて?なんのことかしら?」

惚けられた。

「お得意のおとぼけかよ、まあいいや」

俺は家に帰るべくバッグを手に取った。

「シデ、いい?一つ言っておくわ」

姉貴に背を向けたまま、俺は問いかけた。

「なんだ?」

「自分を悪役にしなくたって、簡単に和解を促すことは出来るわ、自分をもっと大切にしなさい?中には、私みたいにあなたを大切に思う人がいるのだから」

姉貴はもう一言言いたげだったが、俺はそれを聞かずに歩み出した。




「わかってるよ、姉貴、だって俺はこんなやり方しかできない、それが俺の"本懐"だよ......」

一瞬歩みを止めて吐き捨てたその言葉は、もう薄暗くなった廊下に消えて行った。


後書き

みなさん!初めましての方ははじめまして、作者の長月嶺斗ことReitoです!今回は初めてのオリジナル作品「本懐の目撃者」を手掛けさせていただきました。私の初のオリジナルは如何でしたでしょうか?気に入っていただけたなら何よりです!これを執筆するにあたり協力していただいた方には誠に感謝しかありません!この場を借りて御礼申し上げます!ありがとうございます!それではまた次回もお楽しみに!

good-by!

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