第4話 出会いがあれば別れもあるのか、どうか
「今日の内に、大浴場へ行って。タイミングは私が指示するから」
明日には帰るという、夜になった時点で、そんな事を彼女が言ってきた。宿の大浴場には入った事があるけど、それは両親に連れられてきた高校生の時だ。入浴するのは、それ以来となる。
「そして、その時には私のマンガ単行本を持ちながら、廊下を歩いて。それで貴女は幸せになれるわ」
「どうしたの、急に。意味が分からないよ」
「いいわ、説明してあげる。ただ納得できても、できなくても、指示には従ってもらうからね」
真剣な
「……今日、一緒に入浴した時、私が言ったでしょう? 『私達が出会ったのって、運命だったのよ』って。あれは多分、半分くらいは、事実じゃないの。私達が宿で出会ったのは、無意識に、私が貴女を引き寄せたからなのよ」
「……どういう事?」
「ほら、私って、一応はヒットしたマンガ家だったじゃない。そういうインフルエンサーというか、影響力を持った人間が幽霊になると、
まだ良く分からない。そんな私に、彼女が問いかけてきた。
「貴女が高校生の時、この宿に来たよね。あの時、貴女は旅行先の決定に、口を出した? そもそも私が、この宿を利用していたと知ってた?」
「……ううん、知らなかった。旅行先を決めたのは両親だし、貴女が何処で原稿を描いてたかなんて、公表されてなかったから知らなかったわ」
「でしょう? そんな貴女が高校生の時、私の単行本を持ちながら宿の廊下を歩いてたのよ? それは偶然じゃなくて、私が貴女を引き寄せたの……半分くらいは、貴女の方が私を引き寄せたのかもね」
「……いい事じゃない。私も貴女も、言ってしまえば、ぼっち仲間だもの。そんな私達が求める事って、究極的には一つしか無いわ。『自分の事を、本当に理解してくれる人と
「そうね、全く、その通り。孤独な私達は、この宿で、会うべくして遭遇した。嬉しかったわ」
何故、彼女は、こんな思い出話をするのだろう。まるで
「ところでね、私は分身ができるのよ。知ってるでしょう?」
「良く知ってるよ。そうやって、いつも布団の中で私を
「そんなに
「難しい事を言われてもね、私には理解ができないから」
「私だって量子コンピューターには詳しくないから安心して。適当な
「……何それ。お見合いサービス?」
「まあ、そんな感じのもの。貴女が二泊三日の旅程を決めたのも、その子の両親が同じタイミングで旅行先に
「……何がしたいの? そんな事、私は頼んでない」
「言ったでしょう。私は、いつ
私は黙っていた。そんな私に、彼女が言葉を続ける。
「その子はね、マンガ家
「嫌よ! そんな、『私は
「駄目よ! ちゃんと言う事を聞きなさい!」
手足の動きを
「そう。そうやって、単行本を持って……部屋を出て、大浴場に向かってね。いい子だから、言う事を聞いて。お願い……」
泣きたかったけど、涙腺までコントロールされているのか、全く泣けなかった。歩調まで操られて、私は廊下を歩く。T字路の曲がり角で、その子と私は出会い
「あっ、すみません……」
女の子が
「星宮セリナ先生の作品! お好きなんですか、私も大ファンで! 私も名字が星宮なんです、偶然なんだけど、何だか運命みたいで嬉しくって……」
私は彼女が今日、宿への帰り道で
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