第3話 ちょっと普通ではない関係。それだけの事
この温泉宿には大浴場があるけど、私と彼女は
しかし私の目には、ちゃんと彼女が私と一緒に入浴してるように見える。彼女が動くたびに、浴槽の中のお湯も動く。幽霊の彼女に寄れば、「錯覚に過ぎないよ」という事らしいけれど。
「実体が無いからね、私。その実体が無い私を貴女の脳は、あたかも本当に存在してるみたいに認識しているの。それに
つまり浴槽から上がった今の彼女が、
「……生前は長い事、この宿に泊まっていたんでしょ? 大浴場には行った事が無いの?」
「うん、一回も入った事は無いわ。他の人と、あんまり関わりたくなかったからね。思い返すと、何であんなに人付き合いを避けてたのか、自分でも分からないけれど」
私には、何となく分かる。生前の彼女はマンガ家であり、一種の芸術家だった。そして自分の内面から生み出される作品を大事にしていて、自身の内面を誰にも荒らされたくなかったのだ。もし誰かに心を踏み荒らされて、作品が描けなくなったら食べていけなくなる。彼女に取って作品を描く事は、唯一の生活手段であり、天涯孤独の自身を支える方法だったのだから。
「……凄いよねぇ、貴女って。私より私の事を理解してるみたい」
私は何も言わなかったけれど、幽霊の彼女には頭も心も
「私達が将来、どうなるか分からないけどさ。きっと私達が出会ったのって、運命だったのよ。私は本当に理解されるために、貴女が高校生の時、この宿で遭遇したんだわ」
私も彼女を抱き締め返す。この
旅行二日目の私達は、お昼頃、一緒に街を散策していた。つまり実質的には私一人で歩いていて、幽霊の彼女とは
ちなみに私は土地勘が全く無くて、彼女のナビに従って歩くのみだ。街と言ったけれど、失礼ながら温泉宿の周辺は
宿は関東周辺の地域にあって、雪も降っていないし良く晴れている。一月にしては温かいくらいだ。坂道が多くて、山にも海にも近い場所の空気は気持ちが良かった。
(ねぇ、趣味の小説は、これからも書き続けるの?)
そんな事を彼女が言ってくる。マンガ好きの私は画力が無くて、だからなのか趣味で小説をウェブ投稿したりしていた。プロのマンガ家だった彼女から、そんな事を言われる私は恥ずかしいったら無い。
(……分かんないよ。就職したら、趣味に
そう返しながら、それでも私は、書く事は続けたいと思っていた。何故と尋ねられたら、答えるのが難しいけど、彼女のマンガを読んできたからかも知れない。彼女の作品は、常に内面の動きから生まれていて、内側の感情を表現したがっているように私には見えた。ストーリーよりも、自分の内面の表現を優先していて、だから彼女は独りで描く事に
プロである彼女の表現力には、遠く及ばない。それでも私は、彼女と同じように、内面から生まれるものを作品にしたく思った。まして幽霊である彼女の存在は
(なるほど、貴女がこれからも書き続けたがってる事は、良く分かったよ)
隣を浮かびながら、私と並んで移動している彼女がそう言った。頭の中を
(だけどね。生き方まで、私の
そんな事を彼女が言ってくる。お説教だろうか。何だか大げさに感じられて私は
教えてあげる、などと言った
両親に連れられている、十代の女子が居る。
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