第2話 来年も今年と同じ、となるとは限らない
「いい姫初めだったねー。また来年も
永遠とも思える体感時間だったけど、宿の夕食には間に合う内に解放されて、私はホッとした。私は基本的に、彼女に逆らえないけれど、本当に無理な事を彼女は押し付けてこない。私は幽霊の彼女に
ちなみに食事は部屋で、一人で食べる。今は感染症対策が必須だから、この方が望ましいのだろう。ぼっちの私は団体客と一緒の食事が苦手なので、ちょうど良かった。幽霊の彼女も生前、宿では常に一人で食べていたそうだ。
「それにしてもさ……ずーっと部屋で、一人で原稿を描いてたんでしょう? 寂しくなかったの?」
宿の食事は刺身もローストビーフも美味しくて、大満足だ。仲居さんに夕食を片づけてもらった私は今、宿の自販機で買ったビールを部屋に持ち込んで、くつろいでいる。そんな状態で私は、宙に浮かんでいる彼女を見上げながら話しかけた。
「寂しいに決まってるじゃない。だから死後、貴女に取り憑いたんだからさ」
そう笑う彼女は、私からは楽しそうに見えて、生前の彼女の孤独が
「まあ、そうねー。早くから独りぼっちだったからね、私。両親が事故で亡くなって、祖父母から育てられてたけど、その人達も私が十代の時に世を去って。幸い、その前に漫画家デビューが決まったから、何とか生きていく事ができたって話よ。孤独には、
天涯孤独の身となった彼女は、決まった住まいを持たず、この宿に泊まる事が多かったそうだ。アシスタントも雇わず、宿で一人、原稿を描いていたそうで。過労死の原因は、その辺りかも知れないと私は思った。生前の彼女は年齢も本名も公開してないけど、二十代で世を去ったと伝えられている。
「……同情してくれるのは嬉しいけどね。そんなに悪い人生じゃなかったよ? 今はブームも去ったけど、生前の私には
私の頭と心を
「……私の事より、貴女の事よ。今年は就職も決まってるんでしょう? いつまでも独りぼっちだと、私みたいになっちゃうよ」
「別にいいよ。だって、貴女が居るもの」
「
それに、と言った後、彼女は言葉を切った。もう何度も言われている事なので、次に何と言うか、私には分かっている。そのまま私は言葉を待った。
「……それに、私だって、いつ
ありがたいなぁ、と私は思った。好きな
「……ねぇ。ちょっと早いけど、一緒に寝よう? 私の将来を早くから心配しすぎても、しょうがないよ。私は昔から
私は彼女を布団に誘う。これは私の身体を好きにしていいという意思表示でもあった。結局、私が彼女にできる事なんて、これくらいしか無い。
「……もう、しょうがないなぁ……まだ温泉にも入ってないのに」
笑いながら、彼女は布団に入ってくる。たちまち、布団の中は異空間となって、その中で彼女は私に身を寄せながら話しかけてきた。
「でもね。私は貴女の将来について、考えてきたの。この旅行中に、貴女の運命を操作してみせるわ。出会いがあれば、人の運命なんて簡単に変わるのよ。それを貴女に教えてあげる」
彼女が何を言っているのか、私には良く分からない。すぐに私は何も分からなくなって、
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