第三十三話 巨大モンスターの正体

 ビニーと出会ったコンビニが、瓦礫の山へと変貌していた。

 文字通り潰れている。


 なんでこんなことになってるんだ?

 自然になるわけはない。

 原因、というよりも犯人はどこかにいるだろう。


 それに、そう遠くには行っていないはずだ。昨日、最後にコンビニを見たときには無事だった。

 犯行は夜の間にあったと思っていいだろう。

 


 なら気になるのは、誰がやったのか、だ。

 少なくとも、俺ではないことは確か。

 まあ、考えるまでもない。寝てたわけだし。


 そして、人間でもないだろう。巨人になれる力でもない限り、あの潰し方はできない。だから除外。


 考えられるのは、モンスターのみだ。

 モンスターなら多種多様な種族がいるし、コンビニを踏み潰しそうなのもいるだろう。


 だが、正体はわからないな。

 

 100層のボス部屋にいたようなドラゴンか、巨人のようなモンスターか。

 それ以外の何か、なのか。

 とにかくデカいやつなのは確かだろうな。


 デカいモンスター、か、


 考えながら、この前の話の中に出てきたモンスターの存在が脳裏をよぎった。


 過去にかなえが言っていた、ダンジョン付近で誰かが目撃したという大型のモンスターだ。

 人間だけでなく、モンスターすらも襲うらしく、聞いただけでも普通のモンスターとは違うのがわかる。

 

 その話が正しければ、俺やビニーのような、イレギュラーである可能性が高い。


 地上で生まれたか、俺と同じ死んでモンスターになった人間か。

 はたまたそれ以外か。

 会えれば、会ってみればわかるだろう。

 かなえから聞いた噂でしかなかった存在が、一気に現実味を帯びてきた。


 この前、かなえとダンジョンに行ったときにチラチラと探してはいたのだが、一度も見ることができなかった。

 

 

 そのモンスターが、近くに来ている。

 駅のダンジョン付近から、ここまで来てコンビニを潰した?

 行動の意味はわからないが、あり得そうなのは、その噂のモンスターだけだ。

 

 たった今、コンビニが潰れているのを見るまでほとんど忘れていた。

 ただの噂にすぎないと思っていたからな。


 そいつが、本当にいるなら、会ってみたい。

 まだ、この街で出来ることが残ってるじゃないか。


「コビン、ビニー」

「ん~?」

「シャー?」


 俺は今、久しぶりに心が躍っている。

 雑魚ばかりと戦うのにも飽きてきていたところだ。

 

「巨大モンスターをさがすぞ!」

「さがすぞー」

「シャ~」


 最後に、そいつを倒してから行こう。

 何故コンビニだけをこんな無残な姿にしたのかは未だ謎が残るが、俺が街を出ている間に家を潰されるのは、困るからな。


「やまとうれしそう!」

「そうか?」

「うん!」


 なんか、恥ずかしいからやめてくれ。


 だが、どこを探す?

 コンビニを踏み潰してしまうぐらいの大きさだ。街の中にいれば、どこからでも見えそうなもんだが。

 それらしき、存在は見当たらん。

 

 地道に歩いて探すよりも、上から見た方がわかりそうだな。

 デカい奴を探すときは、デカいやつの目線になってみればいいのだ。

 キリンのように広い視野を持って探すとしよう。


 今の身体能力なら、全小学生憧れのあれも出来そうだしな。

 

 コビンとビニーを連れ、跳んだ。

 民家の屋根の上へと。

 

 屋根に飛び乗ったら、更に跳んでより高い建物の屋根を目指す。

 三角屋根の頂点に立って辺りを見渡し、コビンとビニーを開放した。

 ここまで登ればちょうどいいだろう。


「何か見えたら教えてくれ」

「わかった!」

「シュルー」

 

 あれが学校で、あれがショッピングセンター。

 立派なお店の看板も見えている。


 うむ、ここならよく見えるな。


 俺が生まれ育った町の光景である。

 行ったことのある場所も多い。

 

 それで、あれはなんだ?

 かなり遠くに見える、雲の上まで伸びる巨大な塔。あの塔が人間の建てたものだとしたら、世界記録を更新してしまいそうな高さ。

 俺の知らない間に出来た建築物だ。

 世界がこんなことになって、出来たものだろうな。

 

 あれも、ダンジョンなのか?

 目的の巨大モンスターを倒したらあそこに行ってみるのもいいかもな。


 さて、肝心のそいつは全く見えない。


 どこにいるんだ?

 俺の勘違いで、本当にただの噂だった可能性もまだあるからな。

 わざわざ、ダンジョンの辺りからここまで来てコンビニだけ潰していった理由だけが全くわからん。

 本当にそんなことするやついるのか?

 探すだけ、無駄なのかもしれない。

 

 いや、諦めるのはまだ早い。現に、コンビニは潰された。

 そして、コンビニは昨日まで無事だったのだ。

 犯人はまだ近くにいるはず。

 

 必死に目を凝らして探す。

 しかし、高いところに登ったら、今までは襲って来なかったやつらが邪魔してくるな。

 

「クケェ!」


 滑空してきた鳥形モンスターの首に手刀を叩きつける。


「こう見ると、空にもたくさんモンスターがいるんだな」


 日本で怪鳥を見ることになるとは。

 どれもダンジョンでは見たことのないやつらだ。


 俺なんかに構ってないで、大空を飛び回っていればいいものを。

 

「コビン、あんまり離れるなよ」

「うん!」


 モンスターの相手をしつつ、件のモンスターを探していたが、他をあたった方がよさそうだな。

 ここまで来ても、結局見当たらんし。

 ビニーは服の中に入ってきて、探すのを諦めてるし。

 

 普通に歩いて探すか。

 千里の道も一歩から、って言うしな。


 だが、そんなデカいモンスターがどこに行ったっていうんだ。

 隠れられる場所なんて……。

 

「あっ」

「どうしたの?」


 ある。

 俺は知ってるじゃないか。

 巨大モンスターの収まりそうな場所を。


 あそこが今、どうなってるのかも気になってたしな。

 見に行くという意味でも丁度いい。

 原点回帰といこうじゃないか。


 

 そこにたどり着き、俺は息を呑んだ。

 

 

 街を探しても、いないはずだ。

 こいつは、街の下にいたのだから。


 俺の出てきたダンジョンがあった大きな峡谷だ。

 そこで奴は寝ていた。


 眠っていても圧倒されてしまいそうになる存在感。


「やべぇな」

「おっきいねぇ」


 8つの頭に、8つの尾があった。

 そのすべてがつながり、1つの身体になっている蛇の怪物。

 

 確かに、こいつは大きい。間違いなく俺が今まで見てきたモンスターの中で一番大きいかもしれない。

 

 そのうちの1つが、不意にパチリと目を開け、俺に気が付いた。

 眠っていたはずの頭が続々と、目を覚ましていく。

 

「おお……」

 

 いつの間にか全ての頭が持ち上がり、それぞれの眼が俺を睨んでいる。

 強さはどれぐらいだろうか。

 頼むから、強くあってくれ。

 ドラゴンよりも強ければなお、いい。


 こいつを一目見てから、戦うことしか考えられない自分がいる。

 

「ははっ」


 なんで、この街にこんな化け物がいるんだろうな。こいつこそ、ダンジョンでも見たことがない。

 ここら辺にそういう伝説でも残ってんのか?

 そんなことは聞いたことないが。

 見た目は、完全にそれだ。

 

 俺の目の前にいるこいつは、かの有名な八岐大蛇だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る