第三十二話 近所のコンビニがつぶれてた

「ただ、そうだな」

「ん?」


 別れる前に、何か渡しておこうと思った。

 それが、少しでも今後の彼女の力になればいい。


 ただ、良い物があんまりないんだよな。

 ダンジョンで見つけてきたのは、どれも癖のあるものばかりだ。

 アイテムボックスから取り出すものを悩んでいると、スキル直感が仕事をした。戦闘以外で発動するのは珍しいな。


 直感が、これを渡しておけと言っている。

 けど、女の人にこれ渡すのってどうなんだ? いや、まあ深い意味はないしなぁ。


「指輪?」

「ポケットにでも入れておけ。きっと役に立つ」

「へぇ、どんな効果があるの?」

「不思議な力は感じるが、効果はない」

「なによそれー」


 正確には、わからん。

 一度つけたが、ステータスには何の変化もなかったからな。

 けど、直感が渡しておけと言ったということは、この指輪には何かあるはずだ。

 

「ありがとう。大事にするわ」

「おう」

 

 指につけたそれを眺めながら、彼女は言った。

 まあ、そういうアイテムは装備しないと意味ないってよく言うし。

 

 お。

 今まで服の中に入って出てこなかったコビンが顔を出した。

 

「……じゃあね」

「コビンちゃん!! やっぱりコビンちゃんだけでも一緒に来ない?」

「おい」

「ふふっ、冗談よ。それじゃあ、今まで本当にありがとうね」


 行くらしい。

 これからあかねたちとダンジョンに行くのだろうか。


「ああ、またな」

「っ! ええ、また会いましょうね」


 彼女が大変なのはこれからだろうが、きっと大丈夫だ。



 


「やまと、さみしい?」

「どうしてだ?」


 家に帰ると、コビンがそんなことを聞いてきた。

 

「かなえがいたとき、やまとたのしそうだったから」

「ああ、楽しかったような気がするな」


 確かに、彼女といた数日間は充実していたように思う。

 レベル上げを手伝っているのも楽しかったし、何より彼女と話しているとき、俺は人間でいられた。

 ただ、寂しいかと言われるとな。


「寂しくはないよ。コビンやビニーがいるしな」

「そぉ?」


 これで、本当に一人だったなら。俺は寂しかったかもしれない。それぐらい、彼女といた数日間は楽しかった。


「これからも俺のことを頼んだよ」

「んへへ~、まかせて!」

「シャー」

 

 ビニーも出てきてくれた。


「よし、今日は久しぶりにカップラーメンでも食べるか!」

「たべるー!」

 

 しんみりした気持ちを激辛で吹き飛ばすのだ。


 

 これから、またかなえと出会う前の生活に戻る。

 街のモンスターを倒して、家を守るという毎日。それでもいいだろう。

 ただ、以前考えていたことを行動に移すのに、良い機会だ。


 カップラーメンを食べながら、二人にきりだす。

 

「この街を出ようと思う」

「?」


 コビンちゃんはよくわかっていないらしい。

 この街にいると、どうしても家族のこと、そしてあかねのことを考えてしまう。

 ずっと、考えてしまう。

 

 遠くに行ってしまえば、会いたくなることもなくなるはずだ。

 

 街の中で暮らすというのは、あかねに限らず人と遭遇してしまう危険がある。誰もがみんな、かなえのように受け入れてくれるとは限らない。

 

 俺は、強すぎる。

 弱いよりはいいだろう。ただ、強すぎるのだ。

 かなえが苦戦して、頑張って倒した相手が、俺には雑魚にしか見えない。学校で2番目に強いと言われていた藤崎という男は全く相手にならなかった。

 1番強いというあかねも、俺には敵わないだろう。正しく、化け物という言葉が自分にはぴったりだ。

 レベル上げを手伝って、俺の異常さがよくわかった。


 俺みたいな強さをもった奴が集団の中にいたら、良くないことが起こるのは明白だ。

 俺の力を利用しようとする人だって現れるだろう。


 まあ、それを言ったらかなえも俺の力を利用してレベル上げをしていたか。

 そう考えると面白い。

 ただ、彼女は一度も俺に戦わせようとはしなかった。

 自分が強くなろうとしていた。

 

 それはかなえだったから。

 きっと他の人は、俺の強さを知ったらそんな行動には出ない。



 ここが地球じゃなかったら、強さになんて悩むこともなかっただろうな。

 神様は、どうして俺を異世界に連れていってくれなかったのかね。


「人のいない場所に行って、俺らだけで暮らすんだ」

 

 人に会わないということなら、山暮らしとかもいいだろう。

 

「こびんはいいよ!」

「シュルル~」

 

 この街での、俺がやることは大体やってしまった。

 あかねを守ってくれるというかなえのレベル上げも終わり、街に出てくるモンスターの数も減ってきた。


 街を離れて、人の入れない場所にあるダンジョンを攻略して周るのもいいだろう。

 ダンジョンを攻略していけば、俺のやるべきことが見えてくるかもしれない。もう一度、巫女服少女にも会えるかもしれない。

 

「ただ、今すぐじゃないから、心の準備だけしておいて」

「わかったー!」


 うむ、二人の反応も良さげである。


 そう、今すぐじゃない。

 まだ心の準備が出来ていないからな。俺の。

 

 しばらくは、今のように街に出てくるモンスターを倒してまわろう。

 それで、俺の心の準備が出来たら街を出よう。



 

 決心がつかないまま、一週間が経過した。

 

 街に現れるモンスターを倒して、まだいるからとこの街に留まっている。

 何か切っ掛けがあればいいんだがな。


 いや、この前のあれがいい切っ掛けではあったか。

 

 結局は、俺がこの街を離れたくないのだ。

 生まれたときからずっと暮らしてきて、あかねとの思い出もたくさんあるこの街を。


 ただ、そろそろ決意しないといけない。

 これ以上はダメだ。


 このままじゃ、誰かに見つかってしまう。

 俺という存在が、結界の中で暮らす人間に。


 俺が倒し続けたことで、確実にモンスターも減ってきた。

 ここ数日は、よりモンスターの数が減ったことを実感している。

 結界の中の戦えない人が出てくる日も近いかもしれないのだ。


 ただなぁ。

 俺だけが倒したという割には減りすぎな気もするんだよなぁ。


 人間の強い奴は、みんなダンジョンの攻略に忙しいらしいし。地上のモンスターは俺に任せきりじゃないか?

 そりゃあれだけ強力な結界があればそれもわかるが。


 そんなことを考えながら、歩いていた。


「っ!」


 なんでこんなことになってるんだ。


「シャーシャー」

「コンビニが、つ、つぶれてる」


 経営に失敗したとかじゃなくて、物理的に。

 ぺちゃんこだ。


 昨日までは、大蛇が守っていた影響で無傷だったのに瓦礫の山になってしまっている。

 大きなモンスターに潰されたのか。

 だが、ここら辺で大型のモンスターはあの大蛇以来ほとんど見ていないし、見たとしても俺が倒してしまっていた。

 何かが、ここら辺まで移動してきたのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る