第二十七話 side:かなえ

「叶です。いま帰りました」


 校門で番をしてくれている人に自分が帰ってきたことを報告する。

 人の良さそうなおじさんだが、結界が出来る前から門番をしているからレベルは相当高いらしい。

 尤も、今は結界のおかげで彼が相手をしているのは人の出入りだけになっている。


 おじさんは私を見ると、柔らかい表情になって出迎えてくれた。


「ああ、おかえり。今日も無事でよかったよ。嬉しそうだけど、何か良いことでもあったかい?」

「またレベルが上がったんですよ」


 本当のことは言えない。

 だが、嘘をついているわけでもない。レベルが上がったのは、本当だもの。

 

「おお、そりゃ凄いな。だけど、無理だけはしちゃダメだよ」

「はい、それでは」

「あいよぉ」


 嬉しいこと、か。

 やまとのお陰でレベルが一気に15にまでなった。

 普通ならありえない成長速度だ。

 あんな危険なこと、やまとなしでは絶対に出来ないだろう。


 彼は絶対に助けてくれる。

 だから、私は頑張れる。

 彼が助けない間、私は頑張らなければいけない。


 彼がいれば、絶対に死ぬことはないのだから。


 この調子なら、本当にオークにも勝てるようになりそうだ。

 明日は絶対に勝ってみせる!

 

 ただ、これは人には言えない。やまととの約束を破ることになってしまうから。

 レベルが上がったことは最悪、バレてもいいけど。どうやったのかは秘密だ。

 

 もう1つある。

 これは嬉しかった。

 そして、予想外だった。

 つい先ほどのことだ。

 まさか、あの男が自分のためにあそこまで怒ってくれるとは思っていなかったから。


 殺す、と言った時の表情は少し怖かったが、自分のために言っているのだと思えば、嬉しかった。


 詮索するなと言われている彼の正体。

 やっぱり気になってしまう。


 だが、考えたらいけない。考えてしまえば、一緒にいられなくなってしまう気がするから。

 

 まずは、汗を洗い流して一日の汚れを落とそう。

 今日は本当に頑張った。

 けど、不思議と疲れが残ってないのよね。

 もしかして、コビンちゃんがくれた団子の効果かしら。すごく美味しかったし、彼女が魔法で出してるらしいから、そういう効果があってもおかしくない。

 

 着替えを終え、共有で使っている教室から出ると、校内が先ほどよりも賑やかになっていることに気付いた。


 これは、恐らくそうだろう。

 目的の人物を探して、校舎玄関まで向かう。

 

「あっ、あかねちゃん!」


 ダンジョンを攻略している彼女たちのお陰でこの学校の空気は明るい。

 彼女たちは、みんなの希望なのだ。


「かなえさん……っ!」


 いつものように声を掛けると、彼女は大きく目を見開いて私を見ていた。

 彼女は攻略組のメンバーに断りを入れて私の元へとやってきた。


「ちょっとこっちに来てください」

「え、うん」


 あかねちゃんに手を引かれて、人影のない教室へと連れて行かれる。

 いったいどうしたのだろうか。

 

「かなえさん、どうしたんですか?」

「え?」

 

 言っている意味がわからず首を傾げる。

 今日の私、何か変かな?

 見た目は特に変わっていないはずだけど。

 

「今日一日ですごくレベルが上がりましたね」


 彼女の言葉を聞いて、息を呑んだ。

 

「えっ、なんでわかっちゃうのー?」

「私は賢者だから、色んなスキルを持ってるんです」


 軽く微笑みながら彼女は言う。

 なるほど。

 そんなスキルがあるのか。


「外でたくさん魔物を倒しただけだよ!」

「本当ですかぁ?」


 少し無理があるかもしれないが、一応事実ではある。

 

「そんなにレベルが上がるまで無理をして、あんまり頑張りすぎないでくださいね」

「あかねちゃん……」

「死んでしまったら、元も子もないですから」


 悲しく、寂しそうな表情。

 居てもたってもいられず、彼女を抱きしめた。

 

「そんな心配しないでも私は大丈夫だよ。無理もしてないし、すぐにあかねちゃんに追いついて一緒にダンジョン行けるようになるから!」

「けど、無理だけはしないでください」

「あかねちゃんの方こそ無理はしないでよ?」

「私は大丈夫ですよ。強いですから」


 いつか、彼女の隣に並びたてるようになろう。守られるだけじゃなく、守れるように。

 そのためにも、もっと頑張らなくちゃ。


 二人で教室を出る。


「けど、そのレベルなら、2層ぐらいならダンジョンに行けそうですね」

「え、そうかな!?」

「行けると思いますよ」


 確かに、2層ぐらいならホブゴブリンしか出ないという話だ。

 やまとが良いと言ったら、それもありかな。

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