第二十六話 成長

「よし、今日はここまでにするか」

「プギィッ!?」

 

 かなえさんの剣を弾いて棍棒を振り下ろそうとしてたオークを、横から入り蹴り飛ばす。

 今のは、かなり惜しかったな。

 オークが、じゃなくてかなえさんが。


 あと少しでオークに勝てそうだ。

 

「ありがとな、コビン」

「えへへ~」

 

 横にいたコビンが落ちた魔石を拾ってきてくれた。

 コビンちゃんはそのまま肩に座って休憩である。


 ビニーは最初以降ずっと服の中だ。

 かなり服の中に入るのが好きらしい。

 デカくなったら入れなくなるが、大丈夫だろうか。

 

「はぁっ……はぁっ……」

「大丈夫か?」


 肩で息をしているかなえさんに声を掛ける。

 かなり疲れているみたいだな。今日の戦いを思えばそれも当然か。

 

「はぁ……本当に地獄だったわ」

「レベルは上がっただろ?」


 朝から初めて、そろそろ日が暮れそうになっていた。

 その間、昼休憩以外はずっとオークと戦い続けていたのだ。

 

「……それは……そうだけど、一度も勝てなかったわ」

「今日は無理だったが、すぐに一人でも勝てるようになるさ。今のもかなり惜しかった」

 

 朝よりも確実に強くなってきている。

 やはり、1人で雑魚と戦うよりも、誰かに助けてもらって強敵と闘った方がレベルは上がりやすいらしい。

 ま、助けるのは危なくなったときだけだが。

 

 このレベル上げ方法。

 ビニーで試したときは効果があるのか半信半疑だったが、戦いに参加していれば、とどめを刺したのが俺でも経験値はちゃんと入るらしい。

 

 こういうときにもスキル直感は便利だ。

 かなえさんが危なくなったタイミングで助けることが出来る。


「本当に勝てるかしら」

「大丈夫だ。すぐに勝てるようにしてやる」


 まあ、無理をさせてるのは事実だけども。

 かなえさんには、早くあかねたちに追いついてもらわないといけないからな。


「レベルは何になった?」

「えーっと、レベルは15になってるわ」

「おおー、かなり上がったな。明日には一人でオークに勝てるんじゃないか?」

「頭がおかしくなりそうね」


 世界にモンスターが現れてから今まで戦ってきて8だったことを思えば、一日で滅茶苦茶上がっている。


「確かに、最初よりはオークの攻撃が見えるようになってきたのよね」

「あと少しだな」


 口では不安そうなことを言っていたが、かなえさんもしっかり手応えを感じているらしい。


「はい、これあげる……」


 コビンがいつの間にか、妖精団子を作っていた。

 そしてそれを恥ずかしそうにかなえさんへ渡している。最初はかなえさんのことを警戒していたが、今日一日頑張っているのを見ていたからな。

 コビンも心を許しつつあるのかもしれない。

 可愛いやつめ。

 

「えっ! いいのー!?」

「いらないならあげないもん」

「すごくほしいわ! 本当にありがとねコビンちゃん!」


 疲れてると思ったが滅茶苦茶テンション上がったな。

 これがコビンパワーか。

 お昼にも妖精団子は食べていたが、かなり美味しかったみたいだ。

 その見た目には驚いてたけどな。


「やっぱりこれ凄く美味しいわ……」


 傍から見たら泥団子食べてるようにしか見えないからなぁ。

 今もかなえさんが泥団子食べてるように見える。


「今日は送っていこう」

「え、いいの?」


 妖精団子をもらった時とのテンションの差はなんだ。

 

「かなり疲れただろうからな」

「本当、弟子になった途端、すごく優しくなったわね?」


 弟子になる前も学校まで送っただろうが。

 

「やまとはまえからやさしいもん!」


 コビンの反撃である。

 そうだそうだもっと言ってやれ。


「いらないなら、1人で帰るか?」

「いえ、かなり助かるわ」

「そうか」


 最初からそう言っていればいいものを。

 一言言わないと気が済まないのか。

 

「よし、日が落ちる前に行こう」

「ええ」


 歩いて一時間ぐらいか?

 オークを探して色々と歩き回ったからな。

 いつの間にか、結構離れていた。

 ここら辺のモンスターが減っているのは本当らしい。


 このまま駆逐してしまえそうだな。

 

「そういえば、ここに来ることを他の人たちにはなんて言ってるんだ?」


 今日一日ずっと俺と一緒にいるが。

 

「普通にレベル上げね」

「それでいいのか?」


 自由行動オーケーなの?


「この前のことがあったから、1人が良いって言ったからね」

「なるほどな」


 もしかしたら、かなえさんって学校の中じゃ戦える方だと思われてるのか?

 じゃないと、他に女の人がついてきそうだ。


 まあ、学校の中が今どんな風になってるのか、俺は知らないから想像でしかないが。

 

 ゲームじゃないからな。

 命がけでモンスターと戦ってレベル上げをする方が少数か。

 そう考えると、彼女は頑張っていた方である。


 そのまま、遭遇するモンスターは俺が倒しながら進んでいく。

 しばらく確認していないが、俺もレベル上がってるかもな。

 

 ん?


「おい、隠れるぞ」

「えっ? ちょっと……」

 

 かなえさんの腕を引いて、路地に隠れる。

 

「急にどうしたのよ」

「静かに」


 隠れていると、声が聞こえてくる。


「今日も楽勝でしたね!」

「当然だ」

「この分じゃ、あの女を抜くのもすぐですな!」

 

 数人の男の会話。

 あの中なら、真ん中の男が一番強そうだな。


「あれは学校の人間か?」

「そうね、学校でもあかねちゃんたちの次に強いわ。ダンジョンから帰るとこみたいね」


 なるほど。

 あんなガラの悪そうな人間もいるんだな。それこそ、前の世紀末覇者たちみたいだ。

 

「じゃあ、私は隠れなくてもよかったじゃないの」

「そういえばそうだな」


 隠れることしか考えてなかったから、咄嗟に連れてきてしまった。


「けど、助かったわ」

「ほう?」


 文句を言われたと思ったら今度はお礼を言われた。

 何か、訳ありか。

 

「あいつら悪い奴らなのか?」

「ええ」


 かなえさんは頷きながら憎々しそうに奴らのことを睨んでいた。

 

「私を襲った男たちのリーダーみたいな存在よ。あいつのせいであの男たちと食料確保しに行くことになったんだから。強いから誰も文句を言えないし」

「なるほどな。……殺すか?」


 話を聞く限り、計画してやったと思って良さそうだし。

 

 こんな非常事態に計画して女を襲うような奴らだ。

 もしかしたらいつかあかねもあいつらに襲われるかもしれない。

 それなら、早いうちに潰しておいた方がいい。

 

「えっ、いいわよ。そこまでしなくても」

「そうか?」

「けど、ありがとうね」


 ん?

 だがまあ、顔は覚えておこう。


「よし、行ったみたいだな」

「ちょっと……」

「なんだ?」


 奴らの行った方から視線を外し、目の前のかなえに目を向ける。

 至近距離に綺麗な顔があった。


「くっつきすぎなんだけど」


 ありゃ。

 隠れるためにかなり密着していたらしい。

 

「ああ、わるい」

「もう少しなんか反応しなさいよ」

「さあ、そろそろ日が暮れちまう」


 学校まであと少しだ。


 男たちの後ろを歩いていたからなのか、それ以降はモンスターに襲われることなく学校に着くことが出来た。

 あいつらが風よけになって、モンスターを倒していてくれたのだろう。

 

「それじゃありがとうね!」

「ああ」

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