第二十五話 レベル上限

 谷の底にあったダンジョンを攻略したのは、他でもない俺だ。


「だから、そこからモンスターが出てくる可能性はもうないぞ」


 ダンジョン崩壊したし。

 これぐらいなら言ってもいいだろう。


「それは……冗談とかではなく?」

「マジだ」


 その占い師っていうのがいるなら、遅かれ早かれ谷の下のダンジョンが攻略されていることはわかるはずだ

 

 そして、誰が攻略したのか。


 この街に俺以上の強さを持った奴がいない限り、俺の強さを知っている人間なら、少し考えれば気付くことだ。

 現状の俺の強さを知っている人はかなえさんしか、いないし。

 そのかなえさんになら言っても問題ないだろう。


「いつなの?」

「4日……いや、5日前か?」


 うむ、何日前かなんて覚えてない。

 確かそれぐらいだったはずだ。


「そう言えば、街の魔物が減ってきたのもその辺り……?」


 ごにょごにょと喋り出した。


「なんだか、あそこのダンジョンもあなたが攻略してしまった方がいい気してきたわ」

「20層の方か?」


 実際、それは俺も考えた。

 あかねが危険なダンジョンを攻略するよりも、俺が1人でコアを破壊した方がいいんじゃないかと。


「それもありでは、ある」


 ただ、問題もある。


 俺が人間だったらそれでもいいが、俺は人間じゃない。

 職業なんていう不思議パワーを人々が持った世界で、俺みたいな人外のモンスターが強い力をもっていることが露呈したら、討伐対象になるかもしれない。

 目立ちすぎると、そういう危険がある。


 だから俺は、あかねや仲間、ついでにこの街を守れたらそれでいいのだ。


 直接、ダンジョンの攻略を手伝うのは、俺ではなくかなえさんにやってもらえばいい。


 これは昨日、あかねがダンジョンを攻略しているということを聞いて考えたことだ。

 攻略しないための言い訳ともいう。


「ただ、俺が攻略してもいいなら、お前を鍛える理由がなくなるぞ?」

「や、やっぱりダメ」


 うむ。

 けど、最終手段として全然アリだな。俺が攻略してしまうのは。


「話は終わりにして、そろそろ続きをしよう」

「ええ。次は何するの?」


 さっきので、かなえさんの大体の実力は把握できた。

 今度はその実力を伸ばす。


「実戦だ」


 俺はモンスターと戦う以外に、強くなる方法を知らん。

 何事もやってみるのが一番っていうからね。


「特殊な職業なら別かも知れないが、レベルを上げるには戦うのが一番だ」


 逆に、占い師が占いでレベル上がる方が驚いた。

 この分なら、鍛治師は鍛治すればレベルが上がるのだろう。

 

「お前は、剣士だったよな?」

「そうよ」


 なら、なにも問題ないな。

 素振りをしていた方がレベル上がるとかはあるまい。


「とりあえず、俺が丁度いい相手を探すからそれまで俺についてきてくれ」


 つまり昨日、コビンにやったことをもう一度やるのだ。

 

「コビン、ビニーも行くぞ」

「うん!」

「シャー」

 

 二人が暇になってしまうのが問題だな。

 いや、次からは離れていてもらう必要もないか。


 数匹いたゴブリンの群れを一体まで減らしてかなえさんに戦ってもらっている。

 今は、戦っている様子を後方で腕組みしながら見守り中だ。

 

 俺の予想通り、ゴブリン相手だと危なげないな。

 ここまで一人で来られるというのも納得だ。


 大事なことを聞いていなかったが、かなえさんって今レベルどれくらいなんだろう。

 この戦いが終わったら、ステータスについて聞こうじゃないか。

 人間のステータスを知る丁度いいチャンスだ。

 

「はっ! ふぅ……」

「良い感じだな」

 

 戦いは、かなえさんがゴブリンの首を斬り飛ばして終わった。

 

「ところで、今のレベルって何なんだ?」

「今ので上がっていなければ、レベルは8よ」


 当然のように答えてきたが、やっぱりステータスはあるんだな。

 

「8か」

「なによ。これでも相当頑張ったんだから」

「いや、いいんじゃないか?」


 ゴブリンだと、レベル8程度の人間に簡単に負けるんだな。

 やはり、ゴブリンは雑魚だというのか。

 

 マジで、ダンジョン攻略していてよかった。

 奥に進まないで外に出てたら、すぐ狩られてただろうな。


 それがここまで強くなったんだ。

 進化してきた甲斐がある。


「限界レベルは?」

「限界?」


 うん?

 ここで首を傾げられると思わなかった。

 どういうことだ?

 俺の言い方が悪かったか?


「レベルの上がる上限ってあるだろ?」


 俺の予想だと100ぐらいか?

 鬼人が100だからな。まさかゴブリンと同じ10ってこともないだろうし。

 

「ないわよ?」


 今度こそ本当に首を傾げながら、かなえさんは答えた。

 

「は!?」

「え、本当にないわよ? あなたはあるの?」


 かなえさんの困惑したような態度を見るに本当にないのだろう。

 まじ、か。当然のようにあると思っていた。

 開いた口がふさがないとはこのことである。

 衝撃の事実だ。


「ああ、俺にはあるぞ」

「そ、そうなんだ」

 

 ゴブリンのときなんて10が限界だった。

 そして、その限界レベルは進化して強くなるたびにどんどん増えていった。

 現状、最強になった鬼人でも100が限界だ。

 つまり、最強は人間……?


「なによ?」

「……それはないな」

「今、絶対馬鹿にしたでしょ!」


 だが、限界がないってことは、人間には進化が出来ないんじゃないか?

 永遠にレベルが上がり続けるのならそれも必要ないってこと?


 俺も、うかうかしていられないってことは確かである。

 レベルが上がり続ければ、人間の中にも俺よりも強い奴が出てくるかもしれない。もしかしたら、もういる可能性だってある。

 俺、鬼人から進化できなかったらやばいな。

 

 とりあえず、俺もレベル上げだけは頑張るか。

 

「参考までに、あかねのレベルって知ってるか?」

「あかねちゃんは確か……40ぐらいだったはずよ」

 

 レベル40で、8層か。

 どれぐらいの強さのモンスターがいるのか知らないから基準がわからないな。

 ただ、弱くはないだろう。


「他の攻略メンバーもそれぐらいなのか?」

「多分ね。あかねちゃんよりは低いはずだけど」

 

 なるほど。

 一度、そのダンジョンに行ってみないことには、どれぐらいの強さが必要なのかわからないが。


 ただ、かなえさんのこれからの道が長いことだけは確かである。

 こりゃ、一刻も早く強くなってもらわないといけないな。

 

「よし、次はオークに行こう」

「……え?」

「なにをポカンとしてるんだ?」

「お、オークなんて無理よ! 今までは全力で逃げていたんだから」


 かなえさんの実力もわかったし、問題ないと判断したんだが。

 勝てはしなくとも、ここには俺がいるのだ。

 心配しなくてもいいのにな。

 

「大丈夫だ。絶対に殺させはしない」

「頼もしい言葉なはずなのにすごい嫌……」

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