第二十四話 修行

 時間の指定をしていなかったことに気が付いたのは、朝に目を覚ましたときだった。

 死んでから人との待ち合わせなんてしてこなかったからな。

 場所さえ決めておけば大丈夫だと思ってた。

 

 いや、死ぬ前も待ち合わせなんて殆どして来なかったわ。

 あかねと遊ぶときは、家が隣だからそんな必要なかったからな。

 

 とりあえず、いつかは来るだろうし、適当にモンスターを倒して回っているときに約束通り、かなえさんはやってきた。


 襲い掛かってきた腕が4本ある猿のモンスターを踏み潰しながら応える。

 

「わるいな、時間の指定をしていなかった」

「あ、いえ、私も言うの忘れてたから。相変わらず、おかしい強さしてるわね」


 魔石の回収をして。

 よし、早速始めるか。


「さて、まず言わせてもらいたいことがある」

「な、なに?」


 これだけは最初に断っておかないといけないからな。


「俺はお前に技術的なことを教えることはできないし、そのつもりもない」

「……わかったわ」


 薄々、分かっていたのだろう。

 俺は進化を繰り返して強くなった。だから、生物として強いだけで、それ以外の技術的な部分はからっきしなのだ。

 俺がそこら辺のモンスターに負けないのは、ただ単に身体能力や筋力のごり押しでしかない。

 

 ハッキリ言って、師匠には向かない人材だと自分でも思う。

 これがあかね絡みじゃなければ、きっぱり断ったんだがな。


 あかねのためになる以上、俺は俺なりに頑張らせてもらおう。


「だから、俺はお前に俺が強くなったやり方をしてもらう」


 ゴクリと息を呑んだ音が聞こえた。


「普通なら危険なやり方だが、俺の役割はお前の安全を保障すること。お前は安心して強くなれ」

「ねえ、なんか優しくなった? 態度が柔らかくなったというか」


 まあ、俺にもその自覚はある。

 今までは、俺の正体があかねや家族に伝わらないように気を張っていたからな。

 あまり関わるつもりもなかったし。

 その心配がなくなった以上、無理に冷たくあしらわなくてもよくなったのだ。


 わざわざかなえさんには言わないがな。

 

「これからしばらく一緒にいるのにつんけんしてても仕方ないだろ」

「……それなら、私としても助かるわ」

 

 さて、早速モンスターと戦わせてもいいが。

 あまり実力が離れすぎていたら、修行にならない。


 俺とのパワーレベリングに慣れてしまっては、俺抜きでの戦いになったとき困るし、あかねの役にも立てない。

 だから、彼女には実戦を繰り返して強くなってもらう。

 

 そのためにも。

 

「武器は持ってきたか?」

「ええ、もちろん」

 

 腰に差していた剣を俺に見せてきた。

 ダンジョンの宝箱から出たっていう、昨日俺が返した剣だな。たしか、あかねからもらったんだっけ。


「よし、殺す気で俺に斬りかかってこい」

「え?」

「大丈夫だから安心してくれ」


 まずは、かなえさんの実力がどの程度なのか測らせてもらおう。

 その上で、丁度いい相手を俺が見繕う。


「……怪我してもしらないわよ。やあ!」


 振り下ろされる剣。

 それに、僅かに前に出て自ら当たりに行く。


 本来なら、俺を肩から腰にかけて袈裟斬りの軌道で振られていた剣。

 だが、直感で彼女は直前で止める気がしていた。

 ま、腐っても自分を助けた恩人でもあり、師匠的な存在である俺を斬れっていきなり言われても困るよな。


「な、なんで!?」

「大丈夫だってことを証明しよう思ってな」

「あっ!」


 俺の身体に直撃した彼女の剣は俺にかすり傷すらつけていなかった。


 まあ、これで大怪我してたらとんでもない笑いものである。

 怪我してもすぐに再生するから、それでも問題ないんだけどね。

 

 服も全く破けていない。

 この服、ダンジョン下層の宝箱で見つかっただけあって頑丈なんだよな。

 特殊効果とかはないけど。


 そこらの鎧よりは強いんじゃないか?

 

「さすがの強さね」


 安心したのか、彼女は笑っていた。

 これなら、今度は止めないだろう。

 

「よし、今度こそ全力でこい」

「そうさせてもらうわ!」


 首を狙って振るわれた剣を後ろに下がって避ける。

 当たっても無傷だが、それじゃ実力がわからないからな。


「はっ!」

 

 前世なら俺が敬語で話していたような相手の師匠になるなんて変な感じである。

 俺って年下だからな。

 彼女も、あかねと俺が同じ歳だとは思っているまい。


 というか、どういう存在だと思ってるんだろうな。

 それも気になるが、詮索するなっていう約束を守っているのか彼女は全く聞いてこない。こちらとしてもその方が助かる。


 あのとき助けたことがこんなことにつながるとはなぁ。


 因みに、コビンとビニーには離れてみてもらっている。

 二人が怪我したら危ないからな。


 しばらく、彼女の攻撃を避け続けた。


「よし、ここまでにするか」

「はぁ……はぁ……一撃も、当たらなかった」


 それでわかった彼女の実力は。


「ホブ、いやハイゴブリンぐらいか?」

「なんだかとても不名誉な例え方をされた気がするけど」


 ふむ。

 数人ならオークにも勝てるだろうって感じだ。


 前世の俺や、普通の人間と比べたら格段に強い。

 これが彼女の言っていた職業の力か。

 

「ところで、その恩人はダンジョンのどれぐらいまで攻略してるんだ?」


 それを聞いていなかった。

 

「そうね。ここら辺にはダンジョンが2つあるんだけどね」

「ほう?」


 2つ?

 その数に俺の出てきたダンジョンが含まれているのか、いないのか。


「そのうちの片方を全部で20層の、8層まで攻略したらしいわ」

「いや、待て待て。なんで攻略しきってないのに、何層のダンジョンかなんてわかるんだ?」


 全部で20層っていうのも気になるし。

 俺の疑問に対して、かなえさんは若干申し訳なさそうに答えた。


「それは、占い師っていう職業の人が占った結果らしいわ」

「………………それは、信じても大丈夫なのか?」


 俺、前世からそういうスピリチュアルなことは全く信じてないんだが。

 

「大丈夫よ! 怪しいのじゃなくて、ちゃんとした職業なの!」

「……そんな職業があるのか」


 鍛冶師は納得できたが、占い師か。


「それって、戦えないだろ? レベル上がらなくないか?」

「人を占えば、経験値が入ってレベルアップするらしいわ」

 

 ほへぇ。

 とりあえず、それで納得しておくか。


「もう片方は?」

「こっちが問題なのよね」

「問題?」

「あなたも見たことあると思うけど、大きく地割れした場所があるの。そこが、全部で100層な上に地割れした谷の底にあるから攻略が出来ないのよね」

「ああ、そこなら俺が攻略したから大丈夫だ」

「はあ!?」

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