第二十一話 コビンの力
太陽が空を登り始めた頃である。
俺たちは家を出発した。
俺は今日、約束を果たさないといけないのだ。
その為のモンスターを探している。
えーっと、真っ黒なオオカミくんだねぇ。
火の玉を飛ばしてくる魔法を使えるタイプのモンスターだ。
基本的に群れで行動するのはダンジョンと変わらないみたいだな。
君たちはダメ。
火の玉を避けずにかき消す。
ここら辺が火事になったら困るからな。
複数匹で同時に火の玉を出してくるから、普通なら厄介な相手だ。
残念ながら俺には効かないんだな、これが。
ふんどしの凄さを再認識しながら、順番に倒させてもらう。
お、ホブゴブリンだ!
君は……惜しいけどダメかなぁ。
非常に惜しいんだけどね。
えー、ハイオークくん昨日ぶりだね。
君はもう、絶対にダメ。
コビンの初戦に丁度よさそうなモンスターが現れるまでモンスターを倒していく。
約束というのは、コビンのことだ。
昨日はしばらく拗ねてたからな。
機嫌が治ってよかった。
「きょーはずっとこびんのばんね!」
「ああ、ずっとコビンの番だぞ」
★★★
かなえさんを結界の前まで送り届けた。
あー、疲れた。
隠し事があるせいか、話してただけなのにめっちゃ緊張したわ。
いやまあ、人間とこんなに話したのが前世以来だからなぁ。それもあるか。
コビンとは話しているが、彼女と話すときは小さい子と話してる気分だから緊張しないんだよな。
「コビン、もう出てきていいぞ」
しかし、まさか護衛まですることになるとは思っていなかった。
怖くないって言ってくれたのは……嬉しかったが、にしてもグイグイ来すぎじゃないかね。
図太いというか、図図しいというか。
よく正体のわからない俺に学校まで送らせようと思ったもんだ。
まあ、かなり面倒ではあったが、誰にも言わないって約束はしてもらった。
それが一番大事だ。
ん……?
コビンが出てこない。
「あれ、コビン? もう出てきていいぞ?」
「……すこしじゃなかった」
服の中から、くぐもった声が聞こえた。
やべ。
★★★
正直なところ、昨日はハプニングがあってビニーのレベル上げが途中になってしまっていたから、その続きをやりたくはあるのだが。
まあ、仕方あるまい。
コビンの力も気になるしな。
「お、あいつでどうだ?」
「どれどれ!?」
ゴブリン。
今の俺ならデコピンで倒せるやつだ。
「あれにする!」
「よし、俺が威圧するから、動けなくなったところになんかしてくれ」
「わかった!」
うむ、やる気まんまんだね。
生まれたばっかりのときは初めて見たオークに怖がっていたというのに。
俺、感慨深いよ。
「ませきちょーだい!」
「ほい」
相手もゴブリンなので、渡す魔石もゴブリンの物にしておいた。
コビンは魔石によって、不思議な力が発動できるらしい。
団子を出したりとかね。
彼女が言うには、戦いにも使えるらしいんだが、どうなることやら。
「うむううううう」
唸るのは必須らしい。
さて、彼女はいったい何を見せてくれるのか。
非常に見ものである。
「グギィ?」
コビンの唸り声でこちらに気付いたゴブリンがナイフ片手に向かってきた。
こいつら本当に好戦的だよな。
ある程度近づいたところで、威圧を発動する。
「グガァ!」
ゴブリンなら、これでしばらくは動けまい。
よし、これで俺の役目は終了だ。
さて、何を見せてくれるのか……はっ! ?
振り返って目を見開いた。
彼女の目の前にあったのは、巨大な光の玉。
「うむうううう!」
え、そんな事できたの?
てか、それって当たったらどうなるんだ?
「ふん!」
大きな光の玉は一直線にゴブリンの元まで飛んでいき――。
ボンッ!!
ゴブリンにあたった瞬間破裂し、爆発した。
うわ、ゴブリンの死体跡形もないぞ。
ま、魔石は残ってるんだけど。
「こびんつよい? つよい?」
「ああ、強いぞ」
「んへへ〜」
うん、可愛いね。
それどころじゃないけど。
ちょっと、強くないかい?
俺ってば強すぎて驚いてるよ?
「ゴブリンを一撃か……」
いや、今の威力ならオークやそれ以上の相手でも倒し切れるだろう。
それだけの破壊力があった。
「ごぶりんいちげきだよ! ごぶりんよわいね!」
「ぐはっ」
やめてくれ、コビン。
その攻撃は元ゴブリンの俺に効いてしまう。
「つぎいこ!」
コビンちゃん楽しくなっちゃってるらしい。
転生直後の俺よりも、コビンの方が強いことが証明されてしまった。
しかし、強かったなぁ。
使う魔石を変えたら、威力も変わるんだろうか。
ゴブリンの魔石であの威力なら、ハイオークなんかの魔石を使ったら物凄い攻撃力になりそうだ。
そっちの実験もしてみたいが。
「なあ、コビン他にはどんなものが出せるんだ?」
「えーっとねー、いろいろ!」
色々、かぁ。
「水とか火とか出せたら助かるんだが」
「だせるよ!」
「おおー!」
いつからコビンが団子製造機だと錯覚していた。
非常に有能ガールである。
コビンがいたらなんでも出来るな。
今までは家のガスとか止まってたから無理だったが、遂にカップラーメンをお湯ありで食べられる!
「コビン、やりたいことがあるんだが、手伝ってくれるか?」
「うん! てつだう!」
ふっふっふ。
良い子だ。
もっと早くコビンの力を見せて貰えばよかった。
正直なめてたね。
やかんは家にあるのを使うとして、薪はゴブリンたちの棍棒でいいか。
ダンジョンで大量に手に入れていたからな。
場所は庭でいいだろう。
久しぶりにまともにカップラーメンが食べられる。
「?」
背後から、何かが近づいてくる気配を感じた。
「やっと、会えた。やっぱりここら辺にいたのね」
「は?」
お疲れなご様子のかなえさんだった。
完全に予想外である。
昨日の今日でまた会うことになるなんて思わないだろ。
なんでここに?
「さっきすごい爆発音が聞こえたから、ここにいると思ったのよ」
「そうだったのか」
いや、そうじゃない。
受け入れたらダメだ。
「なんで来たんだ?」
というか、どうやって?
1人じゃ来れないって言ってなかったか?
他に仲間はいないみたい、というか見当たらない。
「学校に来てほしいとかならお断りだぞ。そもそも入れないからな」
「いえ、そうじゃなくて」
違うのか。
「それで、あの」
ん?
言い淀んでいる。
「お礼が……したいの」
「……おれい?」
おれい……お礼か。
「昨日は助けてくれて、本当にありがとう」
「あ、ああ。いや、気にするな」
まさか律儀にお礼を言いにくるとはな。
「それで、そちらの女の子はお仲間なの?」
「あ」
コビンだ。
昨日は隠れてもらっていたのに、突然すぎて隠れてもらう暇がなかった。
「むううう!!」
あ、コビンちゃんオコです。
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