第十七話 コンビニー


「お前、本当についてくるのか?」


 いや、団子あげたけど。

 この子めっちゃ指にスリスリしてくるけども。

 俺から言ったことではあるけども!

 

 こいつモンスターだし、実際。半信半疑といいますか。8割ぐらい疑といいますか。

 まあ、俺もモンスターなんだけどさ。

 俺ってば、お前の親を殺したんだぞ?


「なまえつけてあげないとね!」

 

 新たに仲間になった、可能性がある子蛇を前にコビンが張り切っていた。

 ウキウキのコビンちゃんである。

 妖精的にモンスターが仲間になってもオーケーなんだろうか。

 全く気にしてなさそうだけど。

 

 名前、名前か。


「とりあえず、おいで」

 

 手のひらに乗ってきてもらう。

 蛇って怖いイメージあったが、近くで見ると可愛いな。

 手のり蛇である。

 まあ、すぐに大きくなっちゃうんだろうけど。


「よしよし、かわいいやつめ」


 頭を指で撫でると、嬉しそうにすりすりしてくる。

 ぐ、愛着が。

 疑が6割ぐらいまで下がってしまう。

 蛇ってこんな生き物だったっけ?

 違うよね?


 いや、その前に。

 なんでこいつは、攻撃的じゃないんだ?

 忘れそうになったが、この蛇はモンスターだ。

 俺が今まで出会ったモンスターは、全員視界に入った奴は殺す、みたいな感じだったのに。


 もしかして、地上で生まれた個体だからか?

 それとも、コビンがつくった妖精団子を食べたから?


 まあ、子供のうちだけ大人しいという可能性もある。

 普通の動物でも子供の間は人懐っこいけど、大人になったら凶暴化するのもいるらしいからな。

 

「大きくなっても人間を傷つけちゃだめだからな?」

「シャ~」

 

 頷いてますけども。

 こいつ、俺の言ってること理解してるのだろうか。


 しかしながら仲間になるなれば、名前は必要だよなぁ。

 コビンちゃんも期待した目で見てきてるし。

 

「俺がつけていいよな?」

「うん!」

「シュ~」

 

 二人とも異論はないらしい。

 

 コビンのときは直感でつけたしなぁ。

 まさか、一日で2回も命名することになるとは。

 

 あー、自分の直感を信じろー。

 俺は直感には自信があるんだ。スキルで持ってるし。

 

「そうだな、お前は今日からビニーだ」


 コンビニ生まれだからね。こんビニーである。

 我ながら、これでいいのだろうか。

 

「よろしくな、ビニー」

「シャ~」

 

 うお、腕に巻き付いてきた。

 気に入らないから絞め殺すとかないよな?

 

「いいなまえ! ビニーもよろこんでる」

「それならいいけど」


 コビンちゃんわかるの?

 適当言ってないかい?

 まあ、嫌がってる素振りはなさげである。


「そういや、2人にステータスってあるの?」

「んむぅ?」

「?」

「あー、オッケー」

 

 2人ともステータスを知らないらしい。

 まあ、俺はもともと日本で暮らしていて、ゲームに馴染み深い生活してたからすんなり理解できたけど。

 普通なら、そうはいかないだろうな。


 2人に関しては生まれたばっかりだし。


「なんだろ、自分が何出来るかっていうの、わかる?」


 口下手で申し訳ない。

 くそ、こういうとき、俺にも鑑定スキルがあればこんな事しなくても一目で2人に何が出来るのかわかったのに。

 生憎、そんな便利スキル持ち合わせていないのでな。


「うーん、わかんないけど、たくさんできるとおもう!」

 

 自信満々の回答である。

 いや、コビンなら本当に色々出来そうだけどさ。


 細かいことは不明、と。

 まあ、一緒にいれば、今回の団子みたいにわかってくるか。

 今後に期待ですなぁ。


 次がビニーだ。

 この子の親はあの大蛇だし、ポテンシャルは半端ないはず。

 気になるのは蛇らしく脱皮して成長するのか、モンスターらしくレベルアップで成長するのか。どっちなんだろう。


 ま、それよりも何が出来るか、だが。


 俺の腕から離れ、チラチラとこちらを見ている。

 はて、何かやってくれるのだろうか。


 とりあえず、頷いておく。


 俺の頷きを見てなのか、ビニーはそのまま何かをググッと溜める動作をした。

 この動きはあれか?


「おっ」


ピシャッ


 ビニーが地面に液体を吐き出した。

 それが当たると、コンビニの床のタイルが溶けた。


「おー、すごいな」

「シャー」

 

 なるほど。

 親と同じ毒はちゃんと持ってるのね。

 だいぶ強そうだ。


 これだけ強力な毒を持っているなら。小さくても他のモンスターには負けないだろう。ゴブリンぐらいなら普通に倒せそうだ。


「そういえば、ビニーって兄弟はいるのか? いるなら呼んできてほしいんだけど」


 蛇って一度にたくさんの卵を産むって聞いたことあるんだが。

 この際、一緒に仲間にしてしまっても良いだろう。

 ここにいるなら、大蛇さんが守っていた子供であることに変わりはないし。


 他の子もビニーみたいに良い子なら、だけどな。


「シュルル〜」


 ありゃ、首振ってるってことは兄弟はいないってこ……ん?


 俺の腕から降りたビニーが店の中を進んで行き、振り返った。

 着いてこいってことか?

 

 行きますけど。


 そして、ビニーと初めに出会った棚の下まで案内された。


「そこがどうかしたのか?」


 棚の下から顔を出して見上げてくるので、屈んで棚の下を見てみる。


「これは……」

 

 これは、蛇の卵? だろうか。

 爬虫類の卵なんて詳しくないが、恐らく合っているはず。

 

 ええっと。

 卵の数は9つだが。


「ビニーは末っ子だったわけか」


 卵はすべて孵化していて、ビニー以外の蛇はみんな巣立った後だったようだ。

 いるにはいるが、ここにはいないってことね。


「教えてくれてありがとうな?」

「シュルル〜」


 撫でると嬉しそうにすりすりしてくる。


 まあ、ビニーの兄弟も仲間にできそうならしてみるか。大蛇が守ってた卵ではあるわけだし。

 他のモンスターも襲ってこなければ、一考の余地ありだ。

 

 ただ、このビニーが明らかにイレギュラーだからな。

 他のモンスターは望み薄そうである。



 ビニーも仲間になったしこのまま旅立ち……。


「ごはんはー?」


 うん、コンビニ漁りが途中だったな。

 ビニーがいたから、手が止まっていたのだ。別に忘れてたわけじゃないんだからね!


 豊富なカップラーメンの種類にホクホクしつつ、回収していく。

 あの大蛇いつからこのコンビニにいたんだろうか。


 商品の数的に結構長い間、ここにいたらしい。


 ありがたく回収させてもらおう。

 アイテムボックスって触れなくても回収出来るから便利だよな。


 数分でコンビニはもぬけの殻になった。


「よし、次の場所に行こうと思う」

 

 その前に、改めて確認しないとな。


「ビニー、最後の確認だ。人間を襲わないと約束するなら、お前を見逃してもいい。どこに行くのも自由だ」

「やまと……」


 まだ出会って数分しか経っていない。

 しかし、この少しの間でビニーは人間を襲わないんじゃないかと、思い始めてる。

 強力な毒を吐くモンスターだが。

 言葉だって通じているし。

 ビニーなら、他のモンスターのように殺戮マシーンのようにはならないだろう。


「ただ、俺と一緒に来てくれるなら、俺の手に乗って――」


 言い切る前にものすごい勢いで乗ってきた。

 来てくれないんじゃないかとドキドキしてたから、内心かなりホッとした。


「ありがとうな」

「シュー」


 こいつのことを気に入ったからこそ、脅してではなく、こいつ自身の意志で仲間になってほしかったのだ。

 そしてビニーは自分の意思で来てくれた。

 それが嬉しい。


「これからいっしょにがんばろうね!」


 うむ、コビンも嬉しそうである。


 食料回収も済んだし、このコンビニにもう用はないな。

 次の目的地に行こうじゃないか。

 

 いよいよ次に目指すのは、学校だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る