第十六話 妖精団子

 2件目のコンビニも物色したが、1件目とあまり変わらなかった。


 「この分だと、どのコンビニも似たようなもんだろうな」


 状況は芳しくない。

 アイテムボックスの中は見捨てられた激辛ラーメンばかりだし。

 大人の本は、数年前に撤去されてなくなったし。


 何か解決策を練らないと。


「どうしたの?」

 

 俺もコビンみたいに魔石から食事出来ればいいんだけどな。

 いや、そうか。


 幸い魔石はたくさんあるのだから試してみればいいのだ。

 やり方さえわかれば、俺にだって出来る可能性があるはず。

 

 アイテムボックスから魔石を1つ取り出した。


「なあ、コビン。魔石ってどうやって食べるんだ?」

「ませきってそのおいしいやつ? うーん、ぎゅーってするの」


 ぎゅー?

 とりあえず握ってみた。

 変化なしである。


「無理なのか?」

「うーんとね、たべるーってかんじ?」


 たべるー?

 えー、食べる食べる食べるー!


 握りながら念じてみたものの、変化なしだ。

 なんだか、とても間抜けなことをしているような気分になってくる。

 ぐぅ、無理なのか?


「だいじょーぶ?」

「いや、食べ物どうしようと思ってな」

「ませき、だめ?」

「うん。だめっぽい」


 このままじゃ、ずっと激辛袋ラーメンをお湯無しでバリバリ食べることになる。

 まあ、それもいいけど。

 いつかは枯渇するだろうしな。


 その前に魔物狩り尽くせば、街の復興もできるかも知れないけど。

 それはちょっと夢見すぎか。

 

「ちょっとまってて」

「うん?」


 コビンの方を見ると、何やら唸っていた。


「うううー」

「こ、コビン?」

「ううううううぅ!」


 どうしたっていうんだ。


ポンッ


 うぇ?

 コビンの目の前に泥団子みたいなのが出てきたんだが。

 何が起こったんだ?

 

「はい、やまと! たべて!」


 そして、何かをやり切ったような笑顔で俺に手渡してきた。

 え、これ食べて大丈夫なやつ?

 見た目完全に泥団子なんだけど。


「え、えー?」

「やまと、たべてくれないのぉ?」


 そんな泣きそうな顔されても。

 

「ううー」

「あー、食べるよー」


 仕方ない。

 少し齧って、ダメそうならバレないようにアイテムボックスに仕舞おう。

 このままじゃ泣かれてしまう。


 よし、漢を見せろ俺!

 覚悟を決めるんだ。最悪あむあむしておけば大丈夫!

 やまと、いきまーす!


「……あれ?」

 

 甘い。

 な、なんだ、これ。


「あっ」


 気付いたら全部食べてしまっていた。

 普通に食べられた。むしろ滅茶苦茶美味しかった。


 不思議と、今のお団子1つでだいぶ空腹感が薄れている。

 

「おいしかった? おいしかった?」

「ああ、すごいおいしかった」

 

 お団子1つしか食べてないよな?

 どうなってるんだ?


 空になった右手から目が離せない。


「んふー」


 満足そうな顔で腕を組んでるコビン。

 まさか、コビンにこんなことが出来たとは。

 妖精の不思議パワーなのか?


「これ、何回も作れるのか」

「えっとね、ませき? があればつくれるよ!」

「魔石ってこれか?」


 先ほど食べ損ねた魔石を見せる。


「うん!」

「これでもう1回作れるか?」

「いいよっ!」


 魔石から魔力を吸ったコビンが、また唸りだすと先ほどと同じような泥団子が出てきた。


「はい、どーぞ!」


 いかん。

 妖精に養われてしまう。

 

 うむ、美味い。

 お腹の中で膨らむのか、2つも食べればお腹いっぱいになってしまうというコスパの良さ。

 

 作るのに魔石が必要だという話だが、ダンジョンで稼ぎまくった貯蓄が沢山ある。


「コビン、魔石は俺が用意する。これからも俺に団子をつくってくれるか?」

「つくるー!」

 

 食料問題解決の糸口が見えてきた。

 ずっと頼るわけにはいかないだろうが、しばらくはコビンの団子でなんとかなりそうだ。

 

「ありがとう、助かるよ」

「えへへ」


 非常事態だというのに和んでしまった。

 

「よし、次のコンビニ行こうか」

「うん!」

 

 それはそれとしてコンビニ巡りはする。

 家の近所最後のコンビニに行くぞ。


 

 歩いて数分。

 目的のコンビニに着いた。

 それはいいんだが。

 

「こんなのもいるのかよ」

「でかいよぉ」

 

 ギザギザした鱗に覆われた巨大な蛇。

 さすがのコビンもこれはこわいらしい。


「シャーッ」


 街中にいていいサイズじゃないぞ。

 人間なんて一飲みだろう。

 そんな奴がとぐろを巻いてコンビニを完全に覆っていた。他にも建物はあるのになんでコンビニなんだよ!

 

 ダンジョンの中でこいつと戦ったときは、俺もデカかったからな。

 今は余計に大きく見える。


 のんびり見ていたら、久しぶりに直感が発動した。

 コビンを右手に抱えて後ろに跳ぶ。

 

「おっと」


 そういえばこいつ、こういうことしてくるんだった。

 

ジュワッ


 地面が溶けてます。

 何度見ても、ゾッとする毒を出してきやがる。

 これで溶けるのが服だけなら大歓迎なんだが。


「シャー」


 服と一緒に身体も溶けるな。

 

 俺に関しては身体は大丈夫でも、一発浴びたら服がダメになってしまいそう。

 まじでファンタジーな世界になっちゃったんだな、地球。


 連続で吐き出される毒攻撃を躱していく。

 鬼人になって上がった動体視力と、直感が合わされば避けるのも余裕だな。


 けど、なんだろうか。

 妙だ。


 ダンジョンにいたこいつに似たモンスターは、もっと体当たりや尻尾による殴打が中心の敵だったと思っていたんだが。


 そこら辺は個体差でもあるのだろうか。


 ま、気になることはあるが。

 このままじゃコンビニに入れないから、倒させてもらうか。

 大蛇に向かって跳んだ。

 

 そのまま体を回転させ、蛇の頭をかかとで叩き割る。

 よし。

 

 着地する頃には、大蛇が消えて魔石と牙だけが残っていた。

 楽勝楽勝。


 そろそろレベルも上がってないかなぁ。

 雑魚ばかりとはいえ、地上にでてきてから結構倒してるんだけど。

 

「ぷはー、あれ? あのでかいのは?」


 コビンが手の中から這い出してきた。

 キョロキョロして周りを見ている。

 ああ、途中からずっと俺の手の中にいたから見えてなかったのか。

 

「たおしたの?」

「ああ、これでコンビニ入れるぞ」

「んへへ」


 嬉しそうに笑うね、ちみ。

 コンビニに入れるのがそんなに嬉しいか。


 俺も嬉しいけど。

 あんまり期待はしてないんだよなぁ。

 

「うお!」

「どうしたの!?」


 このコンビニ。

 荒らされてはいるが、結構な商品が残っている!

 恐らく、大蛇がいたせいで中に入れなかったのだろう。

 ありがてぇ。


 結構長い間いたのかもな、あの蛇。

 さてさてー、全部頂こうかなー。


「ねえ、やまと。こどもかな?」

「んー?」


 言われて、物色をやめてコビンの見ているものに気づいた。


「シャーッ」

「っ!」

 

 聞こえた鳴き声。

 コンビニの棚の下から、小さな蛇がこちらを威嚇するように見ていた。

 

 がら的にあの蛇の子供か?

 モンスターの子供なんてみたことないぞ。

 少なくとも、ダンジョンにはいなかった。


 だが、あの模様と大蛇の行動を見る限りそうなのだろう。

 あの蛇、この子を守ってたのかも知れない。


「あー、くそ!」


 非常にやり辛い。

 ここで殺しておかないと、こいつが大きくなったときに大勢を殺すだろう。

 見逃すわけにはいかない。


「倒しちゃうの?」

「おいおい、そんなこと聞かないでくれよぉ」


 あいつも子どもを思う親だったのかも知れない。

 家族を想っているのは同じなのだ。


「なあ、コビンあれをくれ。小さいの」

「うん! いいよ!」


 コビンがくれた物を片手に子蛇へと近づく。

 しかし本当に小さいな。

 これが果たしてあんなに大きくなるのかね。

 

「シャーッ」

「これ食べるか?」


 コビンがくれた団子を子蛇の前に置く。

 食べるだろうか。

 蛇が団子を食べるなんて聞いたことないが、これは妖精が作った物だし、こいつは魔物だ。


「おっ」

 

 しばらく観察していたが、危険はないと思ったらしい。食べてくれた。

 

「美味いだろ、子蛇さんよ」

 

 せめて、これで俺に攻撃するつもりがないと分かってもらえると良いんだが。

 いつまでも見ているわけにもいかない。

 さて、選択の時だ。


「俺についてくるなら、殺さない。噛み付くなら殺す。選べ」


 指を差し出す。

 

 こんなの俺の自己満足だ。

 出来れば殺したくはない。

 不本意かもしれないが、これはコンビニの食料を守ってくれたあの大蛇へのお礼だ。


 言葉も通じているのか分からない。

 あの大蛇が必死にこの子を守っていたから。

 魔物にも子供がいるのだと知って。


 いや、理由なんて関係ないな。

 

「シュー」


 子蛇は、俺の指の上に頭を置いて鳴いた。

 名付けて、きび団子作戦は成功したらしい。

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