第十三話 進化!

 こんな場所にダンジョンがあったら、そりゃ冒険者的なのも来られないだろうな。

 見つかってすらいないんじゃないか?

 

 ふむ上がどうなってるのか気になるな。

 谷底から見上げても何もわからない。頼むから人里離れた森とかであってくれ。


 早速、この崖を登りたいところだが、その前に。

 巫女服少女にステータス確認してみてって言われてたな。

 確認せねば。

 夢だったのかどうかは、これでわかるはずだ。

 

──────

『ヤマト』

種族:ハイオーガ

レベル:80/80 ☆★

職業:

スキル:暗視 治癒 アイテムボックス 直感 絶倫 嗅覚強化 怪力 頑強 剛力 再生 威圧 狂化 剛腕 炎熱無効

    ???の加護

──────


「!?」


 変わっているのが2箇所ある。


 1つは、レベルの項目が点滅してること。


 そして、2つ目だ。

 ???の加護……?

 見覚えのなさすぎるスキル。果たしてこれはスキルなのか? 加護だし。

 伏せ字になっていて読めない、が。

 これが、彼女の言っていたプレゼントで間違いないはずだ。

 

 謎の多い少女だったが、わかったことがある。

 

 少なくとも、あの巫女服美少女は加護とか授けられる系の女子だったわけか。

 どおりで。

 自然と敬語になっちゃうと思ってたんだよな。


 結局、彼女については分からない事の方が多い。

 少なくとも、彼女に出会ったのは夢じゃなかったってことだ。


 加護ってどんな効果があるのかね。

 わからないが、プレゼントっていうぐらいだし悪い効果ではないだろう。


 1つ確かなことは。


──────

レベルが最大です。進化しますか?

──────

 

 進化ができるようになってる。

 

 うおおおおお!!!

 ありがとおおおおおお!!!


 両腕を上げて巫女服少女に喝采を送っているふんどしの鬼がいる。俺だ。

 まさか、ここまでのものをプレゼントしてくれるとは。


 彼女には頭が上がらない。

 一度助けてくれただけじゃなく、進化まで。


 全、俺が歓喜している。

 ハイオーガで一生を終えると思っていたところに救いの手だ。

 嬉しくないわけがない。


 更なる化け物になる可能性もあるが、このまま成長できずに終わるよりもずっとマシである。

 正直、化け物なのは今と変わらないし。


 これから異世界での旅が始まるんだ。

 心機一転、新しい俺で頑張ろう。

 進化、しようじゃないか。

 

 決めた瞬間、進化が始まった。


「グ……!」


 身体が燃えるように熱い。

 このまま身体が蒸発して消えてしまうんじゃないかって感じまでする。

 

 身体が根本から作り替わっていく。

 なんだ、これ。

 今までの進化とは比べ物にならない。


「グガアアアァァああぁ……」

 

 しばらくして、身体の変化がおわった。


「はぁ……はぁ……っ!?」


 自分の身体を見て気が付いた。

 丸太のように太く人外の筋肉を宿していた腕が、まるで人間だったときのような細さになっていた。

 いや、腕だけではなく、身体全体がハイオーガから進化したとは思えない成りになっている。

 

 どんな化け物になるのかと思っていたが、これは……。


 それに、目線もだいぶ低くなったような気がする。


「これどうなってッ!?」


 今までずっと、求めていたものを手に入れてしまった。

 そう、ゴブリンなったときから、ずっと。


「喋れるようになったぞおおおおおおおおおおお!!!!」


 言葉を喋るから人は、他の動物の一歩先をいけたってどこかの誰かが言っていた気がする。

 

 俺もようやく、言葉を取り戻したのである。

 これを喜ばずにはいられない!

 


「さてさて、あたらめてどうなったんだろうかねぇ、俺の身体くんは!」


 うん、無駄にしゃべってしまう。


 身体は見た感じ、完全に人間のものになっていると言っていいだろう。

 前世の俺よりはガッシリしてるけどな。


「身長もだいぶ低く、いや人間だったときぐらいに戻ったのか」


 かなり人間に近づいた。

 化け物卒業である。進化して小さくなるなんて初めてだから新鮮だな。


 ただ、完全に人間に戻ったわけではないらしい。


 身体の節々に鬼らしさは残っている。

 真っ黒な爪だったりとか、立派な角だったりとか。



 しかし、まさかここまで人間に近づけるなんて思ってもみなかった。


「これなら異世界で一人寂しく過ごさないでも済むんじゃないか?」

 

 ここまで人間に近づいたんだ。

 一目見て敵対されるなんてことはないだろう。

 

 それに身体は小さくなったが、力は今まで以上だ。


 この体なら、ドラゴンとの闘いももっと楽に勝てた気がする。

 ああ、早く戦ってみたい。

 ただ立っているだけで身体に力が溢れてくる。

 

「そうだ、ステータス!」


──────

『ヤマト』

種族:鬼人

レベル:1/100

職業:

スキル:暗視 治癒 アイテムボックス 直感 絶倫 嗅覚強化 怪力 頑強 剛力 再生 威圧 狂化 剛腕 炎熱無効

    ???の加護 戦鬼化

──────


 増えたスキルは、戦鬼化のみ。

 どんな効果があるのかは使ってみればわかるだろうが、狂化みたいにデメリットがあるスキルだったら困るからな。

 狂化って戦闘が終わるまで、もしくは行動が出来なくなるまで理性を失うもんなぁ。強いとはいえ、よく使ってたよ、俺。

 

 鬼人のスキルが弱いってことはなさそうだし、丁度よさそうな敵が現れたら使おう。

 名前からして強そうなスキルだし。

 

 そんで限界レベルが大台の100に到達した。

 ゴブリンだったときが10だったことを考えればかなりの成長である。


 またレベル上げの日々が始まるのか。

 なんだかワクワクしてきた。


 しかし、鬼人は進化できるんだろうか。

 疑問、というか不安である。

 ハイオーガ以上に強くなったんだ。ハイオーガで無理だったんだから、鬼人ならレベル限界まで上げても進化できないのも普通にありえそうである。


 また今回みたいな奇跡は、そう何度も起こることじゃないし。

 あまり期待はしないでおこうかな。


 それでもレベルは上げるけどね。

 

「あと、小瓶がどうたら言ってたな」


 

 アイテムボックスから出して見てみるか。


 取り出したいアイテムが手の上に出てくるから便利よねぇ。

 コルクみたいなので栓がされたガラスの小瓶。


「綺麗だなぁ」

 

 中で光の玉が浮いている。

 どこかのお土産で買うマリモみたいな感じだ。


 悪い物じゃないだろうけど、すぐに使えって言ったってどうすればいいんだ?


「これ開ければいいのか?」

 

 キュポっと音がして、蓋が開く。


「開いた、けどなにも……お?」


 光の玉が小瓶の中から浮いて出てきた。

 生きてるのだろうか。

 そして、そのままフワフワ降りてきて俺の手のひらに着陸した。

 

 光の玉は、徐々に蝶の羽が生えた小人に変化した。

 

「うわっ!?」


 これは……妖精?

 絵本に出てくるような妖精のイメージそのままの少女が、俺の手の上で寝ている。

 いや、可愛いけど。


 どうすればいいんだ。

 もぞもぞと動きだした。起きるのかな。


 目を覚ましたらしい。


「うぅ……ぴゃっ!」


 俺に気付いて小さい悲鳴を上げて、俺にお尻を向けて顔を隠してしまった。

 頭隠して尻隠さずしてるんだが。

 そこで隠れられても俺の手のひらの上なんだよなぁ。

 そのままの意味で。


「えーっと、妖精さん?」

「たべないでぇ……」

「いや、食べないよ」


 なんだと思われてるんだ俺。

 角が生えてるだけで人間に戻ったと思ったんだが。

 かなりの強面になってる?


 妖精は、恐る恐るといった様子で振り返った。

 俺の手のひらの上で。


「たべない?」

「おう」


 涙目になってるの滅茶苦茶可愛いな。

 普通に言葉は喋れるらしい。よかった。


「あなたは、だあれ?」


 悪いが、まっくろくろすけじゃないぞ。

 

「俺はヤマトだ」

「やまと?」


 宅急便じゃないぞ。


「君は、名前はなんていうの?」

「なまえ?」


 首を傾げられた。

 もしかして、ないのか?

 それもあり得るといえばあり得るか。

 今、生まれたみたいな感じだからな。


「わかんない」

「そうか……」


 だが、このまま名前がないってのも不便だしな。


「俺が名前つけてもいいか?」

「いいの?」

「ん? ああ、もちろん」

 

 けど、何にしよ。

 こういうのは、直感でつけるのがいいっておばあちゃんが言ってた。


「よし、そうだな。君は今日からコビンだ」

「こびん?」


 小瓶から出てきたからってことは黙っておこう。

 由来はあれだが、可愛くていい名前じゃない?

 

「どうかな?」

「すごい、うれしい!」

「おお、俺も喜んでもらえてうれしいよ」

 

 俺に異世界初の仲間ができたってわけだ。

 幸先、いいね。

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