第十二話 ダンジョン脱出

 目が覚めたら、全然知らない場所にいた。

 あれ、俺なんで寝てたんだ? というか、ここどこ?


 右見ても、左見ても、上を見ても一面真っ白の不思議空間。

 地面がないのに、浮いているわけじゃない。

 周囲を見回しても何もない。


 記憶が確かなら、100層のボスを倒してから奥に進んで、最奥にあったダンジョンコアを殴った……あたりで気絶したな。


 あっれー。

 俺もしかして、死んだ?

 あのコア破壊したらダメなやつだった?


 いや、けど以前に死んだときはこんな空間来なかったしな。

 目覚めたらゴブリンになってたし。

 

「ああ、わかった。これ夢だ」

 

 喋れてるし。

 久しぶりに喋ったわ。

 身体も前世の人間だったときの物になっている。

 完全に夢だな。


「夢じゃないよ」

「うぇっ!?」


 うんうん頷いてたら背後から急に声を掛けられ、慌てて振り返る。

 巫女服的なのを着た黒髪ボブヘアーの女の子がいた。

 

「だ、誰!?」


 何故に巫女服少女が?

 俺の夢なのに、俺の知らない人がいるんですが!


「誰かと言われると、うーん」


 見知らぬ美少女さんは、腕組みして悩んでいる。

 あれ、この声って。

 

「もしかして、あのとき助けてくれた人ですか?」

「あっ、よかった。覚えていてくれたんだね」

「あ、はい。その節はありがとうございました」

「ああ、いえいえ」


 お互いにペコペコしてる不思議な空間が出来上がってしまった。


 10層のボスを倒した後。

 俺を操ろうとしていた声があのコア。そして、コアの声から助けてくれたのがこの人ってわけだ。


 まさか、こんな美少女だったとは。

 あれ、この子が誰なのか解決してなくね?


「え、そういえばさっき、なんて言いました?」

「さっき?」

「ああ、最初に」

「夢じゃないよって言ったよ」


 そうそう夢じゃないって……夢じゃない?


「え、ということは死んだ、ってこと?」

 

 ってこと?

 うわあ、マジか。

 ゾッとした。

 

 やらかしどころの騒ぎではない。


 コアなんて無視して外に行けばよかった。

 そしたら、俺の楽しい異世界生活が始まったのに。

 いや、オーガだったから楽しめたかわからないけども。

 

「いーや、死んでもないよ?」

「あ、ならよかったです」

 

 いや、それならここは何処?

 

「……まだね」

 

 ん?

 今、物凄い小声で聞き捨てならないこと言った気がするんだけど、この子。


「ここは君の精神世界。私がここにお邪魔してるの」

「な、なるほど?」


 それは夢とどう違うんだ?

 いや、変なことは突っ込まないでおこう。現状変な事だらけだしな。


「それで、チャンスが今しかないんだ」

「チャンス、ですか?」


 一体、なんのチャンスなんだろうか。

 よくわからない。

 それにこの子は誰なんだ?

 俺の精神世界にお邪魔出来るって普通じゃないだろ。


 これが夢じゃないなら。

 

「君にプレゼントを渡しに来たの」


 ほう。

 プレゼントとな。

 精神世界で物の受け渡しって出来るのか?

 目覚めたらポケットの中に何か入ってたりするのかね。

 いや、今の俺ふんどしだったわ。ポケットとかないわ。


「ちゅっ」


 は!?


「目が覚めたら、ステータス確認してみてね」

「……は、はい」


 え、今。

 き、ききキスされなかった?

 これがプレゼント?

 

「あとね、すぐにダンジョンは脱出した方がいいよ。崩れるからね」

「えっ。それは、一大事ですね」

「ダッシュだよ!」

「はい……」

 

 そ、それよりもキス……。


「あ、それとそれと。小瓶は早く使った方がいいよ」

「小瓶?」


 ああ、最後のボス部屋の宝箱で手に入ったやつか。

 

 

「それじゃ、またね!」

「あっ、ちょ!」


 ぐ、意識が……。



 

★★★



 「グガッ!?」


 飛び起きて辺りを見回す。

 先ほど意識を失ったダンジョンの最奥だった。

 今のは、夢? だったのだろうか。


 身体はハイオーガのままだ。

 プレゼントってなんだったんだろう。


 いや、それよりも。

 ダンジョンを脱出だっけ、した方がいいよな。

 今のがただの夢だったとしても、ここではもうすることがない。

 それにダンジョンのコアを破壊したんだ。

 ダンジョンが崩れても不思議ではない。

 

 安全をとるなら、ダッシュだ。

 よし、走るか。

 

 うおおおおおおおおおおおおおっ!!!


 ダンジョンの中を赤いふんどしつけた鬼が爆走している。俺だ。

 一気に階層を駆け上がっていく。

 

 走っていて気付いたが、モンスターが全くいない。どうなってるんだ?

 コアを破壊した影響か?

 戦闘にならなくて楽でいいけど。


 色々と思い出がよみがえってくるなぁ。

 ここらへんでオーガに進化したんだったよなぁ。

 オーガになって、めっちゃ力強くなってビビった。

 

 ああ、豚に、オークに進化したのはこの辺りだったかな。

 早くオーク卒業したくてレベルあげまくって、進化したらハイオークだったとき笑ったなー、はは。


 そんでもって、走っている途中に気付いたことがある。

 走りながら自分でも久しぶりの感覚に戸惑ってるんだが、お腹が空いてきた。

 今まで睡眠欲はおろかゴブリンやオークの代名詞である性欲すらなかったというのに。

 

 急になんでだろうか。

 これもコアを破壊したから?

 それとも、これが巫女服少女のプレゼントだったのか?

 欲求のプレゼント?


 美味しい物いっぱいお食べってことかしら。

 きっとそうだ。

 ああ、意識したら余計お腹空いてきやがった。

 地上に出たら異世界のグルメを大量に食べつくしてやるぜ。


 そういえば、ダンジョンの外ってどんな感じになってるんだろうか。

 全く考えていなかった。

 ダンジョン都市みたいな街のど真ん中はやめてくれよ?

 即討伐されちゃう。


 けど、ダンジョンの中で人に出会ったことないな。

 ダンジョンを攻略する仕事の人がいるなら、ダンジョンの中で人に遭遇してもおかしくない。

 ってことは、人里に近い場所じゃないんだろうな。


 辺境の忘れ去られたダンジョン的な。

 まあ、それぐらいの方が人に会わなくて気楽でいいか。


 何時間ぐらい走り続けただろう。


 そろそろ、俺がゴブリンとして目覚めた場所に着く。

 だが、正直ここから先は未知だ。

 真っ直ぐダンジョンの奥に進んだからな。


 本当にここが1層目なのかすら怪しい。


 いや、あってたみたいだ。

 日の光が見えてきた。


 暗視の力で明るく見えるのではない。

 本当の太陽の光だ。


 うおお、いよいよ久しぶりの外に出られる!

 二度とダンジョンなんか入らねえからな!


「グガアアアアアアア!!!」


 ダンジョン脱出だあああああ!!!

 

 って、あれ?

 

 ここ、渓谷か?

 どうやら俺がさっきまでいたダンジョンは谷の底にあったらしい。

 この崖を登らないと、完全に外に出られたとは言えないってわけだな。


「グガッ!?」


 背後で俺の出てきた洞窟、ダンジョンの入り口が崩れた。

 あぶな。

 結構ギリギリだったんだな。


 けど、無事にダンジョンは脱出できた。

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