第十一話 ダンジョンコア

「ガァ……ガァ……」


 白竜さん強すぎ。

 全力で殴ってるのにどれだけ耐えるんだよ。

 生命力高すぎんだろ。


 最後の方は、理性を失う代わりに力が上がる狂化まで使って、殴り続けて仕留めた。

 てか、俺の意識がない間に白竜さん何したんだよ。


 俺の右腕なくなってんだけど。


 肩から先がガッツリいかれてしまっている。

 部屋のどこにも落ちてないから喰われたんだろうな。

 

 こういうことがあるから狂化は危険だな。

 理性を失う直前に滅茶苦茶能力が上がって強くなるのを感じてるから使ってるけど。

 敵を倒すことしか考えられないから、自分の安全とかが疎かになるっぽい。

 こりゃ、しばらくは封印だな。

 

 お陰で今はボス部屋に座って、腕が生えてくるのを待っている。

 そう、生えてくる。

 ハイオーガになって手に入れた再生というスキルの効果だ。

 こんなデカい怪我ははじめてだったから治るか不安だったが、大丈夫そうだな。

 

 あと少しで完全に治りそう。

 このスキルがあるお陰で治癒の方は完全にお役御免状態だ。

 

 それにしても強かった。

 このダンジョンの中で一番強かったんじゃないだろうか。

 100層のボスは伊達じゃない。


 俺の目の前には、大きな魔石に宝箱。

 そして、下へと続く階段がある。


 まだ、先があるのか、それとも……。

 

 考えなくても、進んでみればわかることか。

 今は回復するのを待とう。

 もうめっちゃ疲れた。


 しかし、これだけ頑張って倒したというのにレベルはマックスで経験値は無駄になるんだよなぁ。

 非常に勿体ない。

 かなりレベル上がりそうなのに。


 経験値無駄にしちゃって白竜さんにも申し訳ないわ。

 てか、なんで進化出来ないんだろうな。


 俺強くなりすぎちゃったかー。


 はあ。

 なんとか……なんとか友好的な存在が出来ないか。

 一人は寂しい。このままもずっと一人なんてやってられないぞ。

 俺、このダンジョン攻略し終えたら友達作るんだー。

 

 あー、よし!

 暗いこと考えてたって何の意味もない。

 

 宝箱あけよう。

 この時間がダンジョン攻略唯一の癒しといっても過言ではない。

 ここまで来て罠とかはないだろ。

 罠あったら泣くわ。

 何が入ってるかなー、っと。

 

 小瓶?


 摘まみ上げて顔の近くで見てみると、栓で蓋された小瓶の中で光る玉がフワフワ浮いている。

 綺麗だな。

 俺が持っていると力加減誤って割ってしまいそうだ。

 

 これ、何に使うものなんだろうか。

 スキルオーブみたいに、何かウィンドウが出てくるわけでもないし。

 

 回復薬みたいな物か?

 いや、ショボいな。

 100層のボス報酬がこれって……。

 

 まあ、使い切りっぽいし、アイテムボックス行きだな。

 

 宝箱の中はこれだけか。

 もっと良い物入ってるのかと期待してたぜ。


 で、あとは白竜の魔石か。

 とても澄んだ輝きを放っている魔石。

 

 今までのどのモンスターが落とした魔石よりも綺麗だった。


 魔石は、倒したモンスターが強ければ強いほど綺麗だ。

 含まれる魔力とかが関係しているのかもしれないが、くわしいことはわからん。

 弱い奴が落とした物は濁っていたり霞んでいる。


 で、白竜の魔石は、恐ろしく綺麗だ。

 あのドラゴンの鱗のように白く澄んでいて、圧倒される。

 周囲に溢れ出るオーラが他の魔石とはけた違いだ。

 

 それだけ、あの白竜が強かったということだろう。


 それにサイズも大きい。

 あいつデカかったもんな。

 

 未だに何に使えるのかわからないが、しっかりとアイテムボックスで回収しておく。


 残るは階段。

 部屋の奥にある下へと続く階段だ。


 俺を助けてくれたあの声の人には悪いが、この先もまだダンジョンが続いているようなら一度戻って外へ行こう。

 折角異世界に来たっていうのにずっとダンジョンの中だし。これ以上ダンジョンに潜り続けたら、精神的に参ってしまいそうだ。

 それに、これ以上モンスターを倒しても経験値が無駄になってしまうからな。


 チラッと様子を見て、それから考えよう。


 よし、行くか。

 気を引き締めていこう。

 階段の造りは、今までとあまり変わりない。



 特に気負わずに階段を下っていたんだが。



 階段を降りた先にあったのは、扉。

 またボス部屋、じゃないよな?

 流石に違うだろう?

 開けてみるしかないが。

 

 扉を開けて、中を覗く。

 さっきのボス部屋よりも狭く、簡素で殺風景な部屋。

 

 あるのは、部屋の真ん中に豪華な台座。

 その上に置かれたドデカい真っ黒な水晶。


 一目みて、理解した。

 

 ここがダンジョンの最奥。

 そして、この水晶がダンジョンの親玉だ。ダンジョンの核、コアとでも言った方がいいか。

 感覚で理解できるのは、俺もダンジョンで生まれたモンスターだからなのかね。

 

 ああ、こいつか。

 10層のボスを倒したときに、俺をダンジョンの外へ追い出そうとしてたやつは。

 

 頭の中にはっきりと声が聞こえてくる。

 

『出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ』


 相変わらず出て行ってほしいらしい。

 けど、なんでだろうな。

 あのときと違って、俺を従わせるほどの強制力はないみたいだ。

 

『来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな』

 

 俺に怯えているのだろうか。


『消しておくべきだった消しておくべきだった消しておくべきだった』

 

 お。

 今までと違って、長めの言葉が送られてきた。

 消しておくべきだったってどういうことだ?

 

『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』


 会話できるかも、と思ったが無理らしい。

 随分と直接的な罵倒である。


『人間を殺せ人間を殺せ人間を殺せ人間を殺せ人間を殺せ人間を殺せ人間を殺せ人間を殺せ』

 

 死ねって言ったり、人間を殺せって言ったり、何をしてほしいんだ。

 

 直感で理解した。

 これは破壊した方がいい。

 聞いていて気分のいいものじゃないし。

 

 それにあの人は、これを俺に破壊してほしかったんじゃないか?

 きっとそうだろう。

 

『来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな』


 全力で拳を握る。

 悪いな。


 この世界での俺の生みの親さん。

 恩を仇で返すようで悪いが、破壊させてもらう。

 力いっぱい振りかぶり。

 

『やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめ――――』

 

 拳をコアに叩きつけた。

 

 コアが粉々に砕け――。

 そして、俺は意識を失った。

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