第十話 100層ボス


 俺は、進化に進化を重ねた。レベリングして進化しまくった。

 

 進化は凄まじい。

 それ以前の自分とは、全く別の生物になるのに、生まれた時からその体であったかのように進化後の身体が馴染む。

 進化による力の成長は恐ろしいぐらいだ。

 

 レベルアップでも強くなるが、それとは比べ物にならない。

 進化するだけで圧倒的に力が強くなる。

 

 ハイゴブリンから進化してオーク、ハイオークになったときはゴブリンになったとき以上の絶望したけどな。

 人の形した豚だもん。

 鳴き声ブヒブヒいうし。

 それでも進化して抜け出せると思ってレベル上げまくってたら。

 オーガを経て、現在。


──────

『ヤマト』

種族:ハイオーガ

レベル:80/80

職業:

スキル:暗視 治癒 アイテムボックス 直感 絶倫 嗅覚強化 怪力 頑強 剛力 再生 威圧 狂化 剛腕 炎熱無効

──────


 俺は今、赤ふんの鬼になっていた。

 身長は恐らく3メートル前後。立派な角の生えた赤鬼だ。

 筋骨隆々の巨体。

 もう、ここまでくると何にも負ける気がしないんだよね。大抵の敵ならデコピン一発だ。

 

 オーク以上の化け物になってしまった。

 おい、こんな姿でどうやって人間と友好的になれるっていうんだ?

 結局、ここまで進化しても喋れるようにはならなかった。

 言語によるコミュニケーションも不可能。

 

 しかも、この先の進化はないらしい。

 詰んだ。終わった。

 俺の異世界生活。

 

 もうこんなん。

 勇者に討伐されるやつやん。

 お姫様さらって勇者が助けに来るやつやん。

 いや、お姫さまさらわないけどさ。


 俺みたいなのが人里に現れたら即討伐だろうて。

 俺の見た目威圧感凄すぎるもん。


 進化する度に身体はどんどんデカくなるし。

 ここに来るまでに、ボス部屋にあった宝箱で色んな装備やら武器を手に入れたのに小さすぎて装備できないときたもんだ。不自由すぎて泣けてくるね。

 お陰で丸腰。


 唯一装備できるのは、ふんどしのみ。

 この赤ふん、装備者の身体にあわせてサイズが変わるという異世界仕様なのだ。

 うん、他の装備もそうあってくれよ。


 他の装備は普通に人間用だったよ!

 

 この鬱憤。

 晴らさせてもらおうじゃねえか。


 俺は謎の声を聞いてからどんどんとダンジョンの奥へと進み、現在100層の大扉の前にいる。


 大きかったはずの扉が丁度いいわ、ちくしょう。

 

 さて、気を取り直して何が出てくるかね。

 今まで、身体が炎に包まれたトカゲから巨大な狼まで色んなボスと戦ってきた。

 ちょっとやそっとの相手じゃ驚かないぞ。


 俺が部屋の中に入ると、巨大な魔法陣が光を放って起動される。

 入ってわかったが、今までのボス部屋よりもかなり広い。


 俺としては広い方が戦いやすくて嬉しいがな。

 魔法陣のサイズからして、出てくるボスも相当大きいだろう。


 光が収まったとき、純白の鱗に覆われた巨体が鎌首をもたげる。

 真っ白な美しいドラゴン。

 思わず見とれてしまいそうになるほどに。

 

 まあ、今までいなかったの不思議なぐらいだよ。ドラゴンといえば、ファンタジー世界の定番だろうに、今まで一度も遭遇していなかった。

 白竜は俺を見ると、威圧するように咆哮をあげた。

 

「グオオオオオオオオォォォオオオ!!!」

 

 並みの魔物ならこの威圧だけでお陀仏だろう。

 ただ、俺には効かないみたいだ。伊達に進化たくさんしてきてないからな。

 さて、そっちがそう来るなら、お返しさせてもらう!


「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 負けじと、ハイオーガになって手に入れたスキル威圧を発動する。

 

 俺の全力の威圧にも、白竜が怯んだ様子はない。

 威圧勝負は引き分けか。

 流石に100層のボスまでくると今までのやつらとは違うらしい。


 なら、後は拳でいかせてもらう!

 俺のスキルは、物理特化。

 近づけさえすれば、俺に分があるはず。

 

 走り出そうとする直前。

 白竜の喉元が何かを溜めているように膨らんだ。


 来る!

 

 次の瞬間、視界の全てを光で覆いつくされた。

 全てを焼き尽くす、であろう灼熱の光線。

 それは、瞬く間に俺の全身を覆いつくした。

 

 範囲が広すぎて避ける余裕がなかったのだ。


「グガッ」

 

 ふぅ、あぶなかった。


 炎熱無効のふんどしをつけてなかったらヤバかったろうな。

 地面とか溶けてるもん。

 流石はドラゴンのブレスと言ったところか。


 眩しくて目がチカチカした。

 まさか、ドラゴンブレスを生で見る日がくるとは。

 ほとんど何も見なかったけど。


 ふんどし付けててよかった。

 てか、ドラゴンのブレスに耐えるとかヤバすぎだろこのふんどし。

 耐えてくれなきゃ不味かったが。最悪今ので死ぬか、モロ出しになってしまう。


 よし、次は俺から行かせてもらってもいいよな?


「……ッ!?」


 ブレスの中から無傷で出てきた俺に、白竜は目を見開いている。

 自慢の攻撃を無傷で耐えられたら、そりゃビビるか。


 それじゃ、今度こそ。


「グオッ!」


 白竜が小さく鳴いた。

 瞬間。


 物凄い重さが全身にのしかかる。

 ぐっ、なんだ。


 身体が重い。


 俺のいる場所だけ、重力が何倍にもなっているみたいだ。それぐらい身体が重く感じる。

 

 まさか、このドラゴン。

 重力まで操れんのかよ。

 

 白竜が鳴いた瞬間だからな。

 こいつがこの重さの原因であることは明らか。


 俺が動けなくなっている間に、白竜の前足が高く持ち上がり、勢いよく俺に振り下ろされる。


 くそ、避けられない。


 だが、避けられないなら、殴り返せばいい!

 重いせいでスピードは落ちるが、拳を振るうことはできる。


 拳を握り、スキルで上昇している攻撃力を込めて、振り下ろされた前足を殴りつけた。

 身体は動かしづらかったが、威力は申し分ない。


「グオオォ……」


 俺に前足を弾き返された白竜は苛立たしげに唸る。


 イライラしてるのは俺の方だ。

 身体が重くなったせいで気持ち良く殴れないんだからな!


 ブレスが効かないのは分かっているのだろう。

 あいつは俺の重力を重くして、直接攻撃しにきたみたいだ。


 奴の長い尻尾が持ち上がり、俺に振り下ろされる。

 俺はそれを――。


「……ッ!?」


 両腕を広げて迎え入れた。


 ぐ、滅茶苦茶痛えじゃねえか。

 化け物め。

 しかし、掴んだ。

 振り下ろされた白竜の尻尾を全身で抱き締めてやったのだ。

 絶対に放さないぞ、コラ。

 

 いいか白竜。俺の筋力を舐めるなよ。

 今の俺は筋肉の塊。

 抱きしめた尻尾を、全力で引き寄せ背負い投げのように壁へ叩きつける。


「ゴラアアアアア!!!」

「グオッ!?」


 お、身体軽くなった。

 今ので俺の身体を重くしていた魔法が解けたらしい。

 

 よし、それじゃあ、あとは全力で殴らせてもらうぜ、白竜さんよ。

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