第十四話 地上
コビンちゃん爆誕である。
巫女服少女は、この小瓶から妖精が出てくることを知っていたのだろうか。
知ってたんだろうな。
でなきゃあんなこと言わん。
流石異世界だ。妖精さんまでいるとはね。
あのアイテムは妖精召喚アイテム的な何か、だったのだろう。
にしても可愛いなこの子。コビンちゃん。
凄い小さい。庇護欲そそられる。
食べたいぐらい可愛いってこういうことを言うんだろうか。別に食べたくないけど。
ってか、お腹空いたな。
「ひっ」
「どうした?」
コビンが急に怯えだした。
「やまと、あれ」
言われて、指差した方を見てみる。
こちらに向かってくる人影のようなもの。
えー……あれは。
「ああ、オークか」
数匹のオークがこちらに向かって歩いて来ていた。
ダンジョンの外にもモンスターがいるみたいで一安心だ。
これで外でもレベル上げが出来る。
「こっちきてるよぉ」
俺にしがみついてプルプル震えている。
なるほど、あいつらにビビってたのか。俺には、もう経験値にしか見えない。いや、経験値って言うには微妙に足りないか?
コビンは生まれたばっかりみたいだからな。
ステータスがコビンにもあるならレベル1だろう。本能で恐怖でも覚えてるのかもしれない。
小さな妖精の頭を、安心させるように撫でておく。
「けど、ゴブリンになってすぐに外に出て来なくてよかったな」
転生してすぐにオークなんかにあったら、すぐに殺されてただろう。
ナイス判断だ。俺。
「よし、あいつらで軽く体を動かしておくか」
進化後初戦闘。
鬼人の力を試させてもらおう。
「コビンはここで待ってるか?」
「いやだ、ついてく」
非常に可愛らしい。
まあ、良いか。
「俺から離れるなよ?」
一度は言ってみたかったこのセリフ。
「うん」
先頭のオークへ駆け出す。
「プギィ!?」
走る勢いそのままに胸へと腕を突き刺した。
軟らかい。
ハイオークですらないし、こいつらは俺の敵じゃないな。
胸を貫かれたオークが魔石になって消える。
そういや、この世界の食料事情ってどうなってるんだ?
折角倒した魔物が死体を残さないで消えちゃうんじゃ、食べられそうなモンスターも食べられない。
オークなら豚だし、ギリギリ食べられそうなのに。
「ブヒッ!!」
あー、オークの鳴き声で嫌な記憶がよみがえってきた。
コビンも怯えてるし、お前らは死んでおけ。
「ガアアア!!」
威圧を発動する。
このスキルはこういう雑魚戦闘のときに便利だ。
怯んだ豚どもが、俺から一歩後ずさって固まる。
威圧が効いたモンスターは、硬直して動けなくなるのだ。
強ければ強いほど、硬直はすぐに解けるし、そもそも強い奴に威圧は効かない。ドラゴンとかね。
動けなくなったやつらを順番に倒していく。
もはや単純作業である。
途中で何匹か硬直が解けて襲い掛かってきたけど、もはや動けようが関係なかった。
うん、身体が小さくなったから小回りがきいて戦いやすいな。
相手が弱かったから参考にはならないけど。
ふう。
案の定、楽勝だった。
あっという間に終わったが、やっぱり魔法とか使いたいよなぁ。
デカい魔法が使えれば、こういう豚どもを一掃するときに楽だと思う。
今は一匹一匹仕留めないといけないから、非常に面倒だ。
「やまと、つよい!」
俺の肩に乗っていたコビンが大喜びしている。
ぐ、なんか照れる。
「やまと、コビンとずっといっしょ?」
急に付き合いたての彼女みたいなこと言ってきた。
俺彼女いたことないけど。
「ああ、いっしょだぞ」
俺の方からお願いしたいぐらいだ。
異世界で唯一の仲間だし。
それにコビン、1人にしたらすぐ死にそうだし。
「それがどうかしたか?」
「ちゅっ」
首に何かが当たった。
小さくてよくわからなかったが、これは。
「んふふ~、これでずっといっしょ!」
いや、何をされたかは、明白。
キス、いや、ちゅうだ。
けどなんでだ?
これでずっと一緒の意味がわからない。さっき生まれたばっかりなのにませ過ぎじゃない?
そして、何故だか、ちゅうされた首の右側が熱い。
熱いのだ。
俺は今、炎熱無効のふんどしを履いているはずなのに。
「あ」
「どうしたの?」
とんでもないことに気が付いてしまった。
「今の俺なら、ダンジョンで手に入れた装備が着放題じゃないか!」
「そうび?」
身体がデカかったせいで、かっこよくても着られなかった装備がたくさんあるのだ!
いつまでもふんどし一丁でいる意味なんてない!
そうと決まれば、早速お着換えだ。
アイテムボックスから今まで手に入れたカッコいい装備品を出していく。
まあ、強さ重視で選んだ方がいいんだろうが、こういうのはロマンだ。
今までふんどし装備だけだったんだ。ロマンを求めたって許されるだろう。
似合いそうな組み合わせを吟味して決める。
鎧でガチガチしたのなし。そういうのもカッコいいが、今は別のだ。
「これと、これは合いそうなだな……うん」
しばらく悩んだが、決まった。
ついにふんどし卒業である。
ふんどしは中に履いたままだけど。
脱ぐというには、装備の効果があまりに強すぎる。
選んだ装備を順番に着ていく。
ふんどしの上に履くのは、動きやすい黒のカンフーズボンみたいなの。特殊効果はないが、とにかく頑丈。
上に着るのはシンプルな白い服だ。地味だが、これも生地が頑丈なのに触り心地滑らかな不思議素材。
最後に赤と黒の派手な上着を羽織って、完成だ。カッコいい羽織だが、因みにこれも特殊効果はなし。
ただ、鬼感があって良い。
全身、完全に俺の趣味である。
特殊効果のあるアクセサリー類は、付けなくても困らないし、今のところ放置である。
今までもつけてこなかったしね。
「コビン、似合ってるか?」
「うん、かっこいい!」
コビンに太鼓判を押してもらって満足である。
「ってか、コビンそれ持ってどうした?」
俺が着替えてる間に、コビンが自らの身体ほどの大きさの石を持っていた。
先ほど倒したオークの魔石だよな。
「おいしそうだったの」
「美味しそうって、それは食べられないだろ」
「たべれるよ!」
そんな事言ったって明らかに口に入らないだろ。
「こうやってたべるの」
そう言いながら、コビンがオークの魔石を強く抱きしめた。
すると、鈍い輝きを放っていた魔石が色を失い、普通の石と変わらない見た目へとなってしまった。
「は?」
「おいしかった」
ポンポンと自分のお腹を撫でてるコビン。
コビンが今、『食べた』らしい魔石を手に持って見てみる。
魔石特有の不思議なオーラがなくなっている。
色もなくなってるし。
もしかして、中の魔力を吸い出したのか?
そんなことできるのか?
現に魔石が普通の石になっちゃってるしな。
考えたこともなかった。
妖精ってすごいんだな。
まあ、しばらくコビンのご飯には困らなそうだ。
大量の魔石がアイテムボックスの中に入ってるからな。
「もういいのか?」
「うん、おなかいっぱい」
残った魔石を回収しようとしたが、全部普通の石になっていた。
俺が装備に悩んでいる間に食べていたらしい。
少し驚いたが、気を取り直して行くか。
恰好も整えたし。
「コビン、俺にしっかり掴まってくれ」
「わかった」
コビンなら羽があるし、自分でもいけるだろうが、途中で疲れちゃうかもしれないからな。
俺の肩に乗ったコビンを確認して、上を見る。
ようやくだ。
ダンジョンで生まれた俺の異世界生活がようやくはじまるんだ。
壁を蹴り、谷を登っていく。
今の身体能力ならこんなことも出来る。
角が生えてるだけで人間に戻ったみたいな気がしていたけど、人間をやめてるのは変わらないらしい。
少しずつ地上に近づいてきたな。
「……ん?」
なんだろう、違和感を覚えた。
言葉で言い表せない何か。そんなわけないと、頭の中で否定する。
切り替えて進んでいく。
高かった崖も、そろそろ登り終わる。
最後の跳躍を終え、地上にたどり着いた。
「は?」
言葉が出なかった。
俺は今、猛烈に混乱している。
理解が追い付かない。
どこだ。
ここは。
いや、知っている場所だ。
なんで、俺はここにいるんだ。
だって、俺は今、ダンジョンから出て来たんだぞ!?
ついさっきも谷の底でオークを倒した!
「……っ!」
「やまと?」
振り返って、気付いた。
気付いてしまった。
この崖は――。
「俺が、落ちた場所だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます