第八話 元同族

 うーむ。

 8匹ぐらい倒してようやくレベルアップか。

 進化してから初のレベルアップである。


 階段を降りた先、2層目とでも言おうか。

 そこでも俺はデカネズミを狩っている。


 2層には出てこないと思っていたら、いた。普通にいた。めっちゃいた。

 元気に飛び掛かってきます。


 全力で殴ると、心臓に悪い光景になるから力加減が大変だ。

 すぐ消えるからいいんだけどね。



 2層目では、デカネズミ以外にもモンスターがいた。

 強さは、デカネズミと同じぐらいだが。


 おっと――。

 滑空してきたそいつの攻撃を避ける。

 襲ってきたのは、少し大きめのコウモリだ。


「シャッ!」


 もう一度、滑空してきたところへ手刀を振り下ろす。普通にチョップだ。

 手加減しても一撃で倒せる。

 降りてくるまで倒せないのが厄介といえば厄介か。


 だが、ネズミ同様俺を一目見るとすぐに襲い掛かってくるから問題ではない。

 

 このコウモリ、大きいには大きいが、外国にはこれぐらいのサイズが普通にいたような気がするんだよな。

 本当に魔物なんだろうか。


 いや、普通の動物は倒してもドロップアイテムなんて落とさないしな。

 こいつもネズミと同じく、ちゃんと魔石を落とす。

 一応アイテムボックスに仕舞っているが、何かに使える日が来るのだろうか。

 余裕が出来たら、何か試してみようかね。


 こいつとネズミあわせて8匹でようやくレベルが2に上がった。

 

 慢心してるわけじゃないが、強くなり過ぎたのかもしれない。

 いや、どちらかというと、ここに出てくるモンスターが弱いのだろう。

 ホブゴブリンという種族の強さに合っていない。


 元々、ゴブリンだったときにもネズミ相手に苦戦とかはしなかったからな。進化してより差が開いてしまった。

 もっと強い相手と戦わないとレベルは上がり辛いのかもしれない。


 さっさと進んでしまおう。

 

 出てくるモンスターは変わらないし、ひたすらそいつらに手刀を食らわせていくだけの簡単なお仕事だ。

 ドロップアイテムを回収することも忘れない。


 アイテムボックス便利すぎだ。


 あら。

 しばらく戦っていると、すぐに下へと続く階段を見つけた。

 罠部屋もとい宝部屋って毎回あるわけじゃないんだな。

 

 大量のモンスターと戦うのは面倒だが、良いアイテム手に入るしなぁ。

 あったら積極的に開けていきたい。


 さて、3層目にはどんな魔物がいるかねぇ。

 深く考えずに、どんどん進んでいく。


 どの道、モンスターなんている世界だ。強くならないと死ぬ。

 それなら積極的に戦って強くなった方がいいだろう。


 

 うおっ!?


 3層目にして、俺は初の同族と遭遇した。

 いや、元同族か。

 小学生ぐらいの体躯に、緑色の肌。頭には小さな角が二本。

 ゴブリンだ。


 うわぁ、なんか感動だ。

 今までデカいネズミやらコウモリとかと戦ってきたから、定番のファンタジーモンスターに出会えて興奮する。


 まあ、俺もついさっきまで同じ種族だったんだけどね。

 自分がなるのと、正面から見るのでは違う。

 

 「グギャッ!」


 お。

 俺に気付いたゴブリンが、一目散に走ってくる。

 うん、ブサイクー。

 

 俺の知識と遜色ない見た目をしていて、その顔は酷く醜い。

 なんだか、俺もそんな顔をしていたのかと思うと、急激に萎えてきた。

 大口開けて息を荒く走ってくる姿は、鳥肌が立ちそうだ。


 ホブゴブリンになったとはいえ、顔はあんまり変わってないだろうしな。

 まあいいや。すぐに進化してゴブリンは卒業してやる。

 

 そして、新たに気付いた。

 このゴブリン。

 武器持ってやがる。


 武器とはいっても、ただの木の棒だ。

 しかし、武器があるのとないのとでは、戦いやすさが段違いだ。

 

「グゲゲ、グギャ」

 

 やあゴブリンくん、出来たらその武器もらえないかなって。

 そんな気持ちを込めて鳴いた。

 

「グギャ!」

 

 ゴブリンは、持っている木の棒を俺へと振り下ろしてきた。

 ああ、対話とかなしね。

 元同族だからといって、意思の疎通は無理らしい。ま、ですよね。

 

 大振りで、避けるのは簡単だ。


 こいつなら大丈夫だろう。全力で殴っても。

 それに手加減して負けたら目も当てられない。


 ゴブリンの攻撃を避けて、殴りつける。


「グギャッ!?」

 

 ぐっ、頭かった。


 頭を殴ったが、滅茶苦茶固かった。

 石殴ったのかと思ったぞ。うん、次からは気をつけよう。


 しかし、俺の拳をくらったゴブリンは一発で吹き飛んで、ピクピク痙攣していた。

 

 元同族だから警戒していたが、そこまで強くなかったな。

 やっぱり、この世界でもゴブリンは弱いらしい。

 

 最初に遭遇したのが、ネズミで良かった。

 でなきゃ進化するのにもっと苦労していただろう。もしくは簡単にやられていたかもしれない。

 

 俺も、もっと強くならないとな。

 ゴブリンにはしっかりととどめをさす。


 しかしながら、ぐへへ。

 これでようやく俺にも武器が……ってああ!

 ゴブリンが持っていた木の棒も、ゴブリンの死体が消えるのと同時に消えてしまった。

 ドロップしないとダメなのかよ。


★★★



 ゴブリンの持っていた木の棒は、ゴミだった。

 一度だけドロップしたが、他のゴブリンを殴ったらすぐに折れてしまったのだ。ゴミだ。

 俺の喜びを返せ。


 それ以来、謎の石と一緒にアイテムボックスの中に収納だ。

 ここに来るまで、結構な数を収納してきたが、限界とか来ないのだろうか。


 俺は今、9層目まで来ている。


 レベルを上げるのに熱中してたら、めっちゃ進んできてしまった。

 ここに来るまで、特に目新しい物はなかったしな。

 出てくるモンスターも、そこまで強くなかった。


 いや、6層目から出てくるようになったスライムは厄介だったな。

 ねばねばしたジェル状の身体で襲い掛かってくるのだ。

 触れると身体が溶ける液体を飛ばしてくる。


 身体の中に浮いてる核を潰せば倒せるからいいが、そのためにはスライムの身体に手を突っ込まなきゃいけない。

 

 身体そのものが酸みたいな物で出来ているのか、手を突っ込むと皮膚が軽く溶ける。

 手がヒリヒリして火傷状態だ。

 治癒で簡単に治るが、遭遇する度に治癒を使わないといけないのが面倒くさい。


 そいつ以外は特に面倒くさいのもいなかった。

 結局、宝部屋も最初の一層にしかなかったし、非常に残念だ。


 そろそろ何もないようなら、一旦引き返して地上を目指すのも考えたが、それはなしにした。

 このダンジョンはレベル上げに丁度いいし、地上に上がらないといけない理由もない。

 

 いや、普通なら地上へ行く必要があるだろうが、俺はとんでもないことに気付いてしまった。

 

 不思議なことにゴブリンへと転生してから、お腹が空かないのだ。

 食べようと思えば食べられると思うんだがな。

 空腹を全く感じない。

 食べられそうな物がこのダンジョンにはないし、お腹が空かなくて助かった。


 お陰でここまで何も食べずに進んでこられた。


 9層を攻略し終え、階段を降りていく。

 それにしても、このダンジョンどこまで続いているのだろうか。


 辿り着いた10層目。

 今までは、出てくるモンスターに違いはあれど、ダンジョン自体に違いはなかった。


 しかし、10層目は違った。

 豪華な扉。ただ、それだけがある。


 宝部屋との違いは、その扉以外に進む道がないこと。

 あるんじゃないかとは思っていたが、今までなかったからないのかと思っていた。


 いわゆる、ボス部屋だ。

 開けてみるまでわからないが、今まで階段の先にこんな扉なかったしな。


 早速、扉を開けて中に入ってみたい。

 っとその前に。


──────

『ヤマト』

 種族:ホブゴブリン

 レベル:20/20 ☆★

 職業:

 スキル:暗視 治癒 アイテムボックス

──────


 進化するか。

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